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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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06.ジジイの童貞力

 待て待て!
 おれは今なんて言った? 何を口走った。

「わたしを身請けなさりたいんですの?」

 ビアンカは不思議そうな顔をした。

 うわ!
 え? えええ? えええええ?
 待て待て、今のはなし。
 慌てて手を交互に振った。

「まて、今の違う、今のは違うんだ!」
「落ち着いてルーカス様。こういう時は……そうですね、深呼吸をなさってはいかがですか?」
「し、深呼吸?」
「はい。吸って」
「すー」
「吐いて」
「はー」
「吸って」
「すー」
「吸って」
「すー」
「吸って」
「すー……」
「吸って」
「……ぷっ、げほっ! げほげほっ! な、何を……!?」

 ちょっと涙目になった。

「落ち着かれました?」
「ああ……落ち着いたは落ち着いたけど」

 かなりの力技でな。

「それはよかったです」

 ビアンカがにっこり微笑む。美しい……美しすぎる。
 心が洗われるようだ。
 さっきの力技よりも、こっちの方がよっぽど落ち着く感じだ。

「それでルーカス様。今日はどのようなご用で?」
「あ、ああ。ちょっと話がしたいと思って……って、え?」

 落ち着いたから本来の目的を思い出した……と思ったらまた混乱した。

「今度はどうなさいました?」
「いま……おれの事をルーカスって」
「ええ、だってルーカス様ですわよね。昨日おいで下さった」
「なんで……わかるんだ?」

 今のおれは全然違うのに。
 見た目はそりゃ面影あるかも知れないけど、50歳以上若返ってるんだぞ、普通わからないだろ。
 なんで?

「……あら、そういえば」

 おれが不思議がってるのを見て、ビアンカもようやく気づいたみたいだ。
 なんで、おれの事をルーカスだってわかったって事に。

     ☆

 店の中、リビングの様な部屋に通されたおれ。
 ありったけの金を払って、ビアンカを半日「買った」。
 リビングの様な部屋なのは、その程度の金じゃ世間話程度だぞ、やれないんだぞわかってるな、っていう店側の意思表示。

「やはりルーカス様ですわ」

 ビアンカはおれの手を取って、優しい声で言った。

「この声、この温もり。どれをとってもルーカス様そのものですわ」
「そ、そうなのか」
「ええ」
「そ、そうか。職業柄そういうのがわかる、ってことか」

 温もり、と言う言葉で何となく納得した。
 娼婦である彼女はそういうのがわかるんだろう。
 確かに、客の事は決して忘れないって言う人間はあっちこっちいる。
 飯屋とか酒場でも、一回しか来てない客の事をいつまでも覚える店員がいる。
 それと同じ事なのかな。

「いいえ、ルーカス様だからですわ」
「え?」
「ルーカス様は……そうですわね。他の方に比べて光がつよく、重厚な感じがいたします。なんというか……岩の様なお方」
「岩?」
「ええ、岩」
「そのたとえはよく分からないな」
「わたしはすぐに分かりましたわ」
「そ、そうなのか」
「はい。また会いに来てくださって。ありがとうございます」

 またにっこり、と微笑むビアンカ。
 言葉を失った。

 チョロいのかも知れない。おれってめちゃくちゃチョロいのかもしれない。
 だけど、そこまで言われたらちょろくなくても落ちるだろ?
 こんな風に、自分だけを見られて、特別だって言われたらころっといくだろ。

 腹がきまった。
 さっきと同じ言葉を、今度は衝動的じゃなくて、落ち着いて、彼女の目を見つめながら言った。

「あなたを、身請けしたい」
「ご冗談を――」
「冗談じゃない!」

 大声をだした、ビアンカはまずびっくりして、落ち着いたあと困った顔をした。
 冗談じゃない、本気だ。
 おれの人生をリセットしてくれた、それだけじゃなくておれのことを分かってくれた。

 おれを――恋人にしてくれた。
 ビアンカが欲しい、どうしても欲しかった。
 おれは部屋の外に向かって大声で叫んだ。

「店主! ここの店主はどこだ」

 叫びながら部屋の外にでる。
 それで騒ぎになった、騒ぐおれは他の客やら店の人間やらの注目を集めて、遠巻きに見られた。

 しばらくして一人の男がやってきた。
 初老の男、枯れ木の様な男だ。両横に護衛らしき男を二人従えている。
 身なりからしても、経営者なのは間違いないだろう。

「お客人、いかがなさいましたか」
「ビアンカを身請けしたい」
「なんと」
「いくらだ?」
「本気でございますかな」
「もちろんだ」
「……」
「……」

 無言で見つめてくる老人、それをにらみ返す。
 ガイコツのようなくぼんだ目で見つめられるおれ。昨日までなら尻込みして目をそらしてた所だが、臆すること見つめ返した。
 決意をのせて、まっすぐ見つめ返した。

「本気のようですな」
「当然だ」
「ビアンカは当店の看板、この街のナンバー3でございます。一山いくらの娼婦とは違いしっかりと芸事を仕込んでおりますし、そのほかも色々投資をして――」
「まわりくどい。値段を言え」
「さようでございますなあ」

 老人はすこし考えて、いった。

「一千万ドーナ、というところですかな」
「うっ」

 息を飲んだ、つい気後れした。
 老人が口にした金額は、子供の奴隷を50人は余裕で買える金額だった。
 一千万……駆け出しの若造が大体月に二十万稼ぐって言われてて、おれは大体月十万程度で生活してきた。
 昨日ビアンカを買った時は三十万ぴったりを払った。
 それが……一千万。

「た、高い……」
「ビアンカが売られて来た原因となった借金、芸事の先行投資。ナンバー3としての格式を維持するための身の世話をする人間を解雇する為の支度金……などなど」
「……」
「身請けというのは、女一人だけの話ではございませんので」
「……」
「これは後々逸話になりましょうが、先日さるお方がこの街のナンバー1を身請けした際、娘と同じ重さの金塊を積み上げていかれたとか。それに比べれば……」

 含みを持たせる老人の言葉。お買い得だとでもいいたいのか。

「ルーカス様」

 振り向く、ビアンカがそこにいた。

「……」
「お気持ちだけで、それよりもわたしとお話を――」

 にこりと微笑むビアンカ。
 穏やかで、おれを慰めるための微笑み。
 それをみて――決意する。
 老人を向いて、言い放つ。

「用意する。時間をくれ」
「ほう……?」

 老人のくぼんだ眼窩が見開かれた。
 驚いてるんだろう。
 おれも驚いてる。

 気が大きくなってるのは確かだ、確かだけど。
 それ以上に、おれは、ビアンカが欲しかった。
 絶対に、手に入れる!

「……面白いお客人ですな」
「何?」
「言ってる事ははじめて女を知って浮かれてる若者のそれなのに、瞳と、全身から醸し出す雰囲気には星霜の深みがございますな」
「せいそうのふかみ?」
「星霜、時という意味ですわ」

 ビアンカが代わりに答える。
 ……要はジジイくさいって事か。

「相反する二つの性質を平然と併せ持つお客人、興味が湧いてきましたぞ」
「……」

 こっちは恐ろしくなった。
 童貞くさいのにジジイくさいから、面白くて興味をもったってのがこの老人の言い分だ。
 なんで興味をもったのかわからないが、ちょっと見ただけでおれのそれをしっかり読み取った眼力、それが恐ろしい。

 もしかして……敵にしちゃいけない人なのか?
 そう、思ったが。

「よろしい、代金を用意してくるまで待ちましょう」

 どうやら警戒する必要はなさそうだ。
 老人がそういって、おれはほっとした。
 待ってくれる、金を工面するまで待ってくれる。
 これで……金さえ用意出来れば。

 ビアンカを身請けできる!
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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