第1章3 調査の果てに…
1章
俺達は清太の調査に付き合わされ、門があると思われる神社の周辺を探索していた。
「まだ探すの?」
里穂はうんざりしたように清太に聞く。
里穂の何度目かの質問に清太は、
「見つかるまで探すんだよ。何度も言ってるだろ」
「こんなことを夕方になるまで続ける気?その根性どこから来るのよ…」
清太は胸を反らしながら自慢げに、
「ああ、そうだ。俺はやると決めたら絶対にやるからな。門を見つけるまでは絶対に帰らないぜ」
清太の返答を聞いた里穂が俺に対処方を聞いてくる。
「ねえ、田代君?清太を黙らせたいんだけど、何かいい方法ない?」
俺に振るなよ。
俺は適当に頭に浮かんだことを言う。
「神社の中でも調べさせてやったら満足すると思うぞ?」
実際、調査が始まってから清太は神社の中を調べたくてうずうずしていたし、適当に神社の中を調べさせて何もないと分かれば、あいつも帰りたくなるだろう。
そんな俺の作戦は里穂の耳に届くはずもなく、
「神社の中を調べるのだけはダメよ。さっきも言ったけど、神社に入るには許可がいるんだから」
清太は口では勝てないと知っているからか、抵抗せず、
「わかってるよ」
返答をした清太はさっさと探索に戻る。
清太と揉め終わった里穂が、やり切ったという顔をして俺の方に来る。
「なんだよ。せっかく俺がいい案を出したのに却下なのか?」
「却下に決まってるでしょ!あなたといい清太といい常識が無さ過ぎるわ!一から叩き込んであげようかしら」
里穂は怖い顔でこっちに迫ってくる。
しかも、いかにも殴る気満々と言った顔なのが更に怖い。
「わかったから、常識という名の拳を叩き込もうとするな」
俺は何とか里穂を宥める。俺だってこんな綺麗な顔を目の前にしたら抵抗できない。
俺がそう思っていると、目の前を清太が神社の方向に走って行くのが見えた。
恐らく、一人で神社の中に入る気なのだろう。
放っておいても問題ないと思うが、何かあったら困るので、俺は清太を追うことにした。
「なあ、里穂。俺、ちょっと向こうを探してくるから。吹野のこと見ててくれるか?」
里穂は少し心配そうに、
「いいけど、急ね」
俺は平然と答える。
「神社の周りを探せば、神社の窓越しから門があるか見られると思ってな。じゃあそういう事だからちょっと行ってくるわ」
林を走り抜け、本堂の目の前まで行き。清太を呼び止める。
「おい」
清太は里穂じゃなくてホッとしたのか俺を呼びかける。
「おう。翔也。お前も我慢できなくて来たのか?里穂の奴、何も無い林なんか探したって仕方ないのにな。なんでもっと早く本堂の中を探さないんだってーの」
俺は今にも口から出そうな言葉を喉の奥へと押し戻す。
「まあ、早く終わらせて戻ろうぜ。里穂も吹野もお前のこと、心配してたぞ」
俺達は本堂にある扉の目の前に立つ。
扉も本堂と同様にぼろぼろで、埃が被っていた。最近は誰も使った形跡はない。
清太も同じことを思ったのか。
「すげーぼろぼろだな。本当に誰か使ってんのか?まあ、開けてみればわかるか」
清太が先陣を切って扉を開けようとした時。
俺は微かに風が吹いているのを肌で感じた。
俺はその手で清太を止める。
「ちょっと待て」
清太は不満げに、
「なんだよ。せっかく開けようと思ったのに」
「この扉から中に向かって風が吹いてる。実際に扉の隙間に手を当ててみろよ」
「ほんとだ。確かに風が吹いてる。ということはこの中に門があるってことだよな。早速中を確かめようぜ」
清太の顔がこれ以上ないくらいに明るくなる。
俺は確かめる前に条件を出す。
「中を確かめる前に一つだけ約束して欲しい事がある」
「なんだ?」
「ここから先。何かあったらすぐに逃げるんだ。お前が異世界の探検を楽しみにしてたのはわかってる。だけど、本当にあるなら話は違う。ここから先は何が起こるかわからない。だから、何かあったらすぐ逃げるんだ、いいな?」
清太は暫く俺の話を聞いていたが、段々顔が曇りはじめ、
「ふざけんな!俺は異世界の探検がしたくて門を探しに来たのに何で止められなきゃなんないんだよ!」
清太は俺に罵倒を浴びせはじめる。
しかし、俺は扉の前に立ち、
「この約束が守れないなら、この扉を開けさせるわけにはいかない!」
「邪魔だ、どけっ‼」
清太が俺を突き飛ばし、扉を開けようとする。
しかし、本堂の外から風が吹いている為扉が重く、簡単には開かない。
俺が清太を突き飛ばし、扉の前に立つ。
「いい加減にしろ!何があるかわからないんだぞ⁉これはもう遊びじゃないんだ!異世界の探検なんて頭ん中だけにしとけ!」
「うるせぇ!」
清太は向かってきた俺を更に強く突き飛ばし、思いっきり本堂の扉を開ける。
そこには青のような、紺のような、黒のような色をした渦が渦巻いていた。全てを吸い込んでしまいそうな風がその渦に向かって吹いている。さながら、ブラックホールを目の前にしたような感覚だ。吸い込まれたらどこに行くのかもわからない。ひょっとすると異世界などではなくただ暗闇だけが広がる世界かもしれない。それくらい渦に吸い込まれた後の行先の予想がつかない。
「噓だろ……」
状況を飲み込めない清太が呆然と立ち尽くしている。
清太を吸い込もうとするかのように渦に向かって吹いている風が強くなる。
俺は扉越しから清太に向かって叫ぶ。
「早く何かに捕まれ!」
ハッとした清太は吸い込まれる直前に扉を掴み、踏ん張ってなんとか耐える。しかし、長くは持たないだろう。
依然として渦に向かって吹いている風は衰えないままだ。
俺は清太の手を掴み、何とか扉越しまで引き上げる。
俺は清太に改めて問う。
「こんな状況だが、まだ異世界調査なんてものを続ける気か?」
「俺は……それでも、異世界に行かなきゃいけないんだ!」
清太は俺をおいて渦に向かって走ろうとする。
「危ねぇ‼」
俺は清太を体当たりで反対側に突き飛ばし、
「清太……里穂と吹野を頼んだぞ……」
そう告げた瞬間、俺の体が渦に向かって引き寄せられていく。俺は足に力を入れて耐えようとするが、吸い込む力が強く、踏ん張ることすらできない。渦に近くなるにつれ吸い込む力も強くなり、そして、俺の体は渦へと吸い込まれていった。