挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

62/75

02.ねこじゃらし

 朝鳥が鳴きたそうにうずうずしている夜明け前。
 俺は木刀を持って、庭に立っていた。

 素振り。
 数十年間続けてきた素振り、一日たりとも欠かさずにやってきた素振り。
 それを今日もやった。
 早く、鋭く、シャープに。

 必要な事を全て意識して、木刀を振っていく。
 日課の一万回はすぐに終わった、木刀を下ろして一息つく。

「構えろ小僧」
「え?」

 殺気が吹きすさぶ北風の如く顔を覆った。
 パッと振り向き、目で捕らえる。

 ヘリンが精霊光を曳いて襲いかかってきた。
 身の毛がよだつ程の殺気、ふがいない(、、、、、)事をしたら本当にそのまま殺されそうな、それを痛感するほどの殺気。

 閃光の様に飛び回るヘリンをじっと見つめ、彼女が鋭い手刀を放ってきたところに隙だらけになった反対側の肩を木刀で突く。
 先に動くカウンター(、、、、、、、、、)
 攻撃してくる敵の動きを見極めて、相手の攻撃よりも先に(早く)反撃する。

 俺が唯一出来た技はヘリンの肩を打った。
 一瞬、ヘリンの顔が痛苦でゆがんだ。

 それは一瞬だけのことだった、彼女は飛び下がり、満足げな顔で俺を見る。

「見事じゃ小僧。奇襲でもわしに後れをとってないな」
「なんとかだ」

「謙遜は不要じゃ。ふむ、新しい体も動けるようじゃな」
「うん、元通りみたいだ」
「わしの紋章は」
「それも生きてる。減衰なしの手応えだった」

 木刀を持つ右手を掲げて見せた。
 そこにヘリンの紋章……彼女が曳いてる精霊光と同じ光を放つ紋章が輝いてる。
 ヘリンがそばにいるときに限りこの紋章が発動して、俺の右手から放つ攻撃はあらゆる属性の減衰なしで通る。

 ボウヤに吹っ飛ばされた右腕だが、こっちも元通りに再生した。

「元通りか。ならその先を見せてみろ」
「先?」
「来るのじゃ」

 にやりと口角を持ち上げるヘリン。
 来るのじゃって言われても何をすればいいんだ?
 こっちから行くなんて――あっ。

 こっちから(、、、、、)

 今までまったく出来なかった、前の人生(七十年間)諦めてきた事。
 出来る様にしたいこと。それをヘリンはやれって言うのだ。

 目をつむって、深く息をすった。
 俺より遥かに強い(、、、、、、、、)ヘリン、全力でやらせてもらう。

 足元にちょうど、犬の尻尾の様な草があった。
 それを左手で抜いて突き出す。先端の穂は不規則に揺れる。

「くくく、わしはネコじゃな」

 ヘリンは楽しげに言って、俺が突き出す草――猫じゃらしに飛びついた。
 そこに合わせてカウンター、木刀は軽くヘリンの額を小突いた。

「まだ未完成だからこれで勘弁してくれ」
「問題ないのじゃ。やろうとしてることは分かったのじゃ」

 そりゃ分かるだろ。俺よりも遥かに頭のいいヘリンだ、これで分からないはずがない。

「ネコに取っての猫じゃらしの様なものを、人間にも通じるように大量に覚えればいいのじゃな」
「うん。猫じゃらしもそう、これもそう」

 手を差し出す、ヘリンはその手を握った。
 柔らかくて小さな手だった。

「効果的な誘い(、、)をこれから探して覚えていくんだ」
「人間を手拍子で操るわけじゃな」
「今まで以上に考える事が多くて頭がパンクしそうなのが不安だ。今までは何も考えないで来た攻撃に反撃すればいいだけだけど、先に動く時はその動きの意図とかをちゃんと考えないといけないから」
「弱気になるな、貴様は何者じゃ?」
「……っ。ヘリン殺しのルーカス」
「そうじゃ、であればその程度の事楽勝なのじゃろ」
「……ああ」

 頷くおれ。
 ヘリンの期待にこたえたい。

 そのためにも色々覚えなきゃな。

 相手を操る動き、こっちの意図通りに動かす動き。
 そのためには……そうだな、俺自身の意図をはっきりさせないとな。
 相手に攻撃をさせるのか、どんな攻撃をさせるのか、どのタイミングで攻撃をさせるのか。

「これほどの凜々しい顔が出来るのにその自信のなさか。まあ、小僧の伴侶の峻別に役立つからこれはこれで」

 うん、そうだな。
 それが出来るようになるには、何よりもしかける俺自信がその意図をはっきりとさせないといけないな。
 今まで以上に動きの意味を意識しなきゃ。

 全ての行動に意味を持たせよう。
 俺は才能が無いんだから、普段からそれを意識して、コツコツと体に叩き込もう。

「さて、この顔をずっと見ているのも悪くないが。それでは他にドヤされかねん。小僧、おい小僧!」
「えっ! あっ、どうしたんだヘリン」
「呆けるのは朝餉の後にするがいい。ビアンカが用意して待ってるのじゃ」
「そ、そうだな。えっと……」

 ヘリンに言われて、家の中に戻ってまずは朝ご飯――となったその時。

「――っ!」

 俺は明後日の方角にパッと向いた。
 何もないところをじっと見つめる。

「あまり見てやるな」
「えっ?」
「そこにならず者が潜んでいるのじゃ。まあどうせ昨日と同じように貴様の命を狙う輩じゃろうがな」
「気づいたのか?」
「無論じゃ、気配を殺しているようじゃが、わしの目は誤魔化せん」

 ヘリンは得意げに言った。
 ……気づかなかった、そんなのが潜んでたなんて。

「すごいな、さすがヘリンだ」
「ほめるより小僧も気づけるようになるのじゃ。向こうの気の緩みでしか気づけないとなるといざという時が危ういのじゃ」
「うん、わかった」

 ヘリンの言うとおりだ、もっと早く気づくように感覚を鋭くしなきゃ。
 暗殺者(?)の気配を探りつつ、ヘリンと一緒に家の中に戻る。

「あれ?」
「今度はどうしたのじゃ」
「……違う」
「何がじゃ?」
「違う……」

 意識するようにしたからだろう。
 相手の動きを誘導するための動き、その意図を考える事を意識するようになったから、それが分かる様になった。
 潜んでいる相手、こっちに敵意を向けている相手。

「違うって何がじゃ」
「あれも……昨日の朝もそうだった」
「ええい、一人で納得してないでわしにも教えるのじゃ」

 憤るヘリン、俺は彼女をみつめ、言った。

「あそこに隠れてるの、ボウヤの手下じゃない」

 意図が――意識がまったく違うものだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ