挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

72/75

12.羽化

 魔法時計が指し示す時刻、午前5時。
 夜明け前にいつもの様におきた俺は部屋を出て、庭に出て木刀で素振りをはじめた。

 最小限の動きで、最大限に鋭く、そしてそこにいる(、、、、、)見えない敵に自ら切り込んでいく。
 そんな素振りをはじめた。

 数十年間続けてきた素振り、強くなることを意識して木刀を振り続けた。
 回数は、日課の一万。

 東の空が白んで、朝鳥が共鳴をはじめる前に一万回を達成した。
 と、そんなとき。

 背後から圧倒的な殺気が俺に襲いかかってきた。
 凍えそうな殺気に耐えて、息を吸って木刀で反撃。
 逆手に持った木刀の一連撃。

 一撃目で打ち合って、二撃目で弾いて、三撃目で反撃。
 襲いかかってきた相手を押し返した。

 木刀を放りつつ持ち替えて、くるりと振り返る。
 ヘリンだった。
 元精霊の幼げな老女は口角を器用にゆがめて、更に攻撃をしかけてきた。

 神速のヘリン、まるで閃光の如く連撃を放ってきた。
 得物はない、細腕が精霊光を引いてヒュンヒュンと風切って手刀で斬りつけてくる。

 一秒で百回はあろうかという圧倒的速さでの斬撃。
 それを全て木刀で防ぐ。
 防いで、斬撃のスキマを縫って木刀を突き出す。

 精霊光の網の中、まるで吸い込まれていくかのようにすり抜けていく木刀の切っ先。

 ヘリンの閃光がぴたりと止まった、俺も木刀を止めた。
 彼女ののど先に突きつけた木刀、動かない二人。

「完敗じゃな」
「当然だ」
「当然じゃと?」

 ヘリンは眉をひそめた。
 訝しみとわずかな不快感、それを乗せた表情。
 だが、俺はたじろがなかった。

「俺はヘリン殺しのルーカス。お前にだけは何があっても絶対に負けない」

 驚き、しかしそれは一瞬だけ。
 言われた直後こそ驚いたが、すぐにそれが笑顔に上書きされた。

「……ふふふ、その通りじゃ。ああその通りじゃ」

 ヘリンは楽しげに笑った。
 やられたのに、この先ずっとそうだと宣言されたのに。
 彼女はさっき以上に、いや出会ってから今までで一番楽しそうに笑った。

「小僧は常にわしに勝たねばならん」
「ああ」

 頷く、はっきりと意思表明をする。
 そうしなきゃだめ――いやそれが出来る。
 俺はそれが出来る。

 まだ(、、)ちょっとだけ言い聞かせる成分が残っているそれを呑み込んで、木刀を下ろした。

「お疲れ様です、ルーカス様」

 反対側から、屋敷の方からビアンカのねぎらいの言葉が聞こえてきた。
 振り向くといつもの様に絹の手ぬぐいを持っているビアンカと、その横で顔を赤らめ、うっとりとしているエステルの姿があった。

「ありがとうビアンカ。どうした、エステル」
「ルーカスさん……かっこいい……」
「そうか、ありがとう」
「それにすごい……素振りが早すぎて全然目でおえなかった」
「まだまだじゃ」
「え?」
「小僧はそのうちもう一つ上の領域に足を踏み入れるじゃろう。その時になれば目でおえるようになる」
「遅くなるんですか?」
「いいや」

 またまたにやり、と口角をゆがめるヘリン。

「もっと早くなる」
「???」

 エステルは意味が飲み込めず小首を傾げてしまう。
 俺も分からないが、そうなるだろうと思う。

 いや信じてる。
 俺なら出来る、ヘリンがそう信じてるのなら、俺はそれが出来る。
 必ず、出来る様になる――出来る様にする。

「ルーカス様、お変わりになったのですわね」
「まだまだ、入り口にたったにすぎんのじゃ。今のでようやく人並み、ってところじゃろ」
「でも素敵です。前みたいに自虐をしなくなったから、すごく格好良く見えます」
「エステルのおかげですわね」
「うむ、あの『私の好きな人の悪口を言わないでください』が功を奏したのじゃな」
「そ、それはいわないでくださーい。ついいっちゃったけど思い出すとジタバタするんです」
「素敵な言葉ですわ。ルーカス様もそう思いませんか」
「ああ。今後はみんなの好きな人の悪口をいう人はいなくなる」

 宣言するように言い放つ。

「ふふふ、変われば変わるものじゃな」

 ヘリンはそう言って、俺の右腕にしがみついてきた。

「好きになり過ぎちゃう気がします……」

 エステルも頬を染めて、俺の左腕にしがみついてきた。

「それは確かに困りますわね。ルーカス様は心が熱い希有なお方。想った分想い返してくださるから大やけどしそうですわね」

 ビアンカも穏やかに微笑んで、俺にそっと体を寄せた。
 朝鳥が共鳴する中、俺にしがみつく三人の女。

 大事な人たち、打算のない純粋な好意。
 彼女達の好意(きたい)にしっかり応えなきゃなっておもう。

 ふと、遠くから蹄の音が聞こえた。
 どうしたのかとしばらく待ってると、馬が一匹、屋敷の敷地内に駆け込んできた。

 馬に乗っていた者が颯爽と跳び降り、朝日の中こっちをまっすぐ見つめて来た。
 ここ数日姿をみせなかった、騎士鎧姿のジュリエットだ。

 凜然とした空気はそのままだが、その顔はどういうわけか――。

「どうしたジュリエット、そんなに深刻そうな顔をして」
「ルーカス殿……すまない」
「え?」
「ルーカス殿の領主就任……横やりが入ってしまった」

 ジュリエットが下唇をかんで、ものすごく申し訳なさそうな顔をした。
 領主就任、そういえばそんな話があったな。
 それに何か問題が起きたのか。

「気にしないでくれジュリエット」
「はい……」
「詳しい話を聞かせてくれ、その上で領主になるにはどうすればいいのかを考えよう」
「……え?」

 驚くジュリエット、彼女は何か信じられないものを見たような顔をした。
 一方で俺にしがみついてる三人、ビアンカ、ヘリン、エステル。
 三人は言い放った俺と、驚くジュリエットを見てにやにやした。

 驚いた理由は分かる。
 今までの俺なら「仕方ない」とおもっただろうし、「俺なんか最初からむりだったんだ」って自己否定から入っただろう。

 でも今は違う。
 そうしないことにした、それをやめることにした。

 自信。

 女達に口酸っぱくいわれて、持つように心がけているそれ。
 それが、はっきりと対応に違いが出て、ジュリエットはそれに戸惑った。

「ジュリエット」
「は、はい」
「話を聞かせてくれ」
「……はい」

 ジュリエットの顔から驚きが消えた、代わりに赤みをさして微かにうつむいてしまった。
 何故そうなったのかは分からないが。

「まだまだじゃな」
「そこはおいおい慣れていくと思います」
「そうなるルーカス様も楽しみですわ」

 女達は理解しているみたいだから、後で話を聞こう。
 今はまず。

 持つようにした自信を見せて、目の前の難題を解決して彼女達に見せよう。
 そう、硬く決意したのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ