挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

66/75

06.三段活用

 シンシと話がついた後、みんなと一緒に帰ることにした。
 応接間を出て、屋敷の外まで案内するというメイドの前でヘリンが言ってきた。。

「小僧よ、腕を出すのじゃ」
「腕? これでいいのか」
「うむ」

 ヘリンは上機嫌に腕を組んできた、身長差はあるから、腕を組むって言うよりは抱き枕にしがみつくような姿勢になった。

「あっ! 私も私も」

 それを見て、エステルが反対側に回って腕を組んできた。
 こっちは普通に組めた、体が柔らかくていいにおいがして、胸が高鳴ってしまう。

 左右の腕を二人に取られ、不意にビアンカの事を思い出して彼女を見た。

「どうかなさいましたか?」
「え? いや……その……」

 ビアンカはいいのか、って聞いてもいいのかと悩んだ。

「気にすることはないのじゃ小僧。こいつは正妻の余裕とやらを楽しんでいる」
「せ、正妻の余裕? それって何?」
「こういう時に腕を組まない方がうれしいと言う事じゃ」
「えええ?」

 そうなのか? ってびっくりしてビアンカをみる。
 ビアンカは答えなかった、出会った時から何一つ変わらない上品な微笑みを浮かべていた。

「さあ行くのじゃ」
「いきましょう!」

 二人に引っ張られて歩き出す俺、その横にビアンカがしずしずとついてくる。
 まるっきり子どもみたいなヘリンとも、明るく可愛い町娘のようなエステルとも違う。
 ビアンカの振る舞いは一つ一つが洗練されていて、頭のてっぺんからつま先に至るまで気品に満ちあふれていた。
 この屋敷の女主人、と言われても納得するくらいの上品さだ。

 俺たちはメイドに先導されて屋敷を出た、建物から出るなりボウヤと出くわした。

「げっ」

 遭遇したボウヤはビクッとして、俺の顔と後ろの屋敷を交互に見比べた。
 怯えている様にも見える。

「な、何しにきたんだお前は」
「えっと……」

 なんだっけ?
 いや分かるんだけど、口が上手くないからどこから説明したらいいのかが分からない。
 ビアンカとシンシのやりとりも半分くらいは理解できてなかったしな。

 俺は少し考えて、分かっている範囲で答えた。

「ネルソンさんに調べものをお願いしに来たんだ」
「……ふん」

 ボウヤはしばらくの間俺をじっと見つめてから不機嫌そうなまま鼻をならした。

「つけ込めるとみたらつけ込んできたか。これだから貧乏人は」
「えっと……」
「これで貸し借りなしだ。さっさと消えろ。なんだその目は、言われなくても今後一切そのブスに関わらないから安心しろ。ブスを重宝するのはお前の様な貧乏人だけだ」

 ……ブス?
 ブスってビアンカの事か?
 分からない、分からないけど、エステルが唇を尖らせて怒っている。
 それで多分間違いないなって思った。

「ビアンカは――」

 反論しようとしたところ、一頭の馬が駆け込んできた。
 柵を開ける門番に尻餅をつかせるほどの勢いで馬を駆ってきて、俺たちの前、屋敷の真ん前で止まった。

 いななく馬を手綱で鎮めて、流れるような動きで馬を下りる。
 若い男だった。
 ボウヤもそうだが、それ以上にイケメンで――精悍な顔つきをしている青年だ。

 青年は俺たちをぐるっと見回してから、メイドに向かって口を開く。

「ジークフリート・サン・クムスだ。ネルソン卿はご在宅か」
「サン・クムス!?」

 驚いたのはボウヤ。青年――ジークフリートが名乗った直後に彼は反射的にかかとを揃えて、気ヲ付ケ(、、、、)の姿勢になった。

「どういうことなんだ?」
「王族じゃ」

 俺のつぶやきを拾って、ヘリンが小声で答えた。

「ジュリエット嬢と名前がにているじゃろ?」
「あっ……そういえば」

 ジュリエット・アン・クムス。
 うん確かにそっくりだ。

「サンということは、嬢ちゃんの叔父にあたるのだろうさ」

 ジュリエットは確か王女だから……そのおじさんか。
 なるほど、ボウヤがびびるのも分かる。
 俺もちょっとびびってる、そんな人を前に緊張する。

 目当ては俺たちじゃないから、さっさと帰ろうと思った。

 立ち去るよりも早く、騒ぎを聞きつけたシンシが出てきた。
 顔を知っているのか、シンシはわずかに驚きながらも、ジークフリートの前にやってくるなり流れるような所作で腰を折った。

「これはこれはジークフリート様。当家にいかなる御用向きで?」
「太后様のお言葉である、謹んで拝聴せよ」
「はは」

 ますます俺たちと関係ないからさっさと立ち去ろうとしたのだが。

「昨年サリルの湖の畔で聞いた琴の調べが耳から離れない、あの時のあの子を連れてきてもう一回弾かせて頂戴。……との事である」
「御意にございます。して、引き手はどなたですかな」
「ビアンカなるものだ」

「「えっ?」」
「ほう」
「……」

 驚くおれとエステル、面白そうな顔をするヘリン、いつも通りの表情のビアンカ。
 俺たちは思わず立ち止まって振り向く、こっちを見てくるシンシと目があった。

「太后様のお話の娼館へ赴いたはいいが既に身請けされていると聞く。娼館の主は商売倫理とやらを持ち出して身受け先を教えない。ネルソン卿、在地の卿なら見つける事は造作もなかろう?」
「もちろんでございます」
「三日やる、それまでに――」
「その必要はございません」
「何?」
「ビアンカ()はちょうどそこにいらっしゃいますれば」

 シンシはそう言って、ビアンカをまっすぐ見た。
 ジークフリートはその視線を追ってビアンカを見た。
 舐めるような視線、値踏みするように頭のてっぺんからつま先までを見た。

「なるほど」

 ジークフリートは小声でそうつぶやいたあと、ビアンカの前に立った。
 そして、シンシにするのとはまるで別種類な、謙ったような態度を取った。

「ビアンカ様でいらっしゃいますね」
「太后様の使者様でいらっしゃいますね」
「お話は伺っております、どうかいつものように」

 ジークフリートがそう言うと、ビアンカはほんのちょっとだけ苦笑いした。

「タバサさんは元気ですか?」

 ビアンカがそう言うと、シンシとボウヤがびっくりした。
 特にボウヤなど死ぬほどびっくりしている。

「ふ、ふふふふ、不敬だぞお前!」

 ボウヤが大声をだすが、ジークフリートが彼をじろりと睨んだ。

「太后様のご意向である」
「え?」
「タバサさん、名前で呼ばないと不機嫌になるのですわ」
「ビアンカ様なればこそです。あなた様にそう呼んでほしい、太后様の数少ない望みと聞き及んでおります」

 ジークフリートとビアンカのやりとりを聞いて、ボウヤはますます驚き――愕然となった。
 シンシが「なるほど」と納得する一方で、ボウヤは茫然自失となった。

「ふふふ、どんな気持ち? のういまどんな気持ちじゃ?」

 ヘリンはものすごく楽しげにボウヤを煽った、口には出さないがエステルもいい気味ってな感じの顔をしている。

 なんでそうなるんだ? って理解する暇もなく話は進む。

「出来ればこのまま都までご同道いただければ」
「申し訳ありません。わたくしはもうあの方のものですので」
「それも理解しております。ならばお引き合わせ願いたい、わたくしから直接お願いする機会を」
「そこにいらっしゃいますわ」

 ビアンカはおれを見た、ジークフリートは「やっぱりか」って顔をしてこっちをみた。

「役者じゃな、ビアンカがいる時点で立ち位置から察しがついたものを、それでもあえて知らぬフリをしたか」

 ヘリンが感心した様子でつぶやく。
 やっぱり理解する暇もなく、ジークフリートは俺の前にやってきて――片膝をついた!

「ジークフリート・サン・クムスと申します」
「え? えええ?」
「どうか、ビアンカ様をお貸し下さい」

 そうか、ビアンカの主人は俺だからそうしたのか。
 こっちはどうにか理解できて、驚きはそこそこですんだ。
 そこそこですんだから、ボウヤの反応が目に入った。

「父上に……ビアンカに……あんな男に……」

 ぶつぶつつぶやき、愕然となって、顔が真っ青になるボウヤ。

「ふふふ、どんな気持ち? のういまどんな気持ちじゃ?」
「ざまあ、ですね」

 そんなボウヤを何故かヘリンが更に煽り、エステルはおもいっきりスカッとした顔をしたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ