挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

58/75

10.達人

「『攻め込むカウンターを極めるよ』とおっしゃいました」

 ビアンカが答えてくれた。
 そうだった、俺はそう言った。
 攻め込むカウンターって言っちゃったかもしれない。

「悪い、今のなし。矛盾してるよな。なんだって俺は」
「落ち着いてくださいルーカス様」
「ビアンカ?」

 俺の手を取ってまっすぐ見つめてくるビアンカ。

「お話を聞かせて下さい。どうしてそう思われたのですか?」
「いやそれはアホな――」
「ルーカス様の事、知りたいですわ」

 更に見つめてくるビアンカ。
 穏やかで、でも熱い目で。
 俺はその目に負けて、今考えた事を話した。

「今まで通りの道、新しい道。それはつまり受けるか攻め込むかの二択になる」
「ええ、その通りですわ」
「二択でどっちを選ぶかを考えた時に、ふとその……どっちも選んだらどうなるかって考えてしまって、それ二つのいいとこ取りをしたんだ」
「そうだったのですね」
「すまない、変に矛盾したことを言ってしまった」
「それは本当に不可能なのですか」
「え?」

 驚いて、ビアンカを見つめ返す。

「いや無理だろ。だって攻め込むのにカウンターって。今エステル嬢が言ったようにどう考えても矛盾してる」
「わたくしには」

 ビアンカはにこりと微笑んだ。

「ルーカス様が何もなしにその考えに至ったとは到底思えませんわ。何かおありなのではありませんか」
「なにかって?」
「ルーカス様ほどのお方、きっと何を既に思いついて、それが言葉になったのですわ。けれどそれをご自身が否定してしまうから引っ込んだのですわ」
「それは……」
「わたくしにはそう見えますわ。ルーカス様はわたくしの目を信用出来ませんの?」
「そんなことない!」

 即答で否定する。
 だけどそれは……それって……。
 ビアンカを信用するって事は、俺が思いついていたって事を信用するって意味だ。

 あるのか?
 俺は何かを思いついたのか?

 考える、思考を辿る。ぐるぐるだった思考にもう一回突っ込んでいく。

 今のまま、新しい技。
 後手と、先手。

 その二つを併せ持つようなものが。

「……ある、かもしれない」
「本当に!?」

 驚くエステル嬢。俺も驚いてる。
 そんなエステル嬢に、俺は残ってる左手を差し出した。

 握手を求めるように。

 左手だけど、エステル嬢も左手を出して、手を握ってくれた。

「そうだよな……出したら握るよな……」
「どういう事なんですかルーカスさん」
「その……」

 言いかけ、ちらっとビアンカをみる。
 彼女はニコニコしたまま、しかし信頼しきった目のまま俺を見つめている。
 その目に勇気づけられた、何を言っても許されそうな、そんな気分になった。

「人間の間にたくさん暗黙のルールがあるだろ? 共通認識ともいう。例えば今みたいに俺が手をこんな風に出せば、何もいわなくても握手って分かっただろ」
「はい」
「それと同じように何かをして相手にやらせればいいんだ」
「??? よく分かりません」
「ふふ」

 ビアンカがクスッと笑った。

「どうしたビアンカ」
「今のはルーカス様の説明が悪かったですわ」
「ごめん説明も苦手なんだ」
「でもやっぱりルーカス様ですわ。さすがです」
「今ので分かったの?」
「ええ。要するに、敵に『隙あり!』と叫ばせる事ですわよね」
「それだ!」

 びしっ! とビアンカをさした。

「それそれ、そういうことだよ。こっちの行動で相手が『隙あり!』って思って攻めて込んでくれればそこにカウンターを合わせられる」

 先に動いて隙を作る。
 それもただの隙じゃない、相手がついつい誘われて、攻撃せずにはいられないような隙だ。
 握手みたいに、手を出せばとりあえずは握りかえそうと思う様な、そんな隙。

 そうするには――俺は考えた。
 ない脳みそを必死に振り絞って考えた。

 それが出来れば、「攻め込むカウンターを極める」事ができるかも知れない。

     ☆

 必死に考えるルーカスを、ビアンカとエステルの二人が見守っていた。

「どうして……」
「はい?」
「どうしてこんなに達人なのに、こんなに自信がないのかなルーカスさんは」
「……」

 ビアンカは知っている、ルーカスの過去、若返るまで70年間の不遇の人生を過ごしてきたことを。
 それを聞いているからこそ、ルーカスの性格を納得している。

 しかしエステルは知らない。だから不思議に思う

「わたくしの口から答えてもいいのですが」
「が?」
「わたくしにはあなたがバトンを受け手なのか分からないのです。多分間違いないとは思うのですが」
「バトン? なんの事?」
「ヘリンさんなら分かるのでしょう、今のバトンは彼女の手元にありますから」
「何を言ってるのか分からないよ」

 困惑顔のエステル、それを見て、ビアンカが真顔で彼女を見つめる。

「一つだけうかがいますわ」
「な、なに? そんなに怖い顔をして」
「もしもルーカス様の失った右腕を元に戻す方法があったら、あなたはどうしますか?」
「え?」
「あなたのとても大事なものを捧げることになるかも知れない。でもルーカス様の腕はもとに戻ります」

 ビアンカはまっすぐ見つめる。
 穏やかに、しかし真剣に。

 エステルはほとんど考えることなく。

「なんでもする。ルーカスさんのためなら何でもする」

 と、ビアンカに勝るとも劣らない瞳で見つめ返したのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ