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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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03.七十年の重み

「何故それが分かる」

 ヘリンが訝しげに聞いて来る。

「え? そ、それは……」

 ヘリンにそう言われると自信を無くしてしまう。
 あのヘリンがいかにも「分からない」って顔をしてるんだ、あのヘリンが。

 ヘリンでさえ分からないのに俺がわかるのか? いやそんなはずはない。
 俺なんかヘリンよりも洞察力が優れてるはずがない、ならこれも錯覚に違いない。

「悪い、俺の勘違――いたっ」

 ヘリンに足を踏まれた。
 彼女は俺を見あげてニコニコと――背筋がぞっとする類のニコニコ顔で見あげてきた。

「小僧の思考を当ててやるのじゃ。どうせわしが不思議がったものじゃから自分の推測があってるはずがないと思ったのじゃろ。わし以上であるはずがないと」
「うっ」

 完全に見抜かれてる。

「まったく、あの娘と約束したのではないのか」
「エステルのこと? それはそうだけど、別にネガティブとかじゃなくて、普通にヘリンの方が俺よりも上だって思ったからで」
「それこそ見当違いじゃ」
「え?」

 どういう事だ?

「貴様の名は?」
「え? お、俺の?」
「名を名乗ってみろ」
「ルーカス……ヘリン殺しのルーカス」

 言ってからハッとした。

「そうじゃ。貴様はヘリン殺しのルーカス。わしの上を行く男じゃ」
「そ、それは……」
「さあ話すのじゃ、わしの上を行く見解を」

 ヘリンにまっすぐ見つめられる、真剣な目だ。
 俺は深呼吸してから、言った。

「言葉にするのは難しい、今までその努力をしてなかったから」
「ふむ」
「ただわかる、あそこにいるヤツはボウヤの目的と違う」
「なるほど」

 ヘリンは頷き、納得したような表情になる。

「人の行動には目的の気配が匂いがする、それが小僧の目にははっきりと違ってうつる、と言う事じゃな」
「う、うん。ごめん説明出来なくて」
「充分じゃ」
「え?」

 ヘリンはにやりと口角を持ち上げた。

「それで充分じゃと言ったのじゃ」
「いいのか?」
「小僧の話す事じゃ、信じよう」

 ぽかーん、となったのが自分でも分かった。
 俺が言うから信じる。
 理由があやふやでも俺が言うことだから信じる。
 そんな最大級の信頼を寄せられてぽかーんとなってしまった。

「さて、そういうことなら捕らえて吐かせねばならんのう。小僧のそれでは目的の詳細まではわからんのじゃろ?」
「う、うん。違うって事くらいしか」
「ならば捕まえるのじゃ」

 ヘリンはそう言い、ちらっ、と気配のする方向を見た。
 瞬間、潜んでるそいつが逃げ出した。
 ヘリンが見ただけで逃げ出した。

「ちっ、素早い」

 ヘリンが追いかけようとしたが、進んで二シャーク――俺から二シャーク離れた瞬間身体能力が見た目通りの女の子に低下した。

 追いかけられないヘリン、一目散に逃げる相手。

 様々な思考が閃光の様に脳裏を駆け巡る。
 逃げる相手、相手の動き。
 それを誘導する俺の動き。

 木刀を手放した。開いた五本の指から木刀が地面におちる。

 ゴトン、という音があたりに響く。

「――っ!?」

 逃げ出す相手の動きが一瞬止まった。俺の手から武器が離れた事で戸惑いが生じて、動きが止まった。

 それを読んでいた――いや誘導した俺は向こうがとまる前に動き出していた。木刀を手放した瞬間既に突進していた。
 途中でヘリンをかっさらって、そのまま直進。
 男の顔が戸惑いに変わった瞬間にはヘリンと共に迫っていた。

「よくやった小僧、後は任せるのじゃ」

 ヘリンが嬉々として相手に向かって行った。
 相手は「やられた!」って顔をして改めて逃げだそうとするが、ヘリンの神速の前ではそれは不可能だった。
 逃げる方向にヘリンが常に先回りした。

「……」

 相手は立ち止まって、天を仰いだ。

「観念などさせん」

 ヘリンは閃光の如く突進して、手を相手の口に突っ込んだ。
 今一瞬感じたのは諦め、そして死の気配。
 自決しようとしたのをヘリンは止めたのだ。

「大人しくしているのじゃ」

 そう言って、相手のあらゆる関節を外した。
 あご、肩、肘、股、膝、そして指。
 あらゆる可動部を外して、動けなくした。
 相手はまるでタコかイカの様な軟体動物のようになって地面にへたり込んだ。
 痛苦に顔をゆがめるが、あごが外れているので悲鳴も出ない。

「これで確保、じゃな」
「ありがとう、ヘリンのおかげだよ」
「そして見事じゃ小僧、あれで見事にこやつの動きをコントロールしたのじゃ」
「いや、まだまだだ。上手くいったけど、まだまだ練習とか研究とかしないと」
「小僧らしいのじゃ。じゃが、わしの見立てでは少し違うのう」
「違う?」

 どういう事だ?

「うむ。小僧は既にそれをマスターしているのじゃ。そうでなくてはあれほど瞬時に、そして見事に誘導など出来ん」
「そんな事ない、だって俺は才能がないんだ。新しい技だからこれからコツコツ積み上げないと」
「それも見解がちがうのじゃ」
「え?」
「小僧は既にコツコツそれを積み上げて習得しているのじゃ。今まで使えんかったのは自分でブレーキを掛けていただけ。諦めというブレーキでな」
「え……?」
「そんなに不思議な話か?」
「だって……」
「小僧の七十年は、木刀を振っていた『だけ』か」

 ヘリンは「だけ」を強く強調した。

「極論じゃ。箸の使い方はその辺の小童より上手い、とわしが言ったらどう思う」
「それは……そう、かも……?」

 さすがにそうかも知れない、箸は70年間使ってきたから、幼い子どもよりも上手いっていわれるとまあそうかも知れない。

「つまりはそういうことじゃ、小僧はあのカウンター以外も70年間コツコツと積み上げているのじゃ、自分でも気づかぬうちに、そして目をそらしてな」

 そう……なのか?

 俺は自分の手のひらを見た。
 俺は……俺の七十年間は。
 もっと他に何かを残していたのか?

「当たり前じゃ」

 全肯定するヘリン。本当にそうかも……という気分にさせられたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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