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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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04.誰も傷つけさせない

 男の関節を最低限はめ直して、縛り上げて動けないようにする。
 男は俺とヘリンを睨んでいた。
 一度死を覚悟した後の人間はその反動で気が強くなることが多い。
 この男もそういうタイプのようだった。

「何をしようと無駄だ、俺は何も喋らん」
「気骨のあるよい若者じゃ。なあ小僧」

 ヘリンは笑顔のまま俺の方を向く。

「こやつ、わしにまかせるつもりはないか」
「任せるって……何をするんだ?」
「ちょっと痛めつけて口を割らせるのじゃ。首謀者と目的を吐かせねばこの先安心して寝ることもできんじゃろ?」
「それは……そうだけど」
「小僧に拷問の心得があるのなら小僧にまかせるぞ?」
「いや、そんな心得はない。見た事もないし本当に出来ない」

 直前に諭されたばかりだけど、こればっかりは本当に無理だ。

「さもあろう。小僧は拷問とは縁の遠そうな顔をしているのじゃ」
「褒め言葉……じゃないよな」
「どうかな?」

 ヘリンは笑顔のままそう言って、男の方を向き直った。
 一瞬ぞっとした、俺から外れた目線――その瞳が氷の様に冷たかった。
 それはヘリン、精霊ヘリン。

 かつて神殿で毎日会っていたヘリンと同種類の瞳。
 その瞳を、ヘリンは男に向けていた。

「無駄だ、俺は何もしゃべらん」
「気骨のあるいい若者じゃ」

 ヘリンはそう言って、ヒュン、と腕を振った。
 恐ろしく早い一撃、人差し指をかぎ爪状にして男の頬をひっかいた。
 文字通りかすり傷、男の頬から鮮血が一筋流れた。

「脅しか、無駄な事だ」
「いやいやいや」

 ヘリンはますますニコニコした。

「わしは脅しなどせんよ」
「なに?」
「まあ今に分かる」

 そういって、またヒュン!
 男の反対側の頬にもかすり傷が出来た。

 ヒュン!
 ヒュン!!
 ヒュンヒュンヒュン!!!

 ヘリンの腕が唸る、神速の二つ名に違わぬ超スピードで腕を振った。
 それはかつて俺の腕がちぎれたときに縫い合わせてくれた動きとよく似ている。
 異なるのは、あのときは治療だったのが、今は傷を作るためにしている。

 流星が紡ぐ電網に包まれる男、傷が加速度的に増えていく。
 一つ一つはかすり傷だ、紙で指を切った、その程度の傷でしかない。
 その程度(、、、、)の傷がものすごい勢いで増えていく。

 切り刻まれる男、やがて露出している肌にびっしりとかすり傷が刻まれるようになる。
 どう少なく見積もって数百という単位で、傷がびっしりつけられている。
 蓮の構造に恐怖感を覚える人間だともう見ていられない有様になった。

「や、やめろ……」
「いやいやいや」

 ヘリンはニコニコと笑ったままだ。

「まだまだ序の口じゃ、まだ400回程度じゃ。わしの最高記録は9千強なのでな、せっかくだし新記録を狙おうとおもっているのじゃ」
「いち、まん……?」

 きょとんとする男、ヘリンの言葉の意味を理解しきれない、という表情だ。

「それまで死んでくれるなよ?」

 ヘリンは切り刻むのを再開した。
 露出している肌から徐々に浸食していき、袖や裾が末端から徐々に削られ、皮膚が切り刻まれていく。

 ここで俺はようやくわかった。これがヘリンの拷問なんだと。
 一つ一つはかすり傷でしかなくても、ここまで増えればもう激痛でしかない。

 事実、男は絶叫し始めていた。
 痛みに耐えかねて絶叫した。

「やめろ! いっそ殺せ!」
「いやいやいや」

 ヘリンは同じ台詞を繰り返して、更に男を刻む。

「や、やめてくれ……はなす、話すから」
「いやいやいや――」
「ヘリン」
「むぅ?」

 俺が口を挟んだことで、ヘリンは手を止めて、訝しげに俺を見た。

「どうしたのじゃ?」
「話すって言ってるし、もういいんじゃないのか?」
「ふむ。しかしわしの経験上、まだ千とちょっとだから本当の事を話すとはかぎらんのじゃ。本当の事を吐くと確定するラインまでは後3千は必要じゃ」
「さ……」

 俺ではなく、男の方が言葉を失った。
 気持ちはわかる、これを更に三倍も? って顔だ。

「しゃ、喋る! 本当の事を喋るから」
「っていってるけど、とりあえず喋らせてもいいんじゃないか?」
「小僧がそういうのなら是非はないのじゃ」

 ヘリンはまたあの(、、)ニコニコ顔、目が笑ってないニコニコ顔を男に向けた。

「言ってみろ。適当に嘘言ってごまかそうとすればすぐにすぐに再開するからそのつもりでな」
「女をさらえって言われたんだ!」
「え?」

 どういう事だ?

「ふむ、本当くさいのじゃ」
「なんでそんな事が分かる」
「やめてほしくて一番重要な事からはなしておる。本気での命乞いに聞こえる」
「なるほど」

 俺には分からなかった、さすがヘリンだ。

「で? 何のために――いや。誰に命じられたのじゃ?」
「それは――」

 男が更に口を開く、ヘリンがいう「命乞い」の口調で口を開いた。
 瞬間、目が見開かれ、体がけいれんしだした。

 カクカクと震え、口から泡を吹く。

「むっ」
「どうしたんだ?」
「これは……呪術? 喋った時に口封じする呪法か」
「えええ?」
「むっ、下がれ小僧」

 ヘリンはそう言って、俺をさらって大きく飛び下がった。

 ガクガクと震えた男は一旦倒れた後、体が大きく膨らみ上がった。
 人間だったのが、醜い肉塊のように膨らみ上がった。
 もはや魔物にしか見えない様な姿だ。

「これって」
「だから口封じじゃ、あわよくば話を聞いたかもしれん相手もろども、な」
「な、なるほど」

 肉塊――魔物を見た。
 まがまがしい姿になったそれはこっちに殺意を向けて来ている。

 俺は木刀を握り締めて、ヘリンの前に出た。

「俺がやる」

 戦いなら話は早い、そしてこの殺気なら向こうから攻撃してくるはずだ。
 なら、俺でもどうにかなる。

「いいじゃろ。しかし手心は加えるなよ? 目的が目的じゃ、あやつは人間にはもどれんし少しでも手を抜いたらそっちが消されるのじゃ」
「分かった」

 俺は納得した、ヘリンの言うことはきっと正しい。
 口封じ目的なら、人間に戻れるようなやり方をしたら意味ない。

 男は気の毒だけど……倒すしかない。

 男が変わり果てた肉塊が攻撃してきた。
 まるで粘土か餅のように体の一部を伸ばして襲ってきた。

 スピードとパワーはあるが、技やテクニックは無い。隙だらけだ。

 いつも通り先に動くカウンター(、、、、、、、、、)で反撃して、肉塊を切りおとした。

「え?」
「どうした小僧。無理ならわしがやるから変わるのじゃ」
「……いや、大丈夫だ」

 俺は木刀を握り直して、肉塊と向き合った。

 伸ばしてくる肉を一つ一つ切りおとした。

「ぐろいのう」

 ヘリンがこぼす。まわりは――家の庭は肉が飛び散るちょっとしたホラーになった。

「ルーカス様?」
「ルーカスさん――きゅう……」

 まともな戦闘になって、騒ぎを聞きつけ出てきたビアンカとエステル。
 ビアンカはぎょっとした程度で済んだが、エステルはものすごい現場を見て気を失ってしまった。

 ビアンカ達が出てきた事でやっかいになったけど……まだ大丈夫。
 これなら(、、、、)、まだ。

 俺は肉塊を反撃で切り刻んでいく。
 大きく膨らみ上がったそれが徐々に小さくなって、今や俺の体いかだ。

「終いじゃな――むっ」

 腕組みして観戦気分になっていたヘリンの顔色が変わった。
 切りおとされた肉塊が一部集まってヘリンを襲った。
 彼女を包んで、どこかに連れ去ろうとした。

「この程度のもの――えっ?」

 手をあげて肉塊を切り刻もうとするヘリン。
 彼女よりも更に速く、俺がそれを切り刻んだ。
 ばらばらになる肉塊の中に、光る玉があった。
 赤、青、緑と、順番に色を変えていく玉。
 俺はそれを掴んだ。

「これが本体、なのかな?」
「それを知ってたのか?」
「いや、でも意図はわかった」
「意図は」
「うん、意図は(、、、)

 肉塊と戦いだした瞬間、その意図を感じた。
 ヘリンが言うような口封じではなく、あくまで女をさらおうという意図を感じた。
 動きからそんな気分が伝わってきたのだ。

 だから出来た。向こうがヘリンに襲った瞬間、それよりも先に動けた。

 ヘリンと玉の間に割って入って、光の玉は更に肉塊を操って、集めて攻撃をしかけてくるが。

「むだだ」

 木刀を振って、玉を粉々に砕いた。

「俺が好き人には、かすり傷一つつけさせない」

 そう、絶対に。
 俺なんかを好きになってくれる人は絶対に傷つけさせない、何があっても、絶対に。
 そんな意図を込めた一撃で玉を粉々に砕いた。

 キュン。

「うん?」

 なんか変な音が聞こえた。背中の方から聞こえてきた。

「なんか言ったかヘリン」
「なっ――」

 振り向くと、ヘリンはどういうわけか盛大に赤面していた。

「な?」
「な、なんでもないわ!」

 彼女はそう言い捨てて、そっぽ向いた。
 盛大に赤らめた顔を不思議に思いつつも。

「ケガがなくてよかった」

 俺はホッとしたのだ。

「あるはずがないのじゃ……」

 ヘリンはぶつぶつと何かをつぶやいていた。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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