ウザっ
両足を組んでテーブルの上にのせている金髪ロングの色男は座っている椅子をくゆらせながら言った。
「ああ、働きたくないねえ。この美貌に免じて誰かヒモにしてくれないだろうか?」
この問答を一体何百回繰り返したことだろうか。
「そんな風に同じ話題しか話せならいつまでも夢のまた夢ね」
じゃっかん本気で呆れながら私がそういうと
「大丈夫だ。キミのヒモになりたいとは思わない」
と爽やかに言われたので、こちらも願い下げだと思いながら
「心の底から嬉しいわ」
と爽やかな笑顔で言っておく。するとキンブレルは「ふっ」と鼻で笑ったのでいっかい死ね。
「ところでハルカ、あの美しい水色の髪をした女は今度いつ会えるんだ?」
ヴァシリーのことだろう。それならキンブレルもしっているはずだが彼女はこの地区のギルドの所属ではない。なので今度会うのはまた次の合同演習ということになる。ひょっとして私がヴァシリーと仲良く話をしていたから今でも交流があると思っているのだろうか? なんておめでたいやつなんだ。
「次の合同演習まで待って運よく彼女のチームとペアになれることを祈ってれば?」
「ふっ、運命はボクらを待っているに違いないさ」
あまりに爽やかに、そして淀みなく言うので
「誰もアンタを待っちゃいないさ」
と言葉がつい出てしまった。幸い小さい声だったのでキンブレルには聞こえていないだろうと思い、横を向いて澄ましていると
「お前のこと「は」誰も待ってはいないだろうね」
と言われた。言い返すだけ無駄なので黙っておく。水に溺れてしまえばいいのに。
「女にそんなこと言うやつは待たれねえよ」
やはりリンゲスはいいことをいう。
「オレみたいなナイスガイを待つんだ」
隣に座っている細マッチョで雪のように白い肌をもっているこいつは違って、リンゲスはちょいゴリマッチョでテカった褐色肌をもっている。いつも笠帽子を深く被っており、鋭い眼光に精悍な鼻と引き締まった頬、そして男らしい髭。帽子を外すと強面なのかと思ったが爽やかイケメンすぎてビビズッキュンしたのだが、いつの間にか隣のやつとどちらがカッコいいポーズをとれるか大会をしている。ダメだこいつ。
「ところでハルカくん」
黄土色の着物を脱ぎ捨て袴いっちょになったリンゲスが言う。
「くんじゃねえし」
小声でそう悪態をつくと
「そんなのはどうでもいいことだ。オレたち二人が狙っているのはヴァシリーだけだからだ」
さらっとイラッとくることを混ぜられつつ、二人が恋のライバルであることを知った。
「彼女は私たち二人の勇気ある行動力、そしてボクたちの強さに見惚れていた」
いやあの訓練中、ただあなたたちが面白いからって笑っていただけでいちいちザコ敵を倒してカッコつけているお茶目さんぐらしか思われてないと思う。
「カノジョはボクのような華麗な紳士が好きなのだよ」
キンブレルはそういうとフィギアスケーターのような上着を脱ぎ捨てて上裸になった。はたして今の自分の姿をみて紳士と言えるのだろうか?
「ふっ、紳士が上裸になるものなのか? オレは戦士だから関係ないけどな」
ただの蛮族です。
「ふふっ、ボクのように美しいボディは芸術品だから紳士になるのだよ」
ただのナルシストです。
「ふふふっ、」
あー、エトセトラエトセトラと私は彼らに向かって歩いていきキンテキを入れる。大袈裟に崩れ落ちるのかと思ったが静かにうずくまっていった。
「ナニをする」
お前たちがナルシストすぎたのだ。さっさとクエスト内容を話さんかい。
「ほらっ、リンゲス」
私が話したくないので手を出すとリンゲスは苦しそうな目でしばらく見つめていた。私が早くしろよと手を前にだす仕草をして催促をすると
「金たまならやらんぞ」
と頓珍漢なことを言ったのでしばき倒して、彼のポケットからクエスト用紙を取して読んだ。
ふむふむ。なるほど、北の森でモノノケジカを3体とスモウトカゲ5匹の討伐か。リンゲスはのびているので使い物にならないかもしれないが、キンブレルがいるのでこの程度ならすぐに終わるだろう。
クエスト用紙をズボンのポケットのなかにしまうと甘いニオイがすぐ後ろから匂ってきたので振り返るとキンブレルの顔がすぐ近くにあった。いくらタイプでないとしても、キリッと真っ直ぐにのびた妖艶な目、スラリときれいに整った鼻に、ちらりと鮮やかなピンク色をのぞかせる薄い唇。こんなのが目の前にあったら少しばかりドキッとしてしまう。
キンブレルはそれに気づいたのかふっ笑って長い髪の毛をかきあげると
「そんな凶暴だからモテないんだぞ」
とウインクしながら言ったので顔面にグーパンチを入れてやった。キンブレルをみてみると床でのびている。腕時計を確認すると時刻はまだ午前の九時だ。「はあ」と大きくため息をつくと、私は一人でクエストをこなすために北の森へと向かった。きっと夕方には終わるはずだ。
ハルカが北の森に行ったあとのギルド酒場にて
「あの怪力女ホント、かわいくねえよな」
繊細な美貌に似合わなずブサイクに声を荒げながらキンブレルはリンゲスに言った。リンゲスはぐいっとジョッキをあおると
「全くだ。しかしだな、オレたちはここにいていいのか…」
としょんぼりして言った。それをみたキンブレルはちょっと顔を斜め左にして少し考えていたが、ふとびっくりするような声でワハハハと笑うと
「いや大丈夫だ。オレたちは組んで3年になるがアイツは強い。それだけは分かっている。昼間から飲んでたって大丈夫さ。アイツには言わなかったがアイツはヒモとしての価値ならある」
リンゲスは立ちあがると
「もしものことがあるかも知れん。オレは行く」
と駆け出して行った。キンブレルは「おいっ!」と止めようとしたがリンゲスはタタタタタと去ってしまった。
「ちぇっ、1人で飲めってのか」
キンブレルは机の足を蹴るとあたりを見渡すと、目をカッと見開くと吸い込まれるようにその方向に行き、これから席につこうと店員に案内されているセクシーな2人組の手をとって
「これから飲まないかい?」
と言った。2人組は目を合わせて笑うと
「あなたの奢りならいいわよ」
と片っぽうが言うと彼のこころの中のオークが鼻息を荒くした。
キンブレルは2人のあいだにぬるりと割ってはいると、後ろからそれぞれの肩をもち、テキドにニヤけながら自分の座っている席へと案内をした。