全ての始まりのプロローグ
色彩高校には第1校舎と第2校舎がある。
なんでも創立50周年記念に耐震、空調などの設備を万全にするため第2校舎を建てたそうだ。
第2校舎は生徒数が増える事を見計らってか少し大きめに建てられた。
そのため第1校舎は不要となり小道具などの多い演劇部だけがその校舎を利用していた。
しかしそんな演劇部も3年前に廃部になり等々誰も第1校舎を利用する者はいなくなった。
――ただ1人、俺を除いては。
俺も入学当初は演劇部なんてものがあること自体知らなかった。入学した時には既になくなっていたからだ。
だが1年の時に、「卒業生係」だった俺はサプライズにスライドショー作りをしており写真を整理していると1枚の写真を見つけた。
恐らく公演が終わった後であろう、生徒達はドレスや小人などそれぞれ役の衣装を着ており晴れやかな笑顔を浮かべて笑っていた。
「うわー、懐かしい!もうあれから2年も経ったのね」
写真に見入っていると真横から声がした。
顔を向けると黒髪でショートカットの女の子――いや教師がいた。多分教師。
その多分教師であろう女性はスーツを着ているが幼い外見のせいか驚く程スーツが似合っていない。着ているというよりは着せられている、という感じだ。むしろ制服を着ている方がしっくりくる。
「もしかして先生の事知らないな?…でもまぁ、無理もないか。1年2組のクラスは担当したことないし」
まじまじ見ていたせいか、なにやら見当違いな事を思ったようでわざとらしく頬を膨らますあざとい教師。
確かに顔は廊下ですれ違ったりする時に見た事はあるような気がするが名前は知らないな。なんて思っているとある違和感を感じた。
「…なんで俺のクラス知ってるんですか?」
俺の学年は5クラスある。1クラス40人だから少なくとも200人はいるはずだ。
それに俺は目立つのが好きではない。だからなるべく目立たないように1年暮らしてきたつもりだが…。
「私生徒の名前覚えるの得意なのよね。クラスは・・・3年間一緒に過ごしてやっとだけど」
「・・・・・・・・・」
「そ・れ・に。君のその眼鏡凄く目立つしね」
得意げに語った後に瓶底眼鏡の縁をツンと指で突く教師。
そのあざとい仕草に半ば呆れつつ、内心俺は落ち込んでいた。目立たないようにするため眼鏡をかけていたつもりが逆にそれが仇となって目立っているとは。
しかしそれに気付いたのがもうすぐ1年経つ頃の今。今更変えるとイメチェンなどと言われ余計に目立つに違いない。
――まぁ、そもそも取る気なんてさらさらないが。だって俺は――。
そこで俺は気になっていた事を思い出した。
「そういえばこの写真・・・」
「――ああ、その写真に私写ってるでしょ?」
そう言われて手元の写真に目を戻す。確かに写っていた。
今も俺と同世代に見えるほど若いがこの時は下手したら中学生に見える。そう考えるとこの人も年を取ったのだろうか――。
「――ってそうじゃなくて!!これって演劇部の写真なんですか?演劇部って昔あったんですか?」
気付けば相手のペースに乗せられているため一気に問いかける。
「そうよ。2年前まではあったんだけどこの写真に写っているほとんどの子が3年生でね。その子達が卒業すると今の3年生の子2人になっちゃって・・・。その子達は続けたいって頑張ってたんだけど新入部員が入らなくて廃部になったの」
「そうなんですか」
「――なに?もしかして才川くん、演劇部に入りたくなったの?」
「ち、違います!・・・ただちょっと気になっただけで・・・」
「多分復活は厳しいかもしれないけど衣装と小道具はそのままにしてあるはずだから一度覗きに行ってみれば?」
そう言われ俺は気になっていたこともあったため演劇部があるという第1校舎に向うことにした。
元々第1校舎に用がある人などいないため俺の目的もバレずに済みそうだ。
それから2年に上がった今も俺は演劇部に毎日通っている――。