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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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12.ネガティブ解消

 血まみれの俺の足元に、腹にぽっかり穴が開いた前の俺が転がっていた。
 その腹から這い出た俺、もはや見慣れてしまった光景。

 俺には見られた光景だが、彼女はそうじゃなかった。

 エステル嬢――エステルはあんぐりと口を開けて、二人の(、、、)俺を交互に見比べた。

「こ、これって……」
「こういうことなんだ。前のゾンビの俺もこれだった」
「そっか、あれもお腹に……でもどうして? どうして……えっと」

 まだちょっと混乱したまま、首をひねって言葉を選ぶエステル。

「どうしてルーカスさんがルーカスさんを産むの?」
「それは俺にも分からない。気がついたらこうなってた。多分だけど」
「だけど?」
「最初の時は死にたくないって思った。お金を出してビアンカを買って、童貞を捨てて――それがすごく素晴しい時間だった。こんな素晴しい事があるのに死ぬなんて――って強く思った」
「強く」
「そう強く。死にたくない、なんとしても生きたい。それを強く願ったら、こうなった」
「……じゃあ」

 少し考えてから、エステルはにこりと微笑んだ。
 彼女の――もはやトレードマークと言ってもいいくらいの、明るくて見ているだけで嬉しさが伝染する笑顔で。

「一途な思いが叶ったんですね」
「そ、そうかも知れない」
「ところで両手が戻りましたよねルーカスさん。思いついた技は出来ますか?」
「ああ、それなら……」

 俺はまわりを見た。
 ちょうどいい具合に木の上にスズメが見えた。

「見てて」

 エステルにそう言って、俺は手を伸ばした。
 エステルに再生してももらった右手、ヘリンの紋章が甲にある右手を。
 伸ばした後、じっとした。じっとしてうごかなかった。

 じっとするのは得意だ、ガマンに通じる事なら、俺は前の人生の50年間でずっとしてきた。
 手を出してじっとしてると、スズメが飛んできて、手の上に乗った。

「乗りましたね」
「それをこうするんだ」

 手を動かす、当然スズメは羽ばたいて逃げようとするが、俺の手からは離れられない。

「あれ? どうした飛ばないんですか?」
「飛べなくしたんだ。飛ぶ瞬間に先回りして逆方向に力を入れるとスズメはそれだけで飛べなくなく。カウンターの応用だ」
「なるほど……あっ、手のひらに乗せたのって」
「スズメは警戒心の強い生き物だけど、一旦警戒心を解いてやれば向こうからやってくる。害意とかそういうのがないってアピールで、手のひらに乗せた」
「はぁ……すごいです……」
「まあ、これは片手だけど。戦闘中はもっと複雑だから、今のを両手でやるんだけど」

 スズメ相手に成功したから、このやり方はいけるかもしれないと思った。
 スズメの次にやりやすいのは魔法使いだ。

 魔法はすごく難しいことで、基本カッチコッチに固められた手順でやるものだ。
 俺の我流と違って、ちゃんとした武術はみんな「型」ってものがある、魔法はその「型」が普通の武術の数十数百倍も厳しい。
 厳しくてちゃんとしてるものだから、隙を見せて誘導しやすい。

 実際に魔法使いと戦ったときにどうなるのかを想像してみる、多分(、、)いけるかも知れないと思った。

「ありがとうエステル、エステルのおかげだ」
「私は何も、むしろルーカスさんに愛してもらって――」
「こんな俺に……本当にありがとう」

 俺は気持ちを伝えた。
 偽らざる気持ち、今の自分の気持ちをそのまま、言葉にしてエステルに伝えた。

 エステルは笑顔になった。
 ニコニコしているのに、なぜか見てると背中がぞくっと粟立つような笑顔だった。

「え、エステル?」
「ルーカスさん」
「は、はい。なんですか?」

 エステルに見つめられて、思わず背筋を伸ばして、ちょっとだけ敬語になった。

「私、ルーカスさんが大好きです」
「う、うん」
「だからルーカスさんとエッチしました。これからもずっと一緒にいたいです」
「それは俺も同じ――」
「だからですね」

 またにっこり。俺は完全に笑顔に気圧された。

「一つだけ守ってください。破ったら――そうですね、実家に帰っちゃいます」

 冗談っぽくはなすエステル。
 それは悲しい、ものすごく悲しい。
 だってそれって、普通に嫁さんに逃げられた夫のじゃないか。
 そんなのは悲しいぞ。

「ま、守るよ。なんでも守る」
「なんでも守るって言いましたね?」
「ああ。何を守ればいい」
「簡単です♪」

 また、にっこり。

「私の好きな人の悪口は言わないでください」
「あっ……」

 それ、なのか。
 もう何回言われたのかわからないくらい、エステルに言われてきた言葉。

 私の好きな人の悪口は言わないで。

 エステルは俺のネガティブを戒め続けてきた。
 より深い関係になったいま、それもより強くなった、一段階上の違う意味を持った。

 ……そうだよな。
 それを言われて気持ちいいわけないよな。

「わかった」

 俺はエステルを見つめて。

「もう、俺の悪口は言わない」

 強い決意を乗せて、こう宣言したのだった。
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