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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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08.痩せとデブ

 アクリー郊外、サリルの湖。
 湖の上を、一隻の船が浮かんでいた。

 船の中に三人の女がいる。
 一人がローテーブルの前に座り、残った二人がそれを向き合って座っている。
 私塾の講師と生徒、そんな感じの座り方だ。

 講師ポジションにいるビアンカが、テーブルの上に置かれた琴を鳴らしていた。
 その姿は嫋やかで、艶やかで。弦の上の指はまるで踊っているかのように。

 耳を澄ましているのはヘリンとエステルの二人。
 ヘリンは腕を組んで尊大に、エステルは膝の上に握りこぶしをのせてドキドキ顔をしている。

 緩やかに立ち上がった曲は一転、激しさを増していく。
 その一方で奏者のビアンカの表情はより穏やかになっていく。

 やがて曲が終わり、湖に残響を残した。

「す、すごいですビアンカさん」
「うむ。太后たるものが入れ込むのも分かるのじゃ。ここまでの腕前になるには相当の苦労があったのじゃろうな」
「そんな事ありませんわ。娼婦として当たり前です」
「謙遜するな、この時代の娼婦にそれが求められている事は知っている、が腕がなければ太后も気に入ったりせん」
「私もそう思います!」

 ほめるヘリンに力説するエステル。ビアンカは微かに頬を染めて微笑んだ。

「でも不思議です、いまの曲を聴いてると……その、胸がドキドキしてきます」
「そういう曲なのよ」
「え?」

 ビアンカが穏やかな――母にも似た穏やかな笑みを浮かべたままエステルに言った。

「人の想い、思慕の想いを呼び起こす曲なの。想いが強ければ強いほど激しく共感する曲よ」
「あっ……」

 瞠目し、口をあけてぽかーんとするエステル。
 そんな彼女は演奏の途中から顔を赤らめっぱなしで、心音の激しさが静かな湖の上で他人にも聞こえるくらいだった。

 一方のヘリンはといえば、腕組みして泰然と振る舞っているが、よく見れば手のひらにじんわりと汗が滲んでいて、腕に指が食い込んでいる。

 二人とも、ビアンカの曲に触発されているのがありありと分かる様子だ。

「その様な曲を持ってくるとは、侮れない女じゃ」
「ここは女同士腹を割って話す場だと思ったのですわ」
「女同士か」
「ええ、女同士」

 ビアンカとヘリン、互いに見つめ合って、微かにうなずき合った。
 女同士腹を割って、言うまでもなく、三人しかいない船の上、更に湖のど真ん中というロケーションをさしたものだろう。

 そういう話(、、、、、)をするのにこの上なくふさわしい情景だ。
 そう、なのだが。

「その話まった」
「あの世でゆっくりするといいんダゼ」

 突如、闖入者が現われた。
 船の左右から挟み込むようにして現われた二人の男。
 片方は圧倒的な高身長ながらもヒョロガリと言ってもいいくらい痩せていて、もう片方は女性陣よりも身長は低くてタルに見えるくらい太っている。

 痩せとデブ、急に現われた二人にエステルが驚く。

「い、いきなりどこから? それに――水の上に立ってる?」

 驚愕するエステル。
 そう、二人は水の上に立っている。
 湖のまん中にある船を挟み込んだ二人は足に船を使うことなく、水の上に直でたっていた。

「悪いな、このまましんでもらう」
「あの世でついた男を恨むといいんダゼ」

 痩せとデブがそう言って、同時に襲いかかった。
 二人とも見た目通り、痩せは短刀を使った流星雨の如く斬撃のラッシュ、デブは金属の金棒を使ったフリおろしの一撃だ。

 二人の攻撃を――女達は怯えていなかった。
 ビアンカやヘリンはもとより、エステルでさえも怯えていなかった。

 二人がその事を変に思ったときには、それぞれの手首に打撃を喰らっていた。
 後の先の極み、先に動くカウンター(、、、、、、、、、)

 木刀の打撃が二人の手首を打って、攻撃を退いた。
 やったのは、ルーカス。

 女達のまん中、船の中に潜んでいた彼が襲撃者を一撃で退けた。

「何故いるんだおまえ!」
「……」

 ルーカスは木刀を構えて二人を睨む。
 その瞳には、まだ少しだけの迷いが残っていた。

     ☆

 本当はやりたくなかった。
 シンシから相手を聞いて、その目的の予想も聞いて。
 ならば誘い出すためには……という作戦を立てたのはいいが、それはみんなを危険にさらす作戦だった。

 『攻め込むカウンター』のために三人を――三人だけを使った。
 一瞬とは言えみんなを危険にさらす、それがつらくてたまらなかった。
 もう二度とこんなことは――。

「女冥利に尽きますわ」
「私もそう思います」
「え?」

 びっくりしてビアンカとエステルをみる。

「想う殿方に命を預ける経験なんて、人生にそうそう何度もあることではありませんわ」
「すごくドキドキして、すごく嬉しかったです」

 敵をつり出すためのエサにした二人は怒るところか、むしろ喜んでいた。
 その事にこっちが逆にドキドキした。

 まるで、全てを受け入れられる様な、全てを許された様な。
 そんな気分になってすごくドキドキした。

「ええい! こうなったらまとめて倒せば!」
「何も問題ないんダゼ!」

 奇襲に失敗した二人は仕切り直して襲ってきた。
 ビアンカがアシストして(腹を割って)くれたおかげで予定通り今回の黒幕をおびき出せた。ここで逃さずきっちり倒さなきゃ。

 痩せとデブは水の上を疾走して、船のまわりをぐるぐる回った。
 痩せは更に手数を増やして、デブは必殺の攻撃を船に向かって放ってくる。

 それに合わせてカウンターを放つ。木刀で先に動くカウンターを放って反撃した。

 痩せは早い、デブの動きは重い。
 だけど対応出来る、どっちも隙だらけで反撃は充分に出来る。

「この程度ならわしが出るまでもないようじゃな。大人しく守られる姫君を満喫していようかの」

 俺が優勢になってるのをみて、ヘリンは軽口を叩いた。

「ヒャアッ!」
「ふごっ!」

 瞬間、二人の動きが変わった。
 見た目通り風の如く素早い痩せ、一撃一撃が必殺の威力で放ってくるデブ。
 それが入れ替わった。

 痩せがデブ以上の重い一撃を放ってきて、デブが分身を作り出すほどの超スピードで一人挟み撃ちした。

 いきなりの変化、イリュージョンのように幻惑する動き。
 それを、俺は冷静に対処した。

 痩せの指の付け根を正確にカウンターでうち、デブの足の小指のしびれるツボにカウンターで動きを止めた。

 奇襲の奇襲が失敗して、飛び下がる二人。
 相変わらず水の上に立ったままだが、二人の瞳は驚愕に満ちていた。

「な、なんでいまのを見抜けた」
「意図が丸見えだ」
「意図、だと?」
「ああ、こっちが速さ、こっちがパワー、それを相手にすり込もうとしてる意図が丸見えだ。そして変化する意図も」
「ばかな! そんなのいままで一度も見破られたことがないんダゼ」

 それは分かる。
 俺もちょっと前までだったら――『攻め込むカウンター』のために動きの意図を意識してなかった頃なら分からなかった。
 でも今は分かる、手に取るように。

 そして、もう一つ。

「言え、何故ビアンカを狙う」

 木刀を突きつけると、二人の顔色が変わった。
 そう、もう一つの意図。

 三人に攻撃をしかけているが、必殺の気配はビアンカにだけ。
 三人とも殺せればいいが、ビアンカだけは何が何でも殺さなければいけない。

 そんな意図、そんな気分が二人から感じていた。
 それを突きつけられた二人は、死ぬほどびっくりしていた。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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