うわー
北の森につくとクエスト用紙を見ながら罠にかかっているところへ行き、順調に討伐をおえ解体をすませると午後の5時半になった。秋の中頃なので暗くなりはじめている。夜の魔物はモノノケジカやスモウトカゲといった体長1メートルほどしかなく注意すべき点が0か1つしかないザコとは違い、まだ詳細が不明である魔物の食物連鎖の上位陣が活発になりはじめる時間帯なので、さっさと町へと帰るのにかぎる。
私が帰り支度をすましいざ帰らんとしていると、比較的近くの方の木々が猛烈な速度で倒れながらこちらに向かってくるのが分かった。身構えたところで無駄なのでとにかく走っていると5秒後に私がさっきまでいた開けた場所に、体長は5メートルはある目や鼻のないグロテスクな顔をした魔物が現れた。
いやよく見えてるとカワイイかもしれない。ビジュアルはモグラ科そのものなのだが、モグラ科の特徴の1つしてある管状の鼻面がなく顔がまんまるなところと、全体をヌメヌメとした毛で覆われているところが違いだ。
やはり目がみえないのかあたりを無造作にキョロキョロして獲物を探しているようだ。しかしモグラっぽいくせにわざわざ地上を走ってくるとはハンターとして興味深い。いったいどんな生態なのかと気になってしまう。
とりあえず私は走るのをやめ、使っていた火の燃え後に反応をしていないあたり熱による探知ではないし、私が走っていたことから音による探知でもないことを観察した。あとに考えられる要因としてはニオイぐらいなわけだが……。
ヤバいと思って再び走る。ヌメヌメモグラは地面を掘り掘りして体の半分を土に入れている。やっぱりだと思ったそのとき、モグラがやってきた方向から理解したくもないような形をしたこれまたヌメヌメとしたヤツがドワッとでてきた。触手だ。
モグラはタコのような触手に掴まれると足をジタバタとさせていたが抵抗虚しく宙に浮き、暗い森のなかへと吸い込まれていった。
考えたくもないので前をむいて帰ることだけに集中して走り出す。もう夜の森はゴメンだと思うと、後からドカンと音がなった。振り返ってみると、上にヘンテコな形をした人工物が浮いており何かを放って、モグラが吸い込まれたところを焼き野原にしていた。
焼き野原の中を注意深くみてみると、白くヌメヌメとしたなめくじのような胴体にちょこんと飛び出たような肢体でたっているタコの頭をもったヘンテコな形をした生き物がいた。その生き物は空中にいる物体を睨みつけて、触手を飛ばしそれを捕まえた。
私は勝てる見込みはないが助けることはできると思い、救助へと向かう。物体は落とされないようにグラグラと揺れながら黄色い光線をだしては見当違いの方向へと行き凄まじい爆発を起こしている。あれはいったいなのなのか。しかしあの生物はあれを喰らって生きていたのか。
私が駆けつけるまであと半分といったところで、とうとう触手に力負けしそうになった物体から2人の人影がフワリフワリと飛び降りて、こちらの方に急接近してきたかと思うともう隣にいた。
「おい、何なんだアイツは?」
物騒な鋼鉄の機械がガコンガコンと折りたたまれながら、白衣姿の黒縁メガネの老人は私にきいた。
私は呆然としながら
「わ、わかりませんが、勝てないなら一緒に逃げまか」
と提案をすると白衣の老人は地団駄を踏んだ。
「ならんならん。ワシはなんとしてもアイツの体内にあるモグラの粘液が必要なんだ!」
なんだ。けっこう魔物に詳しい人なのかもされない。とりあえず
「作戦はあるんですか?」
と聞くときつぱりと否定された。
「じゃあさっさと逃げましょう。死んだら元も子もありませんから」
「ワシは天才だぞ! おい!助手!」
そういうと老人の背後からぬっと10歳ぐらいの男の子るがでてきてバッグのなかから銃のようなものを取りだしそれを老人に渡す。チラチラと私をみてきて不思議に思ったが引きつった笑顔で挨拶をしてきたので、チェリーらしい。
「科学の力を思いしれ!」
老人はブランコのように触手を配置し遠心力によって移動してきている生物に向かって引き金を引くと、大魔術をみているかのような巨大な緑色の光線をだし、軽く奥行き100メートル、幅30メートルを跡形もなく消し飛ばしてしまった。
私が驚きのあまり愕然としていると、老人が「ぬわわわわわわわおおおおわわわわ!!!」と叫んだ。なるほど、モグラの粘液を回収できなかったのだ。
そんな絶叫している老人を呆然としてみていると急に叫ぶのをやめこちらの方を向いた。
「おい! モグラの生息地はどこだ?」
私は知らないのでそう答えると
「やはりこの時代は未開だ! まだ農業に馬を使っているし、この女の武装は剣と来ている! オーマイゴッド!」
何を言っているか分かったようで分かっていないが、魔法を使うのに銃が不憫なだけで未開であるわけがない。
「いや待て! ならどうしてあの得体のしれない気色悪い生物がいる世界で人類が生きているのだ。…わかったぞ。夜は出歩けないのだな!」
ご明察です。
「ならば、あー」
「ハルカです」
「ハルカくん。不自然なボコボコを普段行く行動範囲でみていないかね?」
心当たりならある。と入っても昼夜禁止区域の近くな上にさっきのモグラの巣であるような気もするので、そう伝えると、じゃあその禁止区域に案内しろと言われた。
「いやです。その先はどんなに屈強なハンターや騎士協会の大隊でも一人残らず帰って来れない魔境なんです」
「天才に不可能はない。なら地図をかけ」
私はふとあたりを見渡すと真っ暗であることに気がついた。ならばと
「私がこの山を降りるのを手伝ってくれたらいいですよ」
と取引を持ちかけると老人の顔が意地悪に歪み思わず後退る。
「ワシたちと一緒にこい。ぬしは一人で降りられないのだろう?」
ひっひっひと笑っている。私は思わず頭をおさえる。
「ほら、プルートいくぞ」
というと男の子はチラチラとこちらを見ながら老人とともに禁止区域とはまるで違うところに行ってしまう。どうやら行くしかないらしい。ここでの単独行動はあまりにも危険すぎる。
「そっちじゃない。こっちです」
と行って私が率先して行くことにした。
北の森の奥深くにて
「くそっ」
リンゲスは全長15メートルはある木の上にのぼり、そこで夜があけるのを待つことにしたが、なぜギルドの罠の位置を全て暗記しているのに道に迷ったのかが分からなかった。ひょっとするとここは禁止区域なのではないかと思うと夜が明けたからといって何かが変わるわけではない。それの木も安全であるかも分からなかった。彼は自分が筋金入りの方向音痴であることを認識していなかった。
「とりあえず今日は徹夜しよう」
ふとリンゲスは思った。北の森にこんな大きな木があったかと。リンゲスは頭を抱えて一人泣いた。