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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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08,初心の初心にかえる

「お疲れ様ですルカさん、こちらクロケット討伐の報奨金の五万ドーラです」
「ああ」

 ギルドに戻ってきて、エステル嬢から報酬を手渡しでもらった。
 五万ドーラ、昨日の昼の分と合わせて十万ドーラ。

 前にちょっと聞いた事がある、三精霊の報酬の設定について。

 一番弱いヘリンは、毎日コツコツにやって(実際おれがそうだった)月に十万ドーラ前後という、駆け出しの若者にふさわしい収入になる。
 一回あたり二千ドーラ。

 ローマンは真面目にやって、信頼を勝ち取って年間の半分をやれば一千万ドーラという大台に乗るように設定された。
 一回あたり三万ドーラ。

 そしてクリケットは、一日に両方やれば十万ドーラという、ヘリンの月の稼ぎを一日で稼ぎ出せる。
 一回当たり五万ドーラ。

 実際に駆け上がった人間が報酬を手にして、「新しいステージに立った」って感じる金額設定、だと聞かされた。

 実際にもらって、強くそれを実感した。
 一日でかつての一ヶ月の稼ぎをたたき出したんだ。
 それまでの自分を過去にした、という気持ちになった。

 おのずと嬉しくなる。
 これだけ稼げれば、一千万なんて三ヶ月もあればいける。

「……あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや……ちょっとまて」

 嬉しいのは一瞬だけで、おれはある事に気づいた。

 一回五万、一日で十万、十日で百万。
 ビアンカの身請け金一千万――期限は十日。
 ……足りない!

 全然足りないし、間に合わないじゃないか!
 期限内にフルで稼いでも足りないってことに、今更気づいたのだ。

 たしかに稼ぎは昔に比べて圧倒的に増えたけど……。
 サー、と血の気が引いてくのが聞こえた気がした。
 慌ててエステル嬢に詰め寄った。

「他に仕事! 金になる仕事はないか」
「ど、どうしたんですかいきなり」
「なんでもいい! とにかく金になる仕事をくれ! 十日以内に一千万稼げる仕事だ」
「は、はい。そうですね……」

 エステル嬢は眉をひそめた。

「チャンスはくれるんだろ?」
「はい……マスターの方針でうちのギルドは確かにそうですが……でも」
「でも?」
「クロケット討伐以上のお金が欲しい、と言うことですよね。それに十日以内お金になる」
「そうだ!」

「あれはこの街の存続に関わる討伐なので、日当で割れば一番割りのいいお仕事なのですよ。お金だけでしたら竜肝狩りというのもありますが……」

「竜肝狩りって、半年拘束されて一千万ドーラ稼げるヤツだろ?」
「はい、あれなら確実です」

 頷くエステル嬢。
 とある八つの首の竜があって、その竜の肝はものすごく高値で取引される。
 そいつらは人里からかなり離れたところで生活しているし、竜でものすごく強い。

 たから半年に一回、商人が大勢の冒険者を募集して狩りに出かけて、半年後めでたく帰ってきたら一千万を越える報酬をもらえるしごとだ。
 途中で貴重な飛空船にのせられるから、一部の人間から「ドラゴン漁船」って呼ばれてる仕事でもある。

「だめだ、十日以内に金が欲しい」
「そうなると……多分、うちでは無理です」
「……くっ」

 申し訳なさそうにうつむくエステル嬢。

 彼女は嘘をついてない。
 嘘を見破れるとか、そういう話じゃない。
 おれがこの街、このギルドに関わって数十年経つからそれが事実だと知ってるだけだ。

 落ち着いて数字勘定すれば分かる、クロケット以上に割りのいい仕事なんかそうそうない。
 ドラゴン漁船以外だと、偶発の緊急依頼しかない。
 王女がさらわれたから助けて欲しいとか、貴族の息子が変種のはしかにかかったから治療のための薬を取るとか。

 そういう緊急なものばかりだ。
 それは運がからむ、そしておれは――運がない。
 運に恵まれる人間なら数十年間コツコツやる必要なんてない。

 実際、今も。

「緊急依頼はないか?」
「ごめんなさい、昨日、一つ解決されたばかりなんです」
「くっ」

 やっぱり運が悪い。
 次の高額な偶発の依頼を待つのも手だが、運が悪いんだ、発生するかわからないし、発生しても金額が足りる保証がない。
 どうする、どうしよう。

「あっ、そうだ」
「なんだ!?」
「精霊の精粋です。あれなら高く売れます」
「これか!」

 ポケットにある、昨日拾ったものを取り出した。

「ローマンの精粋ですね。これも結構な値段で売れますけど、クロケットのならもっといけます。相場は――今のなら一つ三百万位で売れると思います」
「クロケット討伐をやらせてくれ! もっとだ」

 おれは叫ぶように言った。
 結局そこに戻るのだった。

     ☆

 夜、クロケットの神殿。
 早めに到着したおれは中に入って、時間を待つ。
 気持ちが逸る、それを必死にこらえる。

 早く、早く出ろ。
 早く早く早く早く――!
 心が叫ぶ、握り締めた木刀がミシミシいってる。

 永遠にも思える時間のあと、魔法陣が光り出してクロケットが復活する。

「――くっ!」

 焦るが、攻められない。
 おれから攻め込む能力やスキルはない。
 歯ぎしりして、クロケットが攻撃してくるのを待つ。

 クロケットはおれのまわりをぐるっと一周してから、真横から襲いかかってきた。
 一直線に猛スピードで飛んできたクロケット、突進した瞬間頭と両肩ががら空きになる。
 先に動いたクロケットよりも先に動いて(、、、、、)木刀をがら空きのそこに叩き込む。

「――――!」

 精霊特有の悲鳴をあげて、クロケットが雲散霧消する。今回も一撃で倒せた。
 しばらく待った、クロケットの精粋はでなかった。

 この日は精粋がでなかったのだった。

     ☆

 次の日、若返った特権でクロケット二回ともやらせてもらえた。
 二回とも瞬殺したが、でなかった。

 三日目、同じように二回やらせてもらった。
 一撃で倒したのがもしかしてまずいんじゃないのかと思って、わざと避け続けて、クロケットに色々動かせてから倒した。
 意味がないのは分かってる、ローマンのときはそんな事しなくても精粋がでた。

 当然の様に、クロケットの精粋はなかった。

 四日目、朝。
 今度は初心に返って、先に動かれた瞬間先に(、、)動いて、一撃でクロケットを倒す。

 すると精粋が出た、一つ三百万ドーラで引き取ってもらえる、クロケットの精粋がでた!

 四日で一つ、通常の報酬合わせて三百四十万。
 これならギリギリ、ギリギリで足りる。
 足りると、思っていた。



 四日目の夜、神殿にエステル嬢がやってきた。

「ちぃーす」

 その後ろにいるのは髪が逆立ってる、威勢のいい若者だった。
 若返ったおれよりも更にちょっと若い。十代の半ば、って感じの少年だ。

「すみません、割り込みです」

 エステル嬢は申し訳なさそうにいった。

「……そうか」

 喉の奥から搾り脱したのがその言葉だった。
 若いやつにチャンスをやるというギルドの方針、その「若いやつ」がやってきた。
 抗弁は意味がない、それが通るならおれはジジイになるまでヘリン討伐をしてない。

「……わかった」
「サーセン」

 おれは受け入れ、少年は神殿の中に入る。

「すみません……」

 金が必要という事情を知ってるエステル嬢は申し訳なさそうな顔をした。

「……」

 気にしないでくれ、って言いたいけど言葉にならなかった。

 今は一回でも多くクロケットを倒さないといけないんだ。
 精霊の精粋はおれのクズ運でもでるって分かったんだ。そしてめいっぱいやればぎりぎり間に合いそうだったんだ。

 なのに、割り込まれた。
 そして、この先もきっと割り込まれる。
 ビアンカ身請けの期限まで、きっとまた割り込まれる。

 そうなることをおれはほぼ確信した。
 くそ!

「……ルカさん」
「え?」

 顔を上げる、びっくりした。
 エステル嬢がいつにない、鬼気迫る程真剣な表情でおれを見ていた。

「どうしたんだ」
「一千万を稼ぐ方法を思いつきました。すごく危険な方法ですけど」
「なんだそれは!?」

 危険でもいい、とにかく金を作れればそれでいい。
 おれはエステル嬢に詰め寄った。

「これです」

 エステル嬢が差し出したのは一枚の古い紙。
 ぼろぼろになって、黄ばんで変色した紙。

「精霊ヘリン……一千万ドーラ……デッドオアアライブ?」

 それは手配書だった。
 犯罪者や盗賊などを指名手配するとき使われるものと同じ手配書で、かなり古いもの。

「これは?」
「むかしこの値段がついてたみたいです。ヘリンを倒せたら一千万、って」

 おれは、ハッとした。
 エステル嬢がこれを持ってきた理由、彼女が鬼気迫る程真剣な表情をしてる理由。

「ヘリンを……わざと完全復活させろ、と?」

 こくり、エステル嬢が頷く。

「ルカさんなら、できると思います」

 瞳には、信頼の色があった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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