第1章2 迷惑なリーダー
階段を上がってきたのはこの調査を提案した張本人で、俺の友人の加藤清太だ。清太は階段を上がって来たことと暑さで、汗をかいている。その清太の後ろには、清太の友達の吹野夏美が清太の後ろに隠れながらこっちを見ている。
加藤清太、お調子者だが、一言やると言ったら雨が降ろうが槍が降ろうがやる奴だ。
「遅いぞ、自分から呼んでおいて最後に来るなんて」
清太は軽い調子で答える。
「悪い、悪い、夏美を家から引っ張り出すのに苦労してな」
吹野夏美、人見知りでほとんど人と喋らないのだが、清太だけは別らしく、喋ることができるらしい。こっちを見たり視線を逸らしたりを繰り返している。
そんなに俺が怖いんだろうか。
そんなことも気にせず、清太は着いて早々に本題に入る。
「今回はこの神社を調査するわけだが、俺が事前に調べた情報によると、異世界への門は神社の中にあるらしいんだよ」
俺は一つの疑問が沸いた。
俺は純粋に気になったので清太に聞いてみた。
「もし、神社の中に入れない場合はどうするんだ?」
解散してくれると、俺としては非常に有り難いのだが。
「特に考えてないな」
おい。
俺は思わず、心の中で突っ込んだ。
すると里穂が、
「貴方ね。それじゃあ何故この調査をしようと思ったのよ!神社の中に門が在るのなら入れないじゃない。どうやって神社の中に入るつもりだったのよ!」
清太は考えていなかったのか、
「誰も使ってないなら少しくらい壊して入っても大丈夫だと思ったんだよ」
里穂は今にも怒りそうな顔をして清太に詰め寄る。
「大丈夫な訳ないでしょ!吹野さんまで巻き込んで、あの娘が人見知りなのはあなただって知っているでしょう⁉」
清太は開き直って、
「夏美を無理矢理連れ出したのは謝る。しかし、連れて来ちまったものは仕方ない。だから夏美には最後まで付き合ってもらう」
俺と吹野は完全においてけぼりを食らっていた。
吹野に関しては状況が飲み込めていない様子だ。
また里穂が怒りそうになるが、清太は強引に話を本題に戻す。
「とりあえず、神社の中に入るかどうかは別として、周辺は調査する。これは決めたことだ!」
清太はどうあっても意見を変えないつもりのようだ。
俺は清太に気になっていた事を聞いた。
「なあ、清太。どうやってその門を見つけるつもりなんだ?何か方法があるのか?」 きっと何か、方法があるからここに集合したんだろう。
「いや、ないけど?」
清太は当たり前のように答える。
その瞬間、里穂からは背筋が凍るくらい冷たい視線は清太に向かって投げかけられていた。
その視線に気づいた清太が今まで溜まっていたストレスが限界に達したのか、文句を言い始める。
「大体、お前はいつも真面目すぎるんだよ。試験の時だって、いつも100点ばっかり取って、そんなんで学校生活楽しいのか?」
「うるさいわね、真面目のどこがいけないのよ!そもそも学生は勉強するものでしょ?100点ばっかり取って何が悪いのよ」
「いや、だから、少しは遊ぼうとか思わないのか?」
このまま二人をおいて帰ろうかとも思ったが、吹野をおいて行くわけにもいかないので暫くこのまま静観することにした。
二人の言い合いはどんどんエスカレートしていく。
段々と面倒くさい事になってきたので、俺は仲裁に入ることにした。
「二人とも落ち着けって…」
すると二人は視線を俺に向け、
「翔也、お前も門探しは馬鹿馬鹿しいとか言うのか?」
「いや…別にそんなことはないけど…」
正直に言うと馬鹿馬鹿しいが言わないでおく。
「こんなつまらないことに付き合うくらいなら私は帰るわよ」
それを聞いていた清太が、条件を出す。
「ちょっと待てよ、お前、夏美が行くと言えば行くんだろ?」
里穂は少し考えてから、
「……ええ、あの娘を貴方と一緒にしておくわけにはいかないもの」
「じゃあ、夏美に決めて貰おうぜ。あいつが行くと言えばお前も一緒に行く。あいつが行かないと言うなら俺は翔也と二人で行く。それなら文句はないだろ?」
里穂は頷いて、
「分かったわ、いいでしょう」
いや、俺が良くないのだが。
「よし、決まりだな」
ただし、と里穂は条件を提示する。
「あの娘が自分でうんと言えばね。少しでも貴方が助言した場合、私は帰るわよ」
「わかってるよ、それくらい」
里穂と清太は揃って、吹野を見る。
俺はその事を吹野に伝える。
「吹野、清太と一緒に異世界の門の調査をしたいか?」
吹野は小さく頷く。
俺は吹野の気持ちを代弁し、清太と里穂に伝える。
「吹野は門の調査をしたいってさ」
すると清太が盛大にガッツポーズをとって、何やら叫んでいる。
一方、里穂は信じられないという顔をしている。
そして、へなへなと地面に座り込む。
清太は気持ちが落ち着いてから、
「とにかく!夏美は行くといったんだから異世界への門を発見するまでは絶対に調査を止めないからな」
清太が決意を固める頃には皆が諦めていた。
というか里穂は地面にへたり込んだまま、放心状態になっている。
「異世界門発見隊出発だ!」
こうして俺達の異世界への入り口を探す調査が始まったのだった。