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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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09.リセット

 しばらくの間沈黙が流れたあと、痩せた男が口を開いた。

「ふさわしくないからだ」
「ソゥ!」

 デブの方がとがめる様な口調で痩せの名前を呼んだ。
 痩せの方は諦めた、観念したような顔をして、更に話した。

「そっちの女が領主の妻としてふさわしくないからだ」
「わたくし……ですか?」
「そうだ、アクリーの領主。クムスの何処よりも複雑奇っ怪な情勢のまっただ中にあるアクリーの領主。その妻が元・娼婦では話にならない。そう思う人間が確かに存在する」
「……」

 ビアンカは黙った。
 元娼婦が領主の妻にふさわしくない……?

「そういえばそのような話もあったのじゃ」
「……おれ、か?」

 視線を向けてくるヘリン、俺はそこでようやく、アクリーの領主というのが自分をさしている事を理解する。
 そういえば数日前にそんな事を言われてた、まだ具体的な話が何も来てないからすっかり忘れてた話だ。

「だからネルソンの御曹司をたきつけた」
「一度は引き下がったネルソン様が強攻策に出たのはそのためだったのね……」
「何故面と向かって説得をせぬのじゃ?」
「童貞に初めての女を手放すように説得するのは骨が折れる。五千万ドーラすら蹴ったって聞く」
「よく調べがついてるのじゃ」

 笑いながら話すヘリン、ビアンカも穏やかに微笑んでいる。
 だから理解が遅れた。

 だけど、それでも分かる。
 そのひどさと、身勝手さが分かる。

 分かってしまうと、怒りがふつふつと沸き上がってきた。
 腹の底からの怒り、瞬間に沸騰するほどの怒り。

「ふ……ざけるな!」
「ルーカスさん!?」

 怒りが呼び水になって、腹の底にいったんは――ここ最近押しやった熟成されたものまで引き出してきた。

「そんな理由で狙ったのか! そんなの! 本人にはどうしようもないことだろうが!」

 痩せた男を怒鳴りつける。

「娼婦だって好き好んでそうなったわけじゃないんだ! それを……元だからってぇ……そんな自分じゃどうしようもないことでお前達はっ!!」

 木刀を振り上げる、怒りにまかせて振り下ろそうとした。

「まあ待つのじゃ」

 ヘリンが木刀を受け止めた。
 怒りにまかせた変哲のない一撃、ヘリンは簡単に受け止めた。

「止めるなヘリン!」
「そんな事をしても無駄じゃ。こやつらは使いっ走り、殺したところでその考えを持つ輩が遠くでのうのうとしているままじゃ」
「それは――そう、だけど……」

 ヘリンの言うとおりだ。
 命令されてきた実行部隊に八つ当たりしても仕方ない、その命令を出した人間にこそ怒るべきだ。
 それはその通り、その通りなんだが……。

 それでも、目の前の男達が憎くて仕方なかった。

「その怒りは黒幕に会ったときまで取っておくのじゃ。それまで意趣返しを続けていればそのうち向こうから出てくる」
「意趣返し?」
「うむ」

 ヘリンはニカッと笑った。

「妻として手元に置き続けていれば、向こうが勝手に機嫌を損ねてくれるのじゃ」

 あっ……。
 そうだ、そうなんだよな。
 そうするだけでいい話なんだよな。

 意趣返しだけじゃない。

 元・娼婦(ふぐう)でも、帳尻が合うようにずっと愛し続ければいいだけだよな。

「……ビアンカ」
「はい」
「絶対に、話さない」
「はい」

 ビアンカはしっとりと頷いて、体を寄せてきた。
 彼女をぎゅっと抱き締めて、気持ちと決意を伝えるために強く抱きしめたのだった。

     ☆

 小船を畔に寄せて、捕縛した痩せとデブの男を、待機させていたシンシの使用人に引き渡す。
 それを見送った後、エステルがしみじみと口を開く。

「ルーカスさん本当にすごいです、あの二人の本当の狙いがビアンカさんだって分かるなんて。本当にすごいです」
「別にすごいことじゃない」
「でもそれが分かるのはルーカスさんだからですよね。どうしてそんなに分かるんですか」
「それは……」
「小僧がネガティブだからじゃろ」

 ヘリンが断言する口調で、俺の代わりに答えた。

「ネガティブ?」
「うむ、小僧は自分が他人よりも劣ってると思っているのじゃ」
「実際劣ってるから」

 苦笑いするおれ。俺なんか才能も無くてダメダメだからな。

「うむ。そんな劣ってると思ってる小僧が、仮に自分の考えと誰かの考えが相反した場合、相手の考えの方が正しいと思うじゃろ」
「そうなんですか?」
「思うよ? だってそうだろ?」

 当たり前の顔で聞き返すように言う。

「そのネガティブさが相手の意図を理解する技に繋がるのじゃ。少しでも自分に自信を持つ人間にはできん。無能な小僧が運良く身につけたもの」

 無能な俺が運良く……。
 そうかもしれない、ヘリンの説明は腑に落ちるものだった。

     ☆

 街に戻る道中、女三人はルーカスに先行していた。
 守るためには全体を見渡せる後ろの方がつごうがいい、という事でルーカスは用心棒のごとく後ろからついていくといいだした。
 それを受け入れた三人、ルーカスと数シャーク離れて歩いている。

「さっきの話」
「うむ?」
「あれは本当なのですか?」

 ビアンカがヘリンを見つめた、ヘリンはにやりと口角を持ち上げた。

「無論嘘……いや方便じゃ」
「方便ですか?」
「小僧はな、下手にほめるとかえって自信をなくす。努力さえもほめてはいかんのじゃ」
「そういえば、それをいうと慌てて否定したがりますもんね」
「うむ。じゃからあの様な言い方をしたのじゃ。ダメな人間にしか身につかないものを身につけてる、そこに褒め言葉をのせぬ。結果見ての通り、小僧はすぅ、と受け入れたじゃろ」
「本当は?」
「小僧のあれは誰もが到達できる域じゃ。しかし誰もが小僧のように専心して一つの事を50年間出来るわけではない。後は分かるじゃろ? その先にあるのは陳腐な言い方じゃ」

 ヘリンがいい、ビアンカが離れてあるくルーカスをちらっと見た。
 陳腐な物言い、三人の頭の中に共通したフレーズが浮かんだ。

 努力の天才。

「それを言えばルーカス様は必死に否定しますわね」
「するね」
「だから言わんのじゃ。まあ、わしはそんな小僧も気に入っているのじゃがな。初々しくていいし、ネガティブなところも見方を変えれば可愛らしいのじゃ」
「そうなのですね」
「お前はどうじゃ?」
「ルーカス様の唇、やける程熱かったので」
「体目当てか、これは一本取られたのじゃ」

 ビアンカのそれが決して「体目当て」で片付くような事ではない事を理解した上で、ヘリンは楽しそうにいった。

「お前はどうなのじゃ?」
「私!? 私、は……」

 水を向けたられたエステルが戸惑った。
 ちらっとルーカスを見て、眉をひそめる。

「私は……」

     ☆

 三人の後ろを歩いていた俺はまわりの気配を探りつつ、いつでも戦えるように用心していた。
 アクリーがうっすらと見えるところまで戻ってくると、道のまん中を塞いで、こっちをにらみつけてくる男の姿を見つけた。
 端正な顔をゆがめて、にらみつけてくる男。

「ネルソン様……」

 つぶやくビアンカ。
 それはボウヤだった。彼はまるで親の敵を見るような目でこっちを睨んでいる。女達ごしに俺を睨んでる。

「バカにしやがって……さんざん人をバカにしやがって……」
「何をしに来たのじゃ。貴様の父が――」
「父上のお叱りとかもう知るか!」

 叫ぶボウヤ、目が血走っている。

「むぅ……いじりすぎてしまったようなのじゃ」

 反省の言葉を口にするヘリン。
 一方、血走っているボウヤが睨んでるのはあくまで俺だった。

 殺意を向けられているのも俺、何かをしようとしてるがその矛先も俺。
 ビアンカ達に何かをしてそれで俺を脅すとか、そういう意図はないみたいだ。

 なら簡単だ。

 俺は真横に向かって駆け出した、ボウヤがこっちを睨んできて、視線が完全にビアンカたちから離れた。

 木刀を抜いて立ち止まる、ボウヤに向き直って構えた。
 ボウヤが飛びかかってきた。
 両手を広げ、それぞれ光属性と闇属性の魔法を使いつつ、飛びかかってきた。

 無造作に飛んでくるボウヤ、全身が隙だらけだ。
 木刀でそのうちの一つを突いた。

 先に動くカウンター、ボウヤのみぞおちに綺麗に入った。

「がはっ!」

 目玉が飛び出そうなくらい瞠目して、胃液を吐いて悶絶する。
 殺すつもりはない、しばらく動けなくするだけだ。

 ボウヤの力なら、一時間程度はまとも動けないだろう。
 それは読み通りだった、ボウヤは地面に倒れて悶絶して、苦しそうに悶えた。

 が。

 ボウヤが放った魔法が残った。
 光魔法と闇魔法。二つの属性がボウヤの手から離れて、空中で溶け合った。

 溶け合ったそれは白に近い、何もない色になっていた。

「これ、どうなるんだ?」

 ボウヤの意思は感じられない、魔法そのものに意思はない。
 だから――何が起こるのか分からない。

 それがアクシデントというものだって分かったのは、大分後になってのこと。
 まだ分からない俺は、事態を見守るしかなかった。

 やがて、魔法は広がり、俺ごと辺り一帯を包んだ。

「……む?」

 魔法が消えた。体を確認、どこかケガしたり悪くしたりってのはないようだ。
 慣れ親しんだ(、、、、、、)からだ、数十年間共にしてきた感覚。

 意図のない魔法は不発だったのか、と思っていたら。

「ルーカス様?」
「小僧……その姿……」

 驚くビアンカとヘリンの声。
 俺のすがた? どんな姿をしているというんだ?

 手をみて……手がしわしわになっていた。
 老人の様な(、、、、、)しわしわになって、ついさっきまであったヘリンの紋章もなくなっている。

「昔の……俺?」

 それはビアンカと出会う前の自分、生まれ変わる前の――老人(だめ)だった自分の姿。
 なんだ、これに戻ったのか。
 道理で感覚が慣れてるとおもった――。

「ルーカス、さん?」

 どきっとした。その声にどきっとした。
 どきっとした意味さえもわからずに、声の方を向く。

 そこには、思いっきりびっくりした顔の。
 エステルが、信じら慣れない顔で俺を見ていたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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