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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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11.エステルの想い

「うーん……むむむむむ」
「どうなさいましたかルーカス様」

 ビアンカが聞いてきた。

「いろいろ考えて、ある程度考えがまとまって、もしかしたらいけるかも、って思ったんだけど……」
「だけど?」
「腕が足りない」

 言いながら、視線を落とす。
 そう、腕が足りない。
 今の俺は片腕しかない、右腕はボウヤに吹っ飛ばされて今はない。
 付け根が止血のために炭化させてて、いまもじくじくと痛みを持っている。

「両腕じゃないとだめなのですね。たしかに、先ほどのように握手を誘っても、それで腕が一本塞がってしまいますわね」

 ビアンカはすぐに理解してくれた。さすがビアンカ、俺なんかよりもずっと頭がいい。

「ごめんなさい……私のせいでルーカスさんの腕を……」

 一方で、エステル嬢は沈んで、自分を責めた。

「いやいや、エステル嬢のせいじゃない。俺の力が足りなかったからこうなっただけの話なんだ」
「でも……」
「そうですわ。誰かが悪いという話でしたら、圧倒的にネルソン様が悪いのですわ」

 そう話すビアンカの口調は冷たかった。顔はニコニコして、口調も上品なままなのに背筋が凍るかと思った。

「でも……」

 エステル嬢は俺を――厳密には俺のなくなった右腕をちらっと見て、またうつむいて沈んでしまう。

「ここで先ほどの話が生きてくるのですわ。もう一度お伺いしますわ。エステルさんは、ルーカス様のためなら何でもするとお考えで?」
「うん、何でもします!」

 そ、そんなことをしてたのか。
 ビアンカもエステル嬢も真剣な顔……そんなことを話してたのか。

「では、一度戻りましょう。バトンの持ち主に見ていただきますわ」
「その必要はないのじゃ」
「ヘリン!」

 唐突にヘリンが現れた。
 彼女は少し離れた場所に腰に手を当てた尊大なポーズで立っている。
 一見して幼い少女という見た目だが、そのポーズがとてもよく似合っている

「どうしたんだヘリン、こんなところにぶごっ!」

 手を下ろして、つかつかと俺の前にやってくると、ほとんど前兆なしに俺の腹を殴った。
 小柄の体を活かした下からえぐりあげるようなパンチ。
 それをまともに食らい、俺は悶絶した。

「ルーカスさん!」
「大丈夫ですわ」
「でも!」
「あれは愛情表現ですから」
「何が愛情表現じゃ。こやつがどうせまたふがいないところをさらしただろうじゃから折檻をしておるのじゃ」
「ほどほどになさってください。ルーカス様は大けがをなさっておいてですから」
「ふん、こっちなどいくら殴っても問題ないのじゃ」
「……そうですわね」

 ヘリンが鼻で笑い、ビアンカは微苦笑しつつも納得した。
 苦悶する俺と、きょとんとしているエステル嬢の二人が置き去りにされている。

「ごほっ……そ、それよりもヘリン、どうしてこんなところに?」
「バトンを渡しに来たのじゃ」
「バトン?」
「持つものは渡すべきタイミングがわかるというものじゃ。わしは二度目じゃからな、ついでに場所までわかったわ」

 聞いたことのある言葉を言ったヘリンはそのままエステル嬢を見た。

「……えええええ!?」

 俺はまたまた驚いた、バトンってあれのことだよな、それをエステル嬢を見ながら言うって、えええええ!?

「へ、ヘリン、それはいくらなんでも」
「小僧は黙っておるのじゃ」
「しかし――」
「こういう話をされたくなければ常に五体満足でいるのじゃ」
「ぐっ!」

 それを言われるとかえす言葉もない。
 ヘリンがいうバトンとは、「俺が自分を妊娠出産して新しい肉体に生まれ変わる」ためのバトンのことだ。
 今までのそれは常に、肉体がボロボロになって、それで新しい肉体を心の底からほしいと思ったときになる。

 70歳のじいさんで余命幾ばくもないときから始め、腕をなくした今に至るまで。
 常にそうだった。

 それ(、、)に罪悪感を覚えるのなら五体満足でいろ、というヘリンの言葉は言い返せなかった。

「というわけで貴様にバトンを渡すのじゃ」
「え、ど、どういうことですか?」
「小僧に抱かれろ、それで小僧は生まれ変わる」
「何かの冗談ですか?」
「小娘はたしか見ているはずじゃ、小僧の腹に穴が開いてるのを」
「ルーカス様のおなかに穴……あっ」

 ヘリンに言われて、思い出すエステル。
 ユージンとセルマの事件の話だ。
 あのとき、ネクロマンサー・セルマが操った俺の死体が街で暴れているのをエステルはしっている。

「あれと同じじゃ、あのときもこやつの腹に開いた穴を直したのじゃ。このビアンカが小僧に抱かれてな」
「……あっ」
「つまり貴様が抱かれれば腕が直る。疑問と異論は?」
「……ないです」

 一呼吸間を開けて、エステル嬢はうなずいた。

「うむ、ではわしらは退散する。後は二人でやるがいい」
「家でお待ちしております」

 ヘリンとビアンカはそう言い、連れだって去って行った。
 ネルソンとその部下も回収していき、二人だけが残った。

 残された俺とエステル嬢、とても気まずい。

「え、エステル嬢。今の話は――」
「本当、何ですか?」
「え?」
「本当に私がルーカスさんと――その、あ、あれをしたらルーカスさんの腕は治るんですか?」
「えっと……」

 俺には確信はない、ないが。

「多分、そう」
「じゃあ、します」

 エステル嬢はまっすぐ俺を見つめた。
 決意を固めた目でまっすぐ見つめてきた。

「待ってくれエステル嬢。さっきも言ったようにエステル嬢は悪くない、このことに責任感を感じる必要は――」
「責任感じゃありません」
「え?」
「一目惚れでした」

 エステル嬢ははにかんで、しかししっとりとした声で告げてきた。

「ギルドにやってきたルーカスさんを初めて見たとき好きになりました」
「初めてって……あのとき」

 俺が若返って、初めて「蒼空のベルベット」にいった日。

 あのときは単に若い俺と年寄りの俺との待遇の差に眉をひそめただけだが、まさかあのときのエステル嬢の笑顔がそうだったなんて。

「だから、責任感じゃありません。ルーカスさんにしてもらえるのなら……幸せです」
「でも、俺はだめ男で。才能もなくて、物覚えも悪くて、属性も不遇で」
「でもすごく強くてかっこいいです」
「それは単にコツコツやってきたからで」
「はい、ルーカスさんはきっと――」

 エステル嬢はそこでいったん言葉を切って、それからまっすぐ俺を見た。

「――世界で一番コツコツできる人です」
「……っ」
「それって、すごいと思います」

 エステル嬢の言葉は今までのどんな言葉よりも心にしみた。

 若返った後、いろいろ言われた。
 俺がコツコツやってきたというと、だったら努力の天才なんじゃないのか、っていわれる。

 それは違うと思う。コツコツやっただけで、努力の天才とかそんな大それたものじゃない。

 だけどこれは心にするっと入ってきた。
 世界で一番コツコツやった人。

 それは……そうだと思う。
 何も報われなくても、五十年以上コツコツやってきたんだから、それは事実だ。
 事実だから、心にしみた。

「エステル嬢……」
「私、そんなルーカスさんが好きです。だから……私を抱いてください」
「本当に……いいのか」
「はい」

 エステル嬢ははっきりとうなずき、それから「あっ」と何かを思い出したように言う。
 笑顔で――この姿で初めて彼女と会ったときに見た笑顔を浮かべて。

「エステル嬢じゃなくて、エステル、って呼んでください。好きな人にエステル嬢って呼ばれるとちょっと距離を感じちゃいます」
「そ、そうか」

 それはそうだな。
 咳払いして、気を取り直した。

「え、エステル」

 つっかえながらも彼女の名を呼んだ。
 エステルはにっこりと、再び笑顔になった。
 俺はたどたどしい手つきで彼女を押し倒して、自分のものにした。

 その後、俺は。
 五回目の自分出産を果たした。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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