再び単独行動
光とマダムに見送られ、バーを出た俺は現在、予定を変更して商店街の服屋に立ち寄った。
これまで着ていたのは、演劇部の部室で見つけた時代劇用の着流し。
学校では気にする必要もなかったが、人前に出るなら目立ってしまうと思ったからだ。
「こんなもんでいいか」
適当に選んだのは、動きやすさ重視で少し余裕のあるズボンとトランクス1枚。
そしてTシャツ1枚と薄手のジャケット1枚だ。
オシャレかどうかは別として、外を出歩いてもおかしくはない。
……ここはまだ安全そうだし、今のうちにステータスを確認しておくか……
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名前:佐藤浩二
職業ジョブ:異端者
スキル:スライム化(現在2種)・※喧嘩殺法Lv2・投擲Lv3・隠密行動Lv3・
気配察知Lv2・地図化Lv5・道案内Lv3
称号:幸運・卑怯者・外道・暗殺者の才・虐殺者・狂戦士の素養・●●●●●●●
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新しいスキル、地図化と道案内が増えている。
光のナビをしてたからだろうな。頭の中で地図も作ってたし……!!
そう納得しかけた、次の瞬間。
頭に描いた地図や、実際に通った道が、鮮明に頭に浮かぶ。
道具があれば紙に書き起こすこともできそうだ。
「これが“地図化”の効果か。便利だな……」
新しいのにやたらレベルも高いし、“暗殺者の才”の斥候系スキル成長補正も受けていそうだ。
「……ステータス変化はこのくらいかな」
あとは出発の準備というか、3つほど実験をしてみたい。
昼にはスライム化と石化を応用して、家の防犯対策をした。
それをさらに応用するようなものだから、できるはず……
まず右腕をスライム化して、重力に従って肩から先をダラリと下へ。
そのまま伸ばしていって、地面までまっすぐに。手頃な棒状に。
最後に先端を意識して、全部の指をピンと伸ばす感じで、槍のように。
イメージが固まったら先から石化し、肩のスライム部分で切り離す!
「……成功だな」
切り離された腕は“石でできた槍”と言って問題のない形になっている。
少し不恰好だけど、ちゃんと武器としては使えそうだし、慣れれば他の形にもできそう。
肩から先も多少養分を消費するだけで、すぐに再生したので問題もない。
“石武器作成“とでも呼ぼう。
そして次に、接近戦の要である“デュラハンモード”になってから、“皮膚”を石化。
こうすれば防御力がさらにアップ! ……は、してるんだろうけど……
(やっぱり事前に試しておいてよかった)
確かに防御力は上がるだろうけど、皮膚全部を石化したら動けなくなった。
関節がまったく動かない。
ストーンスライムの体として意識すれば一応動かせるけど、人間の筋肉や関節の動きには圧倒的についていけず、錆びたロボットみたいな動きになってしまう。戦闘を考えると致命的に遅いだろう。
関節部分は人間の皮膚にした方が良いな。
石の重さは感じるけど、皮膚だから動きが制限されないだけマシだし。
あ、あと体内の核もストーンスライムのように、石の体で覆っておこう。
先日のように、抱きしめられた程度で潰れて死ぬ恐怖はもう味わいたくない。
……こんなもんかな。
ストーンスライムの能力で強化したデュラハンモード。
これは今後、|デュラハンモードVer.2《バージョン2》と呼ぼう。
そして最後は、俺の基本戦法となる遠距離攻撃の強化。
先日拾った漫画によると、スリング(投石器)という原始的な武器があるらしい。
それを真似て、右手首から先をスライム化。先端で拾っていた小石を包み込み、振り回す。
そして勢いをつけて、離す!
「おお……」
飛んでいった石は店の壁に当たり、大きな凹みを作ってしまった。
さほど大きくない石だったけど、この威力。腕力で投げるより遠くへも飛ばせそうだ。
それに万が一途中で敵が近づいてきたら、そのまま敵に叩きつけてもよさそう。
そうならないことが理想だけど、あらゆる距離に対応できることは大切だ。
弾となる石はそこらで拾ってもいいし、養分さえあれば俺の体からいくらでも作れる。
そう考えると投擲は俺に最適な武器かもしれない。
スライムの能力、槍、投石、これが今の俺の武器。
これで倒せるモンスターは倒しながら、光のいたグループの拠点へ向かおう。
■ ■ ■
……そんなことを考えていた10分前の俺に、この光景を見せてやりたい。
「あれは勝てないな」
自然と乾いた笑いが出てしまう。そんな俺の目に映るのは、巨大な牛のモンスター。小学生の頃、林間学校か何かの牧場見学で乳牛を見た記憶があるけど……モンスターの体格はその5倍はあるし、蹄と角が金属のような光沢を放っている。
一歩、また一歩。あいつが何気なく歩くだけで、道路が割れていく。
軽く虫を追い払うように頭を振るだけで、角が接触した地面を抉る。
あの蹄と角にかかれば、俺の防御力は紙のような物に思えてしまう。
あと、投石もほとんど意味がなさそうだ。
しかもそんな牛のモンスターが、この辺にはゴロゴロいる。
俺じゃ1匹でも勝ち目がなさそうなモンスターなのに、奴はこの辺では雑魚なのだ。
まぁ、俺1人なら気配察知で慎重に、見つからないように進めばいいのだけれど……
「問題は、光の家族を連れて来るってなった時だよな……」
光の話だと、母と姉の2人はステータス持ちじゃないそうだし、戦闘能力は期待できない。
俺を抱えて移動してもらうとしても、声での指示が必須。索敵能力は全力を出せなくなる。
そして敵に、あの牛に一度でも見つかったらアウトと考えたほうが良いだろう。
牛は足が遅いイメージがあるかもしれないが、本気になると意外と速いと聞く。
「今は目的地へほぼ直進してるけど、帰りは迂回する方がいいかな……」
いや、迂回した先が危なかったらしょうがないな……
どこか抜け道のような物があれば……って、そんな都合よく……あるかもしれない……
“抜け道”と考えたから地図化と道案内が反応したのか、頭の中に浮かぶ地図。
気配察知で感じる気配を元に作られたその地図には地下……つまり地面の下にある、下水道の地図が描かれていた。
もちろん気配を感じられる範囲の不完全なものだし、地下にもモンスターがいるかもしれない。しかし、地上を歩いて牛のモンスターと遭遇するのは避けられる。
……一度、入って様子を見てみようか……




