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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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09.努力vsチート

 神殿から出て、夜の街を歩く。
 頭の中でエステル嬢の提案が渦巻いてる。

 ヘリンの完全討伐。

 三精霊が何故毎回一割程度の力で復帰するのかというと、オリジナルは強すぎて、完全に討滅する事も、かといって封印する事も出来なかった。
 昔こんな説明を受けたことがある。

 完全に密封した鍋を加熱し続けたら蒸気が膨らんで、いずれは爆発する。しかしちょっと穴を開ければ蒸気は少しずつ逃げずつけて、鍋は壊れないで長持ちする。

 封印もそうだ、ちょっとした穴をあけてやることで、強大な精霊の力が完全にたまることなく、人間が処理できる程度のレベルでちょっとずつ漏れる。
 そういう風に封印の魔法陣、神殿が設計された。

 つまり、封印を完全にして――穴を完全に塞いでやれば、封印そのものが壊れてオリジナルの精霊が再びこの世界に顕現することになる。
 それを完全に倒せば、一千万の報奨金。

「大昔にかけられたものがまだ生きてる……か」

 話を持ってきたエステル嬢はあらかじめ確認した。
 街がかけた報奨金で、精霊自体は存在し続けて、毎日討伐されてるから、報奨金が取り消された事はない。

 いまでも討伐すればそれがもらえる事になる。
 問題は……一千万ドーラってのが当時のレートだってこと。
 物価の変動で、今だと五千万から一億くらいになる。

 金がそのまま精霊の強さってわけじゃないだろうが、一億相当の金を出してまで討伐する人間を募ったのに、結局は討伐出来なかったというのは紛れもない事実。
 解放したとして……倒せるのだろうか。

 おれはなやんだ。
 悩んだまま、アクリーの街を歩いた。

 三つの国の緩衝地帯にあるアクリーは、夜でもかなり賑わってる。
 街に住む者、旅行に来た者、仕事でやってきた者。
 様々な人間が街を賑やかしている。

 ふいに足が止った、いつの間にか足を踏み入れた繁華街で、ある看板が目についたから。

「カジノ……」

 裏の人間がしきる賭場とはちょっと違う、比較的(、、、)に健全なギャンブルが出来るカジノ。
 なんとなく中にはいった。

 カジノの中は繁華街よりも一段と賑わっていった。
 金と欲望が渦巻く異様な空間。
 カジノ、今ならもしかして。

 元手は……三百五十万近い。
 これだけあれば……。
 そう思って、ルーレットのテーブルの前で足を止めた。

 ルーレット。

 回転する円盤にディーラーがボールを投げて、そのボールが止る数字を当てるゲーム。
 数字そのものをぴったり当てると三十六倍、数字に振り分けられた赤か黒の二択を当てれば二倍。
 二倍……元手の三百四十万があれば……二回当てただけでいける。
 二回……たったの二回。
 たったの二回当てるだけで一千万に届く。

「なんてな」

 一瞬だけ心が揺れたが、ここでギャンブルに走るおれじゃない。
 おれは運が悪い、これはもう揺るがない事実。

 例え普通に二分の一だとして、おれはきっとそれを当てる事は出来ない。
 ましてや二回連続なんて針の穴を通すよりも難しい。
 ギャンブルなんて無しだ!
 そう思って、誘惑の多いカジノから出ようとした。

「追加のベットをどうぞ」

 ディーラーの声に足が止る。
 立ち去りかけたが、止ってテーブルを見つめる。

 ディーラーがボールを投げたあとも、客はかけるのをやめた。
 投げたあとも……賭けられる?

 しばらく見ていた、どうやらルール自体そうなってて、ディーラーが投げたあとも一定時間かけられるようだ。

 投げたのを見て――賭けられる?
 心が揺れる。

 完全に運任せじゃない、投げてから賭けることができる。
 相手が動いたのを見てから動く――おれが唯一出来る事だ。
 もしかして……これなら。

 おれは更にじっとルーレットを見た。

「……赤」

 女のディーラーがボールを投げるのをじっと見た。

「……黒」

 手つき、ボールの勢い、ルーレット盤のまわり方。

「……赤」

 それを見て、なにが出るのかをこっそり当て続けた。

 すると段々わかってきた。
 ディーラーの動きとかルーレット盤の勢いから、赤か黒かほぼ確実に当てる事ができた。

 にわかに興奮しだした。
 もはや運じゃない、おれが長年コツコツ積み上げてきたのが生きる時だ。
 先に動いた相手の動きを見て、それに合わせた一番いい動きをする。

 それが生きる?
 これなら――二回くらいで。

「おい」
「え?」

 テーブルに座ってる男に振り向き、小声でささやいてきた。
 男の前に大量のチップが積み上げられてる。

「次はなんだ?」
「え?」
「さっきからぶつぶつ言い当ててるだろ? 黒とか赤とか、それ当たってるじゃねえか」

 男はそう言って、大量にある自分のチップをちらっと見た。

「……もしかして」
「おっと逆ギレは無しだぜ? のっかったのはおれだけど、賭けねえお前さんも悪いんだからな」

 ニヤリと笑う男。
 どうやら、おれが観察してるのをきいて、それにあわせて賭けたみたいだ。
 その結果が、勝ちに勝ってその大量のチップって事か。

 つまり……それは実質おれが勝ったようなもの。
 おれも実際にやればそれだけ勝てる。

 その事実に勇気づけられた、こうなればやるしかない。
 換金しなきゃ。クロケットの精粋と有り金をチップに換金しなきゃ。

「待て待て、もう一回! もう一回だけ当ててってくれ」

 男に引き留められた。

「え?」
「もう一回だけ? なっ! 赤か黒かだけ。これを更に倍にしたらおれ家買えるんだ、なっ!」
「あ、ああ……別にいいけど」

 最後にもう一回練習って思えばいいか。
 集中して、ディーラーの動きを見る。
 ボールが投げられた。
 手首の動き、ボールの勢い、ルーレット盤の回転。

「……赤」
「よっしゃ! 赤に全部!」

 男はチップを全部赤にかけた。
 まわりがどっと沸いた。

 どうやら赤と黒にかけ続けて、当て続けてきた男に注目が集まってるようだ。
 赤コールが上がる、男の勝ちを望んでる野次馬は多い。

 そんな中、ボールの勢いが少しずつ落ちる。
 勢いが落ちてくると、ますます先が読める。
 どこに止るのか、わかる。

 うん、間違いなく赤だ。
 赤を通って、黒を通って、また赤を通る。
 勢いがほとんどなくなる、この黒を過ぎたあたりで赤に止る。

 ――と、思っていたら。

 ボールがぴたっ、と黒にとまった。

「――っ!」

 おれは驚愕した、違う意味で驚愕した。
 ディーラーを見た、女はすっとぼけた顔で微笑み返して来た。
 ボールのとまり方が不自然だったのだ。
 最後にもう一伸びして赤までいって止る勢いだったのが、一瞬だけピタッと止って、黒の所にはいった。

 ものすごくわかりにくいけど、確かに不自然な止まり方だ。
 イカサマ――しかも後出しのイカサマ。
 客が賭けた後に、止る目を操作できる。

 負けた男がおれに食って掛かったが、それどころじゃない。
 後出しに特化したおれがようやく見つけた勝てる場所は、向こうが更にに後出し出来る所だった。

     ☆

 途方に暮れて、カジノを出た。
 おれが唯一できるのは相手の動きを見て動く、つまり後出しだ。
 最後に動くことが出来なきゃ――相手より後出しが出来なきゃどうしようもない。
 カジノ――ルーレットはまったくもっておれ向きじゃなかった。

「ねえ」

 落ち込んでると、背後から声をかけられた。
 振り向くと、さっきの女ディーラーがいた。

「……なんだ」
「もう来ないでね」
「え?」
「ずっと見てた、あんた、こっちの動きから目を読めるでしょ」
「……ああ」

 それもイカサマの前では無力だが。

「あんたみたいな引き時を知らない素人の達人が来ると、本気(、、)を出さざるをえないからさ」

 通行人が行き交う表にいるからか、女ディーラーはわざとらしく言葉を言い換えた。
 本気――イカサマ。

「だからもう来ないで、いいね」

 女はそういって、カジノの中に戻った。
 ある意味おれを認めたセリフだったけど、ちっとも嬉しくなかった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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