輪廻~白雪姫の呪い~
「血圧、脈拍ともに降下!」
遠のく意識の中、救急隊の焦る声を耳にする。
ああ、またやられたか。
今回のは確認が甘かったな。油断してたのもあったけど。
それにしてもこれ、いつまで続くんだろう。もういい加減にオシマイにしたいんだけどな。
こんな事を考えたのを最後に、意識は完全に失われた。
私は前世『白雪姫』だった。
あの童話に出てくる、継母に毒林檎を食べさせられ、王子様に助けられたというアレだった。
物語は王子様に助けられ、継母の正体をバラして抹殺し(追い出したという説もあるが)、みんな幸せに暮らしましたとさ、で終わっている。
でも実際はそうではない。
王と王子は魔女だった継母を殺すが、魔女は死ぬ前にその場にいた全員を呪って死んでいく。
やがて王は病死し、王の後を継いだ王子は魔女の呪いによって城を崩落させてしまい国を追われて死んでいった。
私は王子と一緒に国を追われ共に死んだのだが、その死ぬ時がいけなかった。
王を、王子をこんな目に遭わせた魔女が憎い。
私を二度までも死に追いやった魔女が憎い。
死ぬ間際までそう魔女を憎み呪って死んでいったのだ。
『呪いは呪った者に返ってくる』というが、まさにその通りになった。
私は自分の呪いの言葉に呪われた。
結果として、その生は一度で終わらず前世の記憶を持ったまま、転生輪廻を繰り返す羽目になってしまった。
しっかりと魔女の呪いを受け継いだままで。
私の呪われた生は、必ず転生した継母であった魔女に殺されて終わるというものを繰り返す。
故意であったり過失であったりとさまざまであるが、全部魔女の仕業だった。
なぜここまではっきり断言出来るかというと、魔女だという証拠を持って転生してくるから。
継母だった魔女には必ず身体の見えやすい位置にダイヤの形をした痣を持って生まれてくるからだ。
そして私にも魔女と同じ様に、身体の見えやすい位置にハートの形をした痣を持って生まれてきている。
お互いがお互いを探すための目印なんだろう。
魔女は私を殺すため、私は魔女から逃れるため。
ただひとつ、魔女と私には転生する際に違う点があった。
魔女には前世の記憶がないのだ。
なので私を殺すのはいつだって現世の成り行きになってくる。
憎いという感情で殺される時だって、前世の記憶ではなく現世の感情によるものだった。
今回はまさに後者。
皮肉にも継母と再婚相手の娘という関係で出会ってしまった。
暫くは気付かないでいたが、たまたま着替えに出くわし胸にあるダイヤの痣を見つけてしまった。
しかし友好関係を築いていたので、私もまた殺されるという意識が少し薄れていたのがいけなかった。
今世の私はどこまでも皮肉っている。
まさか最初に殺されかけた原因の林檎がアレルギー物質で、それを食べさせられて今まさに死のうとしているなんて。
味も匂いも分からないようにカレーに入れるなんて、巧妙過ぎません?
倒れた瞬間、高笑いしながらご高説してくださったせいで、この再婚も私の殺害もすべて財産目当てだって事が分かってかなりショックだった。
お腹の子も父の子じゃないみたいだし。
何かもう、いい加減転生するの許しては貰えないのだろうか。
一瞬戻りかけた意識の中で、父が泣いて名前を呼んでいるのが聞こえた。
手を握っているのかもしれないが、温かさも手の感触も、何もかももう感じない。
泣き声も、潮が引くようにサァっと消えてしまった。
ああ、これが最期の生だったらいいのに……。
次にまた生を受けたら、これはきっと私の呪いじゃなくて魔女の呪いで転生させられてるんだと思ってしまう。
殺しても殺しても、まだ私を殺し足りないんだろう。
王の愛を独り占めし、城の財産を望まなくても受け継ぎ、心優しい王子に見初められた私を、憎んでも呪ってもまだ満足しないのだろう。
* * * * * * * * * * * * * * *
「おめでとうございます! 可愛い双子の女の子ですよ!」
「ありがとうございます! 元気で良かったです」
空気が肺に入り込む感覚を憶え、私はまた目を覚ました。
まだ何も見えない。
残念ながらあの世で目を覚ましたのではなく、この世にまた転生してしまったらしい。
「小さな痣がありますが、育つにつれて消えるかもしれないです。双子ちゃんなんで、見分けるのに便利かもしれないですよ。お姉ちゃんがダイヤ、妹ちゃんがハート。変わった形ですよね」
読んでいただきましてありがとうございます。
ちょっと気分転換に、昔お題遊びでやった『白雪姫その後』のプロローグを少しアレンジして短編に仕上げたものになります。
もっと描写を書き込めば良かったような気もしましたが、あえてガッツリ省いてみました。
アレルギー持ちの人には想像すると怖い話です。
気まぐれに書いてみたので、お気に召していただけたら幸いですね。
ではまた別なお話でお会いしましょう。