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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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11.心技体

連載再開します
 光がなく、上下左右さえも分からない。
 五感の全てが静止した暗闇の中で、思考だけが回っていた。

 エステルは俺を好きだって言ってくれた。
 こんな俺でも……どんな俺でも好きだ、そう言ってくれた。

 嬉しかった、飛び上がるくらい嬉しかった。
 こんな俺でもっていってもらえたのは、人生の中で五指に入るくらい嬉しいこと。

 でも、それに甘えちゃだめだ。
 こんな俺でも好きって言ってくれた――こんな俺。
 それを好きって言われたからそのままにするのは甘えが過ぎる。

 どんな俺でも好きってことは、いい俺でも悪い俺でも好きって事だ。
 その二つなら、いい俺にならなきゃいけない。
 それが彼女の気持ちに報いる事にもなる。

 どうすればいい? どうしたらいい。

 ――小僧はいい加減自信を持つのじゃ。

 ヘリンの言葉が耳元に響いた瞬間、目の前が明るくなった。

     ☆

 気がつけば俺はたっていた。
 東の空が白みはじめていて、朝露が肩にポトリと落ちる。
 血まみれながらも一糸まとわぬ生まれたまま(、、、、、、)の姿でたっていた。

 足元に自分の死体があった。
 腹がぱっくりと割れている、老いさらばえた俺の死体。
 ついさっきまで自分だったそれは、俺がまた若返った事の証拠だ。

「お疲れ様ルーカスさん」
「エステル」

 振り向くと、エステルはニコニコ顔で俺の服を差し出していた。
 生まれ変わるために脱ぎ捨てた服を、彼女は拾い集め、差し出してくれた。
 同じように(、、、、、)裸になったはずの彼女はもうすっかり着服を整えている。

「ありがとう」

 服を受け取って、袖を通す。

「何か考え事をしてたんですか?」
「え?」
「生まれたばかりのルーカスさん、なんか難しい事を考えてた顔をしてました」
「そ、そうか?」
「……また難しい事(、、、、)を考えてたんですか?」

 エステルは唇を尖らせた。
 言いたい事は分かる、また、の二文字によりすねた感情を乗せてたからよく分かる。

「そんな事はない。エステルの事を考えてたんだ」
「私のことですか?」
「好きっていってくれてありがとう、俺も大好きだ、っておもってたんだ」
「ええっ!?」

 驚くエステル、頬に手を当てて盛大に赤面する。
 ヘリンとも違う意味で感情豊かなエステル、こういう仕草が可愛くてよく似合う。

 思えばそうだ。
 初めて若返ったときにギルドにいったとき、ヘリンの懸賞金を教えてくれたとき、俺のファンクラブの事をいってきたとき。

 エステルの表情はいつも明るくて、感情豊かだった。
 そんな彼女の事を俺はずっと快く思ってきた。

 手を伸ばし、彼女の頬に――。

「おうおう、こんなところにイチャイチャですか?」
「青カンは刺激的で最高です、ってか?」

 急に、背後からいやしい声が聞こえてきた。
 足音からして二人組の男だ、力はたいしたことない、その辺のごろつきってところだ。
 その二人は無遠慮に近づいてきて、下品な言葉を投げかけてくる。

「いけないなあ、こんなところでいちゃついちゃ」
「コウキョーリョージョクに反するぜ?」

 凌辱してどうするか、なんて思ってると、エステルが怯えて俺の服の裾をぎゅっと掴んでくるのが見えた。

 俺からすればたいしたことの無い二人だ。
 例え背中を向けたままでも、攻撃されれば衣擦れと空気の音で何処を攻撃されるのかを判別出来て、そのままカウンターを叩き込むことが出来る。
 つまりは瞬殺出来る程度の相手だ。

 でもエステルは違う。
 ギルドの受付嬢である彼女が怯える程のごろつきだ。

 怯えるエステル……俺が守らなきゃな。

 そう思って振り向き、男達に振り向く。
 台詞そのままのごろつき顔の二人を見つめた。

「悪いな、見逃してくれ」
「――うっ」
「あ、ああ……」

 男達は何故かたじろぎ、同時に一歩後ずさりした。
 そのまま互いを見て、額に大粒の汗を流す。

「し、仕方ねえな」
「今日のところは見逃してやらあ」

 と、ありきたりな捨て台詞を残して去っていった。

 びっくりした、拍子抜けした。
 あの手合いの連中は多少痛い目を見ないと引き下がらないから、向こうが逆上しそうな「すましやがって」なやりとりで手を出してもらって、カウンターを考えてたんだが、そうはならないで拍子抜けした。

 一体どういう――。

「ルーカスさん!」
「うげっ!」

 いきなり顔をつかまれてぐいっ、と強引に振り向かせた。
 俺の顔をつかんだエステルは至近距離から顔をのぞき込んできた――かと思えば。

「かっこいいです!」
「……へ?」
「その顔かっこいいです! 今までのルーカスさんで一番かっこいいです! キリッとして、でも威張ってるとかでもなく、普通にナチュラルに自然にかっこいいです」
「あ、ああ……」

 思わずタジタジになって、気圧されてしまう俺。
 テンションが加速度的に上がっていき瞳を輝かせるエステル。そのテンションに押されてしまった。

 彼女が俺のファンクラブの事を作りたいっていってきたときの顔と同じだった。

「ど、どうしたんだ一体」
「それはこっちの台詞ですよ、どうしたんですかルーカスさん」
「いやどうしたっていっても……」
「表情が顔に追いついてます。格好良かったのがますます格好良くなりました!」
「表情が顔に追いついた……」

 心当たりが……あった。
 生まれ変わる直前、自分の腹を突き破って出てくる直前に決めたばかりだ。

 自信を持とう、って。

 それが顔に出た……のかな。

「その顔でいいんです。すごく格好良くなりますし、今の人たちもそれだけでルーカスさんにびびりますよ」
「確かに自信のある顔をしてた方が絡まれないって昔からよく言われてきたけど……」

 俺は苦笑いして、エステルに聞く。

「もしかして……俺は今までずっと自信のない顔をしてた?」
「気づいてなかったんですか?」
「いや知ってるけど……ずっと?」

 エステルははっきりと頷く。

「はい、ずっと」
「そうか」

 そんなだったのか。

「うふふ。これでもう、私の好きな人の悪口を聞かないですみますね」
「それは本当に悪かった」
「今度はもっとほめるのを聞かせて下さい」
「それは変な事になりそうだけど……善処する」
「うふふふ……」

 エステルはニコニコ顔で、ものすごく上機嫌な顔で俺に抱きついてきた。
 自信を持つようにしよう、それが顔に出た事がよほど嬉しいようだ。

 そんな彼女を見て、俺はある事を思った。
 もしや……って思った。

「エステル……もしかして……ずっと俺の事が好きだった?」
「え? それはそうですよ――」
「これの時から」

 足元に転がってる老人の姿の俺をさす。
 当たり前な顔で答えたエステルがぎょっとした。

「そそそそそそんな事はないですよ?」

 これがちょっと前の俺だったら「そうか」って残念がって引き下がっていただろう。
 でも今は違う。

 今の俺は自信を持とうとしている。

 俺には技があった。
 七十年間、コツコツと鍛えてきた技が。

 体を持った。
 ビアンカ、ヘリン、ジュリエット、そしてエステル。みんなにもらった新しい体が。

 そして今、心をつけようとしている。
 心技体。
 うち一つは発展途上だが、それでも三つ合わさったことが俺にいい影響を与えてくれた

「エステル」
「え?」
「本当の事を教えてくれ」

 彼女を真っ正面から見つめ、問いかける。
 エステルはますます頬を染めて、恥じらってうつむいてしまった。

「……意地悪」
「そう?」
「意地悪ですよルーカスさん。そんなの――」

 彼女は顔を俺の胸に埋めて、ぎゅっと強く抱きしめてきた。

「――大好きに決まってるじゃないですか」
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