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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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10.懺悔

「エス……テル?」

 一瞬何故そんな顔をしてるのか分からなかった。
 気づくのが遅れた、だって、俺はそれを忘れたかったから。

 70年間の不遇の人生、社会の隅っこに追いやられて泥水をすすっていた生活。
 それを忘れたかったから、気づけなかった。

 エステルは――彼女はかつての俺、「ルカカス」を下に見ていた女の子だった。

「エステル……これは――」
「うおおおお!」

 釈明をしようとした瞬間、ボウヤが雄叫びを上げながら飛びかかってきた。
 両手にそれぞれ光と闇属性を発動させて、血走った目で飛びかかってくる。

「邪魔だ!」

 何も考えずに木刀でボウヤを倒す。
 先に動くカウンターでボウヤの最後っ屁をしずめる。

 感触が少しだけ悲しかった。
 ヘリンの精霊属性ではない、俺が元々持っていたあらゆる物に負ける無属性。
 減衰された手応えを感じつつも、ボウヤを一撃でしずめた。

 彼を放っておいて、エステルと向き合う。

「エステル……」

 しかし、何を言えばいいのか分からなかった。
 驚くエステル、信じられないものをみる目をしている。
 その先が怖かった。
 その先に待ってるのはきっとあの目。

 ジジイまだくたばってなかったのか。

 という目が待ってるに違いない。
 ギルド「蒼空のベルベット」で毎日のように向けられていた目だ。

 だけど。

「ごめん」
「え?」
「言い出せなかったんだ……」

 怖くても言わなきゃいけない。
 だって、俺は。
 俺は――。

「――自分のために黙ってた、騙してた。好かれるのが嬉しくて、本当の事を言い出すと嫌われてしまう、それが怖くて、ずっと黙ってた」
「……ルーカスさんがあの(、、)ルーカスさんだったと言うことですか?」

 頷く。
 視線がそのまま地面に釘付けになって上がらなかった。

「ギルドで笑顔を向けられて――いやそれはまだいい。エステルを騙してあんな関係になって……俺はとんでもない悪党だ……」

 自分がいやになる。
 そんな事のためにエステルを……好意を向けてくれた彼女を騙したのがとんでもなくいやになる。

 …………。

 それももうおわりか、気にする必要もないか。
 だって、これで嫌われるんだから――。

「いいの」
「――え?」

 驚いて顔を上げる、エステルは笑顔を浮かべていた。

「いいのって……どういうこと?」
「気にしないって意味です。だってルーカスさんは、今のルーカスさんでしょう?」
「え?」
「あれ」

 エステルは手をゆっくりをあげて、倒れている坊やをさした。

「今、一瞬でネルソンさんを倒しましたよね」
「ああ……そうだけど……?」
「昔のルーカスさん、おじいちゃんだった頃のルーカスさんは出来なかったですよ。人間に攻撃をするなんて出来なかったはずです。見た目は昔に戻っても、もう中身は今のルーカスさんなんですよ」
「……たしかに」

 エステルの言うとおりだ。
 むかしの俺はほとんどヘリン――精霊ヘリンとしか戦ってこなかった。
 人間に攻撃されて何も考えずに反撃するなんて、あの頃の俺には想像もつかないような事だ。

 肉体的なものは戻った、ヘリンの精霊属性を失った。
 でも、中身は……心とかそういうのは今のものに。
 ビアンカと出会ってからの俺になってるんだ。
 それをエステルが強く主張する。

「ルーカスさんは今のルーカスさんです。私は、今のルーカスさんが好きです」
「……」
「だから、いいんです」
「……」

 ぽかーんと口をあげる。今鏡があったらものすごい間抜けな面を拝めたことだろう。

「それに……あのルーカスさんでも……大体あれはルーカスさんが悪いんだもん……」
「え? 今のどういう――」
「何でもないです!」

 聞き取れなかった言葉を確認しようとしたら赤らめた顔できっぱり遮られた。

「いやでも」
「な ん で も な い で す」

 いいですね! って目で迫られたので、迫力に押されて頷いた。

「それじゃあ、戻りましょう」
「もどる?」
「そうですよ、今のルーカスさんに戻るんです」
「どうやって?」
「もう、やっぱりにぶいんですからルーカスさんは」

 エステルは顔を更に赤らめた、でも呆れた表情をしている。

「ビアンカさんとヘリンさんがいなくなってますし」
「え? あっほんとうだ」

 気がついたらいなくなってる二人、それどころかボウヤもいなくなってる。
 二人がつれていったのか?

 俺の手を引いて、エステルは街に戻る道から外れて、林に向かってつかつか歩き出す。

「え、エステル、何処に行くんだ? それに戻るって」
「バトン」
「え?」
「バトン、私のままみたいです」
「……あっ」

 それでようやく理解した。
 バトン。
 女達の間で通じる言い回し。

 林にはいったエステルは立ち止まって、振り向いて俺を見あげた。

「ルーカスさん」
「う、うん」

 ドキドキする俺。
 体が老人に戻ったせいか、間近にいるエステルによりドキドキしてしまう。

「私、ルーカスさんがどんなになっても好きですから」

 彼女は俺の顔を掴み、唇を強く押し当ててきた。

 俺はエステルと一緒に、また俺自身を産んだのだった
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