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第1章5 森での遭遇

 俺は、今の状況が飲み込めず、その場で呆然と立ち尽くしていた。

「本当に異世界に来ちまったのか……」

 そんな言葉が自然と口から出る。

 

 今思えば、最初に森に落ちた時点で気づくべきだったのだ。辺りを見回しても見たことのない木ばかり、しかも風なのか生き物なのかわからない物までいる。こんなのどこをどう受け止めれば自分の住んでいた世界と同じなんて言う考えが浮かぶのか。

 俺は真っ白になっている頭で何とか考えを絞り出そうとするがまともな案など出てくるはずもない。

「下にある村まで行ってみるか」

 ここで黙っていても仕方ないので、下にある村まで行って情報収集をすることにした。

 

 俺は崖沿いの森を歩いていた。最初は崖を下ってみようかとも考えたが、いざ崖に立つと思っていたよりも高かったため、断念し、崖沿いに森を歩いて、出口を探すことにした。

 探し始めてから一時間余りが過ぎた時だった。探索していた近くの茂みで何かが走る音が聞こえたのだ。俺はその音が聞こえてきた茂みの近くまで行って、見つからないようになるべく腰を低くし、そっと茂みの間から様子を覗いてみる。

 その茂みの先には黒い服を着た男と銀色の甲冑に身を包んだ少女が立っていた。どうやらこの世界の騎士のようで、二人とも腰に剣を携えている。男の背中には身長くらいは在ると思われる巨大な剣が収められている。

 俺がいる位置は男と少女が両方見える位置で小声でなければ会話も聞こえるくらいの距離だ。

 どうしたものかと俺が考えていると、男と少女が会話を始める。

「こんなことは無駄だとなぜわからないのですか?」

 

 少女は戦うだけ無駄だとでもいうように男に問いかける。

「皆命をとして戦っているというのに、隊長である私が、諦めるわけにはいかぬからな」

 黒い服の男は意見を変える気はないというように、腰に携えた剣を抜いて少女に向ける。

 それを聞いた少女は安心したような顔を浮かべ、

「リタースにも貴方のような人がいたのですね。なら、正々堂々剣で決着をつけましょう」

 

 少女は剣を抜いて黒い男に向けて構える。

 それを茂みから見ていた俺は少女の剣の構えに違和感を覚えた。

 俺は戦いのことはわからない。しかし、人を殺す時の殺気くらいは感じ取れる。あの少女からはそれが感じられない。あの少女は相手を殺す事なくこの戦いを終わらせるつもりなのだろうか。

 そんな俺の思いをよそに、両者は戦闘体制に入る。互いの距離は約10メートル。お互いに走りだせば、あっという間に縮まるだろう。だが、二人は少しずつすり足で互いに横へ移動する。どうやら相手の出方を見ているようだ。決して前に足を踏み出そうとしない。

 少女は男を誘導するよう言葉で攻める。


「貴方ってもしかして臆病なのですか?こんなことを続けても私は倒せませんよ?」

「私がそんな手に乗るとでも思っているのか?お前こそ臆病になっているのではないか?」

 

 男が少女の言葉を逆手とって少女を攻める。

 その言葉に対して少女は、

「もう一度だけ聞きます、降参する気はないですか?」

「何度聞かれようと答えは変わらん。私は部下の命を預かった身だ。ここで引くわけには行かない。だから、私はここでお前を倒す」

 

 男の決意は揺るがない、これ以上言っても少女の言葉はこの男には届かないと判断した少女は、


「そうですか。貴方は自分の命を懸けてでも、仲間の為に戦うのですね」

「そうとも、仲間の為に戦わなくてどうするのだ‼」

 

 少女はこれ以上語ることはないというように自分の持っている剣に力を入れる。

 少女が動こうと一歩を踏み出そうとした瞬間、男が少女に向かって突っ込んできた。男は10メートルの距離を一気に詰め、そのまま剣を少女に向かって振り下ろす。少女は振り下ろされた剣を自分の剣で防ぐが、男の力が強く、徐々に少女の腕が下がっていく。


「どうした?ライフォス大陸最強の騎士というからどんな相手かと思って来てみたがその程度か?」

 

 男の態度が変わっていた。さっきまでの面影はどこにもない。

 男は少女にとどめをさそうと剣に全体重をのせる。だが、少女は、


「この程度の騎士には使いたくなかったのですが。仕方ありませんね」

 そういうと少女は呪文のようなものを唱え始める。

「光よ、私に力を……」

 

 少女が呟いた瞬間、少女は今まで押されていた男の剣を押し返す。押し返えされたことで男はよろめく。少女はそこから自分の剣を男に向けて横一線に振り払う。男は為すすべなく吹き飛ばされ、地面を転がる。その途中、男が持っていた剣が男の手から離れ地面に刺さる。

 男は傷口を抑えながら立ち上がり、


「魔法か……」

 それに対して少女は冷静に答える。

「ええ、貴方達が最も敵視している光の魔法です」

「敵視……か、私達は別に光の魔法を敵視しているわけではない。光の魔法から派生した魔法が我が国の脅威となりえるかもしれないから敵視しているだけだ」

 

 男は余裕そうに語る。しかし、男の額からは汗がにじみ出ていた。戦いで疲れたからか、それとも弱点をつかれて焦っているのか、どちらにせよ男は今、相当危ない状況にいることは間違いないだろう。


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