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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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07.お手つきの女

 娼館の中、ビアンカの部屋。
 客を取るための部屋じゃなくて、ビアンカ個人の、プライベートの部屋。
 そこに通されて、ビアンカと二人っきりでいる。

 プライベートの部屋に通されたというのは、文字通り客と娼婦じゃなくて、個人と個人が接すると言うこと。
 身請けするための金はまだ払ってない、今は『お手つき』状態だ。
 与えられた猶予は十日、それまで彼女は客を取らなくていい、そしてその間に金を持ってくれば、晴れて彼女は自由の身になる。

「……」

 だというのに、ビアンカは浮かない顔をしていた。
 上品な所作で椅子に座ったまま、眉をきゅっと寄せている。

「もしかして……迷惑だったか?」

 老人のセリフを思い出す、女を知ったばかりの若造――童貞っぽい先走り。
 もしかしておれ……本当に先走ってしまったのか?

「いえ、お気持ちは嬉しいですが……よろしいのですか、ルーカス様」
「よろしいって、なにがだ」
「ご存じないかと思いますが、身請けの申し出は一人につき一度しか出来ないのです」
「……? どういうことだ」

 ビアンカは苦笑いした。
 やっぱり分かってなかったんだ、って言われたような気がした。

「身請けする方が金を揃えるまでの十日間、『お手付き』としてあなた様だけのものになる。という娼館側の温情だと思っていませんか」

 ……思ってた。
 あの老人もなんかそんなことを言ってたし、そうだと思ってた。

「違うのか」
「ある意味ではその通りですわ。身請けの為の金額をきっちりそろえて、十日以内に払えばまさに温情となります。一方で、このお手つきは一人につき、一生涯一回のみです」
「一回だけ?」
「仮に十日以内に必要額を揃えることが出来なければ、ルーカス様は二度とわたしを身請けすることを申し出ることが出来なくなります。冷やかしばかりで商売の邪魔にならないように、ということですわ」
「……」

 言葉を失った。
 ということは……この十日間で金を揃える事ができなきゃ一生ビアンカと一緒になれないってことか。
 やっぱりはやまった……のか?

「でもご安心下さい。身請けを切り出せなくなるだけで、ルーカス様にペナルティはございませんし、通常のお客様としてお越し頂くことは可能――」
「揃える」

 ビアンカの言葉を遮った。きっぱりと言い切る形で。
 ビアンカは驚いた、そして神妙な顔でおれを見つめた。
 驚くだけなら分かるが、なんだ、その表情は?

「……どうしてなのですか?」
「え?」
「どうしてわたくしを? 自分で言うのもなんですが、他の子に比べて華やかさはありませんし、娼婦としては平凡そのものだと思ってます。身請けしたところでルーカス様のステイタスにはならないと思います。今ならまだ間に合います、もっと見栄えのする子になさった方が――」
「そんなの関係ない。あなたが欲しいんだ」
「どうして?」
「あなたはおれに新しい人生をくれた」

 そう、新しい人生。
 彼女を抱いたことでおれはあたらしく生まれ変わった。

 中身はおれのままだ。
 強くなってはいないし、この世界において不遇である無属性なのも変わってない。

 だけど世間の目が変わった。
 こつこつ努力して身につけたものが、ようやく発揮できるようになった、できる場をもらった。
 それが出来るようになったのは若さがあるから、そしてそれをくれたのはビアンカだ。

「だから……わたしにも新しい人生を?」
「半分そうだ」
「もう、半分は?」
「あなたはおれのことを恋人だと言ってくれた」
「それは仕事の上で」
「でもおれの事を覚えてて、分かってくれた」
「……」
「そんなあなたがいいんだ。一夜限りのじゃない、本当の恋人にしたい」
「……こんなわたしでも?」
「あなたがいいんだ」

 同じ言葉を強く繰り返す。

「だから」

 目をまっすぐ見つめて、懇願するかのように、言う。

「信じて……待っていてくれないか」

 ビアンカはしばしおれを見つめ返して、やがて、おずおずと頷いてくれたのだった。

     ☆

 金。
 金が必要だ。
 金を稼がなきゃならない。

 一千万ドーラ、ビアンカを身請けするための金。
 それを十日のうちに用意しなきゃならん。
 世の中に金を稼ぐ方法はごまんとある。大金に限定してもまだまだ山ほど残ってる。

 例えば運に自信があるんなら、有り金を握り締めて賭場に走るのもありだろう。
 丁半、もしくは大小。
 二分の一の確率を連続で何回かくぐり抜ければ必要の金が手に入る。

 まあ、それはあくまで運に自信がある人間の話だ。

 この世に二種類の人間がいる、運がいい人間と、そうじゃない人間だ。
 自分がどっちだと考えた時、おれは明らかに運の悪い人間に入る。

 不遇の人生を七十年間も過ごしてきたのが何よりの証拠だ。
 一か八かの運にかけるのはばからしい、一発目で元手を全部スってしまいかねない。

 そして――昨日までなら八方ふさがりで、それこそ賭場に走るしかなかった。
 だが、おれは少しだけかわっていた。
 今のおれは、運に頼らなくてすむ。

 そんな風に、生まれ変わっていた。

     ☆

 ビアンカにビアンカに見送られて娼館をたって、ギルドにやってきた。
 エステル嬢がカウンターにいて、おれの姿を見るなり満面の笑顔を浮かべた。
 単なる好意ってだけじゃなくて、尊敬をしてる人間の表情。

 七十年間いろんな人のを見てきて、昨日はじめて自分にも向けられる様になった表情。
 ちょっとくすぐったい感じがした。

「いらっしゃいませ。どうしたんですかルカさん、クロケットの討伐のサポートをお願いしたはずですけど」
「この後すぐに行く、それよりも仕事したい。明日の分のクロケット討伐はまだあいてるか?」
「明日の分も埋まりました」
「くっ」
「けど」
「けど?」

「マスターからいわれてます。もしルカさんが来たなら優先的に順番を回すようにって」
「え?」
「知ってます? うちのマスターって、若い人にチャンスをあげるのが好きなんですよ?」
「……」

 知ってるさ、知ってるともさ。
 いやっていうほど思い知らされてきたことさ。
 数十年間、その方針のせいで冷や飯を食わされてきたんだ、知らないわけがない。

「それでですね、今朝のクロケットはルカさんが倒した形になったんですけど、それはアレクサンダーさんがダメージを与えてたからかも知れない、って話になってたんですね。そうなのかどうか、ルカさんが一人で倒しきれるかどうかを見てみたいって事で、もし申し出たら優先的に割り込ませるようにっていわれました」

 言葉を失った。
 かつての逆風が、今は追い風になった。

「どうしますか? 今なら割り込むの間に合います――」
「もちろんやる!」

     ☆

 翌朝、神殿にやってきた。
 おれがクロケットを一人で倒せるかどうかを確認するために、エステル嬢が一緒についてきた。
 衛兵に挨拶して、神殿の中に入った、時を待つ。

「あの……ルカさん」
「なんだ」
「ルカさんはどこから来たんですか?」
「どういう意味だ?」
「実は……気になって調べたんです。クロケットを一撃で倒せる程の人なら、きっとどこかで有名になってるはずだって。アクリーじゃなくても、他の場所で。それに無属性がならなおさらです」
「……」

 確かにそうだ。
 神に嫌われてるとまで言われる無属性の持ち主、その大半は強くなれない。
 戦闘じゃ攻防全てにおいて不利なのだ、攻撃で八割しかダメージが通らなくて、防御しても常に二割増しでダメージを受ける。
 だから無属性の人間は早々に諦めて、他の道を進むのが普通だ。
 ならおれはなんで数十年も修行をしたのか? ってことだが。

 純粋に才能がなかったからだ。
 戦闘以外はもっと才能がないからだ。

 例え不遇の無属性であっても、おれには戦う事しかできない、それしか出来ない人間だ。
 だから無属性のまま、戦いにしがみついた。

 まあそれはともかく。
 おれは七十年弱修行してきた、才能がないことを差し引いて大体普通の人間の四十年分……いや三十年くらいはある。
 無属性で三十年分くらいの力なら、確かにものすごく噂になって、有名になってもおかしくない。
 それをエステル嬢が調べて、該当者なしと不思議がってる。

「今まで地道にコツコツ修行してただけだ。不遇の無属性だけど、これしか出来ないからな」
「そうなんですか……あこがれます」
「憧れる?」
「はい。実はわたし……」

 エステル嬢はそう言って、べろん、と袖をめくろうとした。
 その時、空間がふるえた。

 空気があきらかに変わり、神殿の中心にある魔法陣が煌めきだした。
 何かを言いかけたエステル嬢を置いて、魔法陣の方を向く。

「話は後で聞く、下がってろ」
「はいっ」

 エステル嬢は慌てて離れた。
 魔法陣と向き合う。全身を脱力させてクロケットの復活を待った。

 やがて昨日あった大人の女の姿をした精霊、クロケットが復活した。
 復活するなり、真っ正面にいるおれをじろりと睨んだ。

 動かない、先には動かない。
 そっちの才能がないおれはさっきに動いたら一瞬でミンチにされる。
 だから待った、向こうが先に動くのを。

 待った時間は一秒にも満たなかった、クロケットはすぐに襲いかかってきたのだ。
 右腕を一瞬だけ弓引いて突き出してきた。
 昨日とは違う動き、初めて見る動き。

 ヘリンの数倍は速い動きだ、当たったら一瞬であの世行きだが。
 動いた瞬間、下半身の――人間でいう膝の辺りにつけ込める隙が四カ所あるのを見つけた。

 先に動いた相手よりも早く動く!

 木刀を抜いて、隙に全力の一撃を叩き込む!
 膝から突き入って、えぐる様にカチ上げて両断する。

「――――!」

 人間には発音できないような断末魔を残して、クロケットは真っ二つにされ、跡形もなく消えた。

「すごい……本当に一撃だ……しかもクロケットよりも速い」

 驚嘆するエステル嬢。
 まず、一回。
 ビアンカを身請けするための最初の一歩を踏み出した。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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