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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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05.遠くて近い

「あるはずがないってどういう意味だ?」
「……」

 直前まで顔を赤らめていたヘリンが、今度は顔を真っ赤にした。
 言葉にすれば同じ「赤」だが、込められている感情がまるで違っていた。

「わしはな小僧、言葉は二種類あると思っているのじゃ」
「え? い、いきなりなんの話だ?」
「今の貴様にもわかりやすいように例えるのなら、意図のある言葉と意図のない言葉だ。そして何かしら意図のあるものはその意図が強ければ強いほど言葉――行動が強くなるものじゃ」
「ああ」

 それはヘリンの言うとおりだ。
 さっきのもそうだった。
 何が何でも女をさらうという意図があって、それが人間一人をあんな醜い肉塊に変える程の呪法になった。

「言葉も同じじゃ。小僧はわしを何があっても傷つけない、そう言ったな?」
「ああ、いった」
「ならば――」

 ヘリンはにやりと口角をゆがめた。

「ケガしているはずがないのじゃ」

 はっきりと言い切ったヘリン、わかる様な、分からないような話だ。

 そうだ!
 俺はビアンカ達の元に駆け寄った。
 グロい現場を目撃して気絶したエステルはビアンカに支えられ、壁を背もたれにして座らされていた。

 エステルに駆け寄る俺、入れ替わりにヘリンに向かって行くビアンカ。

「驚きですわ」
「何がじゃ?」
「てっきりあのまま照れ隠しをするものだとばかり思っていましたわ」
「言うべき時はいうのじゃ。小僧は自信がないにも程がある、もう少しそれをつけさせねばな」
「わたくしは今のままでも充分素敵に思えますわ」
「わしは違うな、小僧にはまだ伸びしろがあると思っているのじゃ」
「それには同意ですわ」
「ならば不思議に思うこともなかろう」

 ビアンカとヘリンが難しい話をしている中、おれはエステルの顔をのぞき込んだ。
 ショックで気を失っているだけで、ケガとかはないみたいだ。

 下ろしたまぶた、長いまつげ、すらりとした鼻筋に桜色の唇。
 気を失っているのに……なんだか。

「襲うなら部屋の中に運んでからじゃ」
「お、おおおおおそうとかそんなんじゃないから」

 俺は慌てて否定した、まったくないと言えば嘘になるけどでもそういうのじゃないから。
 否定する俺を見るヘリンは。

「これを見ても同じ事を言えるのか? あんな童貞くさいのを」
「これはこれで愛おしいですわ」

 ビアンカと一緒に、また変な事を言い合いだしたのだった。

     ☆

 ビアンカが呼んだ馬車に乗って、家を出た。
 馬車の中には俺の他にビアンカ、エステル、ヘリンの三人がいる。
 街中を進む馬車に揺られる、落ち着かない気分だ。

 だって馬車だ、高いんだ馬車は。
 街の中であっても、呼んで目的地に行くまでだけで数万ドーラは取られる。
 数百ドーラが一日の生活費だった(じじい)の俺からしたら雲の上の存在だ。

 そんな落ち着かない気分を押さえて、ビアンカに聞いた。

「これで何処にいくんだ?」
「ネルソン様のお屋敷ですわ」
「ネルソンって……えええ!?」

 なんで? なんでネルソンのところに?

「ビアンカ――」

 それを聞こうとするが、馬車が止まってバランスを崩しかけた。
 俺は壁に手をついてどうにか踏みとどまったが。

「……きゃ、よろめいてしまったのじゃ」

 ヘリンが俺の腕の中に倒れ込んできた。
 小さい体を抱き留める、柔らかくて、いいにおいがする。

「だ、大丈夫かヘリン」
「うむ、よくぞ受け止めてくれたのじゃ」
「むぅ……わたしもきゃあ!」
「えええ!?」

 今度はエステルが俺に向かって倒れてきた。
 馬車が完全に止まったのに何故か倒れてきたが、彼女もちゃんと抱き留めた。

 ヘリンとはまた違う、女の子らしく以外と小柄で、どこもかしこも柔らかくてやっぱりいいにおいがした。

「大丈夫かエステル」
「はい、大丈夫です!」

 エステルはニコニコ顔で俺を見あげた。
 大丈夫ならよかった、と言おうとしたが。

「さすがに今のはどうかと思うのじゃ」
「い、いいじゃないですか別に」
「これ自体悪いとは言ってない、タイミングの問題じゃ。自分から飛び込むよりちゃんとしたアクシデントで助けてもらった方がときめき度が高いのじゃ」
「え……あぁ……」
「理解した様じゃな」
「はい。次からはそうします」

 なんだかよく分からないけど、エステルはヘリンにちょっとだけ尊敬する人をみるような視線を向けた。
 二人がやりとりしている間にビアンカは外に向かって何かいって、馬車は再び進み出した。
 窓からちらっと外を見ると、馬車はとある屋敷の敷地内に入っていくところだった。

     ☆

 屋敷の中、広大豪勢な広間。
 そこに通された俺たちはこの屋敷の主と対面していた。

 シンシ・ネルソン。
 この屋敷に見劣りしない仕立てのいい服を来ている気品のある男が俺たちの前にいる。

「本日はどのようなご用ですかな」

 シンシは俺に質問した。
 四人の内俺がまん中に座ってるのでこっちに質問が来たんだけど……正直俺にもよく分からない。
 救いを求めて隣のビアンカに目を向けた。

 ビアンカは膝の上に手を揃え、背筋をピンと伸ばしてまっすぐシンシを見つめている。
 どきっとした、どこかの城のお姫様、あるいは女王様。
 そんな風に見えた。

「わたくし、さらわれかけました」
「なんと、それは本当ですかな」
「それはそちらが一番よく知っているはずではありませんか?」

 聞き返すビアンカ、え? どういうこと?

「ルーカス様。あれの目的はわたくしをさらうこと、間違いありませんわね?」
「え? ああ、それはそう」

 いきなり水を向けられて慌てる俺。
 ビアンカだけじゃないけど、俺の女をさらっていくという意図を強く感じた。

「ルーカス様がいなかったらわたくしはどうなっていたでしょうか?」
「間違いなくさらわれてた」

 それは自信を持って言える。
 俺がいなければヘリンも本来の力を出せないから、間違いなくあそこにいた三人はさらわれただろう。

 それはそうだけど、何故かシンシが苦虫をかみつぶした様な顔になった。

「……」
「なにかおっしゃりたいことはありませんか?」
「当家は一切関与していない」
「そのお言葉だけで信じらなければならないのでしょうか」
「時間をいただきたい」
「本当に信じても?」
「当家の名誉をにかけて」
「分かりましたわ」

 よく分からないやりとりをした後、ビアンカは俺に言った。

「ルーカス様、ネルソン様が犯人を突き止めてくださるそうですわ」
「本当ですか!」

 パッとシンシを向く、苦い顔をしつつも頷かれた。
 そうか、シンシに調査を頼みに来たのか。

「当家の名にかけて、必ず真犯人を突き止めてみせましょう」
「ありがとうございます! お願いします!」
「その間皆様の安全も当家が――」
「その必要はないのじゃ」
「はい、大丈夫です」

 ヘリンとエステルが同時に言った。

「大丈夫、とは?」
「小僧が守ってくれるのじゃ。何があっても、わしらに傷一つはつけさせぬ。じゃろ?」
「ですよね?」

 ――っ!
 ヘリン、エステル、そして無言だけど見つめてくるビアンカ。
 三人の目にあるのは、信頼。
 俺を信頼してくれる目。
 それは、答えなきゃならない目だ。

 俺は三人をまっすぐ見つめ返す。

「ああ、守る。誰であろうと傷一つつけさせない」

 と宣言した。
 宣言した後、シンシが目を見開かせて驚いてるのが見えた。

「どうしたんですか?」
「いや失礼、あなた様を見誤っていたようです」
「え?」
「若者と思しき浮ついた感じ、かと思えば長い歳月を土台にした強い意思」

 しみじみと話すシンシ、なんか似たような事を前にも言われたことがある気がする。
 シンシはため息一つついて。

「愚息では到底、相手にはならなかったということですな」

 と、言ったのだった。
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