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語られない物語  作者: 流丸介
1/1

~栄誉の職業~

 はい! どうも、三本目です。

 短編ですがシリーズものになりますので、連載のタグにしております。


 これも、昔書いたヤツのリメイクになりますが、ほとんどプロット状態の文章だったものを、清書してみました。

 同様、これを見ていただいた読者様の暇が、わずかにでも有意義な時間であることを願います。


 この物語で言う職業は、いったい何なのか、是非推理しながら見ていただけると嬉しいです。

 それでは、語られない物語、どうぞ――。

 よくあるロールプレイングゲームの町々には、必ずと言っていいほど高確率で存在する職務があります。

 武器屋? 道具屋? 宿屋? いいえ違います。

 その職務は何なのか。

 それには、どうやってなるのか。

 それでは、その就き方を少し、覗いてみましょう……。


「今年は、私が――!!」

 ここはテキトの町。

 今日は年に一度の、この町でとても重要なオーディションが行われる日だ。

 並居る町の有名人や権力者がライバルとなる中、厳しい審査を通過した優勝者ただ一人のみが、向こう一年間この町の“顔”としてその職務に就くことを許される。

 この町に住むハルカ・トトも、そのオーディションを受ける一人だった。

 生まれて十七年。それが職業であると知ってから、雨の日も風の日も、その仕事についているセンパイ達を見て、そのかっこよさに憧れを抱いていた。

「な……なんて数なの……?!」

 会場となっている町の広場につくや否や、ハルカはその活気に驚愕した。

 いつもは買い物帰りのおばちゃんの井戸端会議や、老人たちの日向ぼっこスペースになっているその広場は、城下町と見まごうほどに賑わいを見せていた。

 といっても、この職務はそこまで人気というわけではない。

 普段であれば、物好き五・六人が集まる程度なのだ。


 しかし今年は違った。


 直前に、伝説の勇者様一行が隣国を出立したという噂が立ったのだ。

 とくればまず間違いなく、今回の任期中に勇者様一行がこの町に来訪するだろう。

 皆、勇者様と会話したい、その下心から、今回のにぎわいとなっていた。

「私だって、この日の為に毎日努力して来たんだから! 絶対に負けられない!」

 ハルカも、そんな下心があることは否定しない。勇者様一行が来訪したその時に、私がこの役目を果たすなんて事になれば、それほど素晴らしい事はないのだから。


「あら? ハルカさんではございませんの」

 ハルカがそのシーンを想像していると。不意に声をかけられた。

 振り向いてみると、卵色のドレスに身を包み、背後にメイドを従えた貴族の美しい女性が立っていた。

「わ! クリスティーナお嬢様!? もしかしてお嬢様もこのオーディションに!?」

「ええ……ということは、貴女もですのね?」

 ハルカは、若干緊張した面持ちで頷いて見せた。

 クリスティーナ。この町を収める領主の娘。この町なら当然、知らない人などいないビッグネームだ。縦ロールもビシッと決まっているし、優勝候補に違いない。

「心意気は素敵ですけれど……大丈夫ですの?」

 クリスティーナお嬢様は流し目で言葉を発し、スッと会場の他の参加者たちを指さす。

 純白のオペラグローブに覆われたその指先だけでも、心折れそうなほどの美しさがある。

「御覧なさいな。町の人なら知らない人のいない歩く宣伝棟、ネネおばさま。町の最長老、トムじいさま。この方たちを差し置かなければなりませんのよ?」

 と言いつつも、「ま、お二人ともわたくしには敵いませんが」という副音声は、ハルカにもしっかりと聞こえていた。

「が、がんばるよ?! 私だって、今日のために努力してきたんだもん!」

 負けるもんか。始まる前から日和ってなんかいられない!

「……そうですわね。お互い、頑張りましょう」

 クリスティーナはそう言って、ハルカの元を去っていった。

 ……感謝しなきゃ。お嬢様のおかげで、気合を入れなおすことができたよ。

 大丈夫。今日は少しでもよく見える様に、いつものサイドテールも、オシャレな城下町製のボンボンで止めてるんだから――!


 いよいよ、オーディションが開始である。

 広場に作られた特設ステージの上から、町長が有難い応援の言葉と、このオーディション……職務の重要性、そして厳しさを伝えていく。


 一つ。町の“顔”たる自覚を持ち、必ず持ち場付近にいること

 一つ。雨の日も風の日も、変わる事なく職務を全うすること

 一つ。一つ。一つ――。


 毎年の恒例行事でもあるし、普段なら眠くなる町長の言葉だが、今回は違った。その全てが、合格した私が護るべき栄誉なのだ。心にズンと響き、意気込みへと変わっていった。


「さァ! 今年も始まりましたテキトの町の“顔”選抜オーディション! 今年はどんな人が“顔”に選ばれるのかァァッ!」

 司会の男が叫ぶ。いよいよオーディションが開始された。

 しまった。気合を入れすぎたかもしれない。こんなに観客がいる。失敗したらどうしよう。今回選ばれなかったら――。そんな思考がぐるぐるしてしまう。

 それでも無情にも時は待ってくれず、エントリーナンバーの若い人から順に、お題に対してのアピールが始まっていく。


 先ずは自己アピールだ。

「は、ハルカです! よろしくお願いしましゅ!」

 他の参加者がつつがなくそれを終わらせる(様に見えた)中、思いっきり噛んだ。観客席から「ガンバレー!」とか聞こえる。

 今すぐ生まれ変わり、道端の小石になりたいとハルカは願った。

 ただ唯一、クリスティーナお嬢様だけは、

「オーーーーーッホッホッホッホッホッホッホ!!」

 と高笑いだけを広場に響かせていた。


 次に、歌唱審査。

「どいなかだって~ぇ、びんぼ~だって~ぇ、しゅびどぅば~ぁ♪」

 何の曲だが知らないが、おとうさんがよく口ずさんでいた歌を歌った。

 どこぞの吟遊詩人が歌っていたものだろう。

 気のせいか会場の空気が重たくなった気がするが、気のせいだろう。


 続いて、ダンス。

 運動能力なんて正直関係あるとは思えないが、飲食店の娘をなめないでほしい。

 意気揚々とダンスに挑んだ。

 普段から親の手伝いとかで労働をしているし体力に自信はある!

 それに、ちっちゃいころはよく町の収穫祭のダンスで「ハルカちゃん上手だね~」っておばちゃんたちに褒められてたんだから!!

 どう? 上手でしょう!?

「なにあれ~かわい~!」

「あはははゴーレムの真似か!? アレだってもう少し滑らかに動くぞ!」

 そんな声が観客席から聞こえた。……シニタイトオモッタ。

 自分の出番の後、ステージの脇で膝を抱えたい気持ちを抑え心で膝を抱えていると、会場にどよめきが走った。

「ちょっ! なんだ!? ネネおばさん、ブレイクダンスしてるぞ!?」

 思わずステージの上を見てみると、誰が見ても恰幅の素晴らしいネネおばさんが、重力の理を無視していた。

 新たな一面である。みんなホーゼンとしている。観客の中の半数は、引いていることは容易に見て取れた。


 そして最後に、水着審査。

 スタイルはそこまでいいというわけでは無いが、私だって女の子である。これには気合を入れた。まず親にワガママを言って商業の街まで水着を買いにつれてってもらって、パレオ尽きのビキニの水着を買ってもらった。これが似合う様に毎日走り込みをしたし、腹筋もした。その成果、ちょっとプヨっていたお腹も大分マシになったはずだ。

 あ。町長の目がエロい。あンのスケベオヤジめ。

「あらハルカさん、ずいぶん頑張りましたわね」

 そういって入れ替わりでステージに向かったのは、クリスティーナお嬢様だった。

 真っ赤なワンピースの水着に身を包……いや違う!? アレは、前から見るとワンピース、後ろから見るとビキニに見える!? なんたる大胆さ! さすが高慢お嬢様! 更にステージは屋根があるのにお決まりのようにメイドさんに日傘を差させている!

 やはり、強力なライバルだったとワナプルしているハルカをよそに、町の最長老トムじいさんがプルプルしながらステージに向かい。

「じじいの水着は誰得だー!!」

 と叫ばれていた。


「さァ! これで全ての審査が終わったぞォ! いよいよ今年の“顔”の発表だァァーっ!」

 今年の参加者全員がステージの上に集められ、司会が会場を盛り上げる。

 ダララララララララ……。

 このために他の町から呼んだ楽団の長いドラムロールが鳴り響く。

 鼓動が高鳴る。ドキドキで倒れそうだ。

「第三十五回、町の“顔”選抜オーディション! 栄えある合格者は……!」


「町の飲食店の無知で素朴な田舎娘ェ……! ハルカァ……トトォ!!」

 ジャン! という楽団の音と共に、自分の名前が呼ばれる。

 見事、自分が選抜されたのだ。

「しっかりと役目を果たしてくれよォ!?」

 本当に? やった! 遂に! 遂にやった!! この日のための努力が報われたんだ!!

 ――何か前置きで、とても失礼な事を言われた気がする。まあ選ばれたので、あの司会は後で呪いビームを背後から打つことで許すことにした。

 さぁ! いつでも来なさい勇者様! 私が! 私が――!!


 そして――。


 ついに、勇者様一行がテキトの町へやってきた。

 この日が来るまで長かった。選抜されてから、来る日も来る日もここに立ってこの言葉だけを発した。それがこのオーディションで与えられる、栄誉。

 たくさんのライバルの中から選ばれし、町の代表。

 今こそが本番。これこそが本懐。

 ここで失敗なんてできない。ネネおばさん。トトおじさん。クリスティーナお嬢様。

 共に競ったライバルたちに、申し訳が立たない!

 伝説の勇者様の冒険に、私という存在が絡む時!


 町の“顔”として。


 ――勇者様一行が町につき。


 私の全てを、この言葉に乗せて!


 ――こちらに向かって歩いてくる。


 懇親の力を込めて、言い放つ!


 ――勇者様が、入り口に立つ私に話しかける。


 さぁ、今こそ! この栄誉の職務を全うする時!!



*「ようこそ! テキトのまちへ!!」


 はい、ということでRPGで必ずといっていい程いる、

「町の入り口にいるただ町の名前をいうだけのNPC」

 の物語でした。

 まさに、町の“顔”!

 ヘタに誰でもがなっていいわけがないのです。


 ちなみに、ハルカがネネおばさん、トムじいさん、クリスティーナお嬢様を差し置けたのは『当然』になります。

 RPGにおいて、そんな重要そうな称号を持っている人が、そんなところでただ突っ立っているわけがなく、もっとイベントに絡むような重要なポジションを担うためです。


 ――はい。一応こちらはまだシリーズがございますので、清書が出来たらアップしたいと思います。

 ここまでのお付き合い、ありがとうございました。

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