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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第六章

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01.迷惑料

「エ、エステル」

 じゃっかんどもりながら、俺はエステルに切り出す。

「はい、なんですかルーカスさん」
「せ、責任取るから! ちゃんと取るから!」

 一世一代の大勝負、といわんばかりに切り出す俺。
 断られたらどうしよう、もしそうなったら――。
 なんてネガティブな想像をどうにか押さえての大告白だったが。

「――ぷっ」

 エステルは何故かきょとんとしたあと、小さく吹きだした。

「な、なんで笑うんだエステル」
「いいえ、何でもありません」

 やけにリズミカルに、「え」と「ん」にアクセントをつけるニコニコ顔のエステル。

「責任、とらせてあげます」
「――っ! ああ! 絶対とる、何が何でも取る、死んでも取――」

 エステルは人差し指を俺の唇に押しつけた。

「死んでもはダメです。生きて取って下さい。もしもルーカスさんが死んじゃったら……」
「し、死んじゃったら?」

 ごくり、と生唾を飲む音がやけに響いて聞こえた。

「泣きます♪」
「うっ……」

 な、泣くだって?
 エステルが泣く? 今こうしてニコニコしてるエステルが泣く?

 若返った直後から今に至るまで、エステルはいつもニコニコ顔だった。
 可愛くて、何処までも可愛い笑顔だ。

 そんなエステルが……泣く?

「だから、生きて責任を取って下さいね♪」
「分かった! 生きて責任を取る!」

 彼女を泣かせるわけにはいかない、絶対に!

 決意を固めた後、とりあえず家に戻ることにした。
 俺は自分の死体……自分で自分を産んだ後の抜け殻を見下ろした。

「これも連れて行かないとダメだな。ここに置いとくと騒ぎになる」
「ちょっと猟奇的ですね」
「かといって担いで帰っても……おっ?」

 なにかないか、って思ってまわりをきょろきょろ見回すと、視界の隅っこに布の包みを見つけた。
 近づき、拾い上げて開く。

 包みの中はマントの様なでっかい布と、俺の服が一式入っていた。

「俺の服? なんでここに?」
「多分あのちっちゃい人です」
「ヘリンが?」
「はい、バトンを渡しに来たって言ってましたから、こうなる事がわかってたんだと思います」
「なるほど」

 エステルの言うとおりかもしれない。ヘリンは二回もこれ(、、)に関わっている……いや三回目か。
 俺の前の体と、腹を突き破って出てきたときに元の服を破いて血まみれにするのが分かってるんだ。
 だからこれを持ってきた、そして俺が見えるところに置いてった。

「素敵な人ですね」
「ああ、俺にはもったいない位だ」

 いまここにはいないヘリンに感謝しつつ、服を着替えて、俺の死体を背負ってマントを被せた。
 前にも何回かやった事、すっかり慣れた。

 とりあえず目立つけどすぐに通報されるような格好じゃなくなった。
 そうなったところで、俺はエステルを連れて帰宅したのだった。

     ☆

「帰ったな小僧」

 家の玄関に入ると、待ち構えていたヘリンが俺たちを出迎えた。
 彼女はつかつかと俺に近づき、右手を取った。

「ふむ、わしの(、、、)紋章は生きてる様じゃな」
「え? ああ本当だ」
「嘘でも知ってたみたいな顔をせんか」

 ヘリンは軽く俺のスネを蹴った。
 よく分からないけど怒らせてしまったみたいだ。

「ごめん」
「ふっ、冗談じゃ。小僧がそんなところに気が回る様な男ではない事は分かっているのじゃ」

 ヘリンはにやりと口角を持ち上げた。
 どういう意味なんだろう。

 解説もしてもらえないまま、ヘリンは俺にいう。

「死体はわしが引き受けるのじゃ、小僧はすぐに応接間へゆけ」
「応接間? なんでまた」
「行けばわかるのじゃ。ほれほやくせい」
「あ、ああ。わかった。行ってくる」

 ヘリンに背中を押されて歩き出したおれ。応接間か、何があるんだろう。

「小僧の女になったようじゃな」
「はい」
「バトンという感覚もわかるな? いずれ貴様が次へとつなぐのじゃ、妙な悋気(りんき)を出すでないぞ」
「分かってます」

 背後から二人の仲よさそうな声が聞こえる。
 世間話するんなら俺に説明くらいしてくれてもいいのに……。

 そんな事を思いながら、応接間につく。
 とりあえずノックして、中に入る。

「お帰りなさいませルーカス様」

 中にいたのはビアンカ――と見知らぬ男だった。
 初老の男だ、穏やかだが威厳のある顔をしてて、その上仕立てのいい……ものすごくいい服を着ている。

 質問されたら十人中十人が貴族って答えるような相手だ。

「ただいま。この人は……?」
「お待ちしておりました、ルーカス様」
「えっと……あなたは?」

 ビアンカが答える前に立ち上がり、俺に向かって腰を折った男。
 ビアンカにではなく、彼に直接聞いた。

「お初にお目にかかります。わたくしはシンシ・ネルソンと申します」
「シンシ……ネルソン。ネルソン!?」

 驚いてビアンカをみる、ビアンカは静かにうなずいた。

「はい、ネルソン様のお父上です」
「なっ……」

 言葉を失う。
 何でボウヤの父親がここに?
 まさか息子が失敗したから父親が出っ張ってきたのか?

 だとしてもビアンカは渡さない、何があっても、誰がきても。
 その決意を自分に言い聞かせるように、ビアンカの前に出て彼女を背中にかばった。

「違いますわルーカス様」
「違うって――ッ!」

 振り向いた先にあるビアンカに思わず見とれた。
 びっくりするくらい――息を飲むくらいビアンカは美しかった。

 まるで人生の幸せの全てを知った様な、そんな顔をしていた。

「ルーカス様」
「……え? あっ、その、あの……ええと、び、びび、びびびび」
「落ち着いて下さいなルーカス様」
「おおおお落ち着いてる」
「とりあえず深呼吸なさって下さいな。すって」
「すー」
「はいて」
「はー」
「はいて」
「はー」
「はいて」
「は、ぁ……」
「……」
「……」
「……」
「……ぷはっ!」

 盛大に咳き込んだ、貪欲に新しい空気を肺に取り込もうとする。
 ビアンカの深呼吸に付き合わされて息が止まりそうだった。

「落ち着かれましたか」
「お、落ち着いた……」

 にっこりと微笑むビアンカ。さっきの表情じゃなくなったから俺も落ち着いた。
 ……前にもこんなことがあったようなきがする。

 改めてシンシと向き直る。
 こっちで会話して放置してたのにもかかわらずシンシは怒った様子はない。
 とりあえずソファーに座らせて、俺も向き合って座った。

「それで……あの……どういうご用なんでしょう」
「愚息が大変失礼をしました」

 シンシはもう一度、深々と頭を下げた。

「ルーカス様の細君に懸想をしただけでは飽き足らず、その上暴行まで……何といってお詫びをすればいいのか」
「……」

 えっと、つまり?
 理解するまで大分時間がかかった、予想もしてなかった展開だからだ。

「二度と無いようにしっかり言い聞かせ(、、、、、)ますので、なにとぞ」
「謝ってる……のか」
「はい」

 ビアンカが横からささやく位の声で、俺にだけ聞こえる程度の声で言った。
 謝る……ネルソンが、貴族のネルソンが俺に?

「二度とアクリーの土は踏まないと約束いたします。なにとぞ」

 何故、シンシがここまで下手にでるのか分からないが……。
 俺はビアンカをちらっと見た、あの時の(、、、、)ボウヤの顔を思い出した。

 ビアンカに自信とプライドを丸ごと粉々にすりつぶされたボウヤ、俺がなにかするまでもなくもう再起不能級のダメージを喰らってるんだ。
 そもそも俺は別にそこまで恨んでない。

 ビアンカを奪おうとする気持ちはわかる。
 もちろん渡さない、ビアンカは誰にも渡さない。
 渡さないのが大前提で――ビアンカのような最高の女を奪いたい気持ちはわかる。

 だから、そこまで恨んではない。
 むしろ俺程度の人間をあそこまで念入りに攻略してきたのは尊敬すらするレベルだ。

 だから、俺は恨んでない。

「……いかがでしょう」
「わ――」

 何かいおうとしたとき、ビアンカが俺の手を握った。
 シンシに見られないように、って感じで死角から俺の手を握った。

 どういう事だ? と戸惑っていると。

「もちろんただとはもうしません」

 シンシは頭を上げて、軽く手を叩いた。
 するとドアが開いて、見た事の無い――シンシの使用人が数人、箱を担いで入って来た。

 子供がかくれんぼうで入って隠れそうな程度の大きい箱。
 シンシの使用人はそれを俺の前に置いて外にでた。
 シンシは立ち上がって、箱を開けた。

 そこにあったのは……黄金。
 まばゆいばかりの黄金。

「迷惑料です、お納めください」

 シンシがそう言った後、ビアンカはおれの手を離した。
 ビアンカは……これを読んでたのか。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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