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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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09.攻め込むカウンター

 ボウヤは動かなくなった。
 ビアンカの言葉でショックを受けて、心をやられて動かなくなった。

 気持ちは……わかる。俺も二十代(今も見た目は二十代だけど)の頃に好きな子からあんな事をいわれたら廃人になりかねない気がする。
 そういう意味ではちょっとだけボウヤに同情した。

 そんなボウヤを容赦なくたたきのめしたビアンカ、おれの方を向いたかと思えば、そのまま抱きついてきた。
 抱きついて、しかし頭を頭突きする様な格好で俺の胸板に押し当てる――顔を真下に向いている。

「あまり……」
「え?」
「あまり、心配を掛けないでください。ルーカス様のそのお姿、心臓がキュッ、とわしづかみにされるかのようですわ」
「ごめん……」
「と、こんなことを言ってみても」

 ビアンカはパッと顔を上げた。
 直前までの切なげな空気が何処へやら、って感じの笑顔で俺を見る。

「いざという時になればルーカス様はきっとまた無理をなさるのですわ」
「ご、ごめん。後先考えられなくて」
「いいのですわ、それでこそルーカス様ですもの。そんなルーカス様じゃなければ、私は未だに娼婦のままでしたわ」
「……そうかも知れない」

 ビアンカを身請けした時の事を思い出した。
 きっかけは本当に唐突なものだ。
 二度目にあった彼女に、俺は後先考えずに「身請けしたい」っていった。
 そこから全てがはじまったんだよな……。

「ですから、そんな事は言いませんわ」
「ごめん」
「ですが驚きですわ。ネルソン様ごときがルーカス様にこれほどの手傷を負わせるとは」
「いや彼は強いよ」
「そうでもありませんわ」

 ビアンカは即座に否定した。

「また怒ってる……」

 エステル嬢がなにやらつぶやいた。

「たしかにネルソン様は才能を持ったかたですわ。ただでさえ希少な光と闇の属性、それを両方持っている。数万人に一人の才能と言えるでしょう」
「だよな」
「ですがネルソン様は才能にあぐらをかいている典型的なお方。どんなに才能があってもそれでは強くなりようがありませんわ。ひいき目を抜きにしても……ルーカス様の100分の1以下」

 それは俺を持ち上げすぎだ。
 とは思うけど、ビアンカの目は真剣だった。

「何があったのでしょうか?」

 俺はビアンカに説明した。
 罠にはまって、二重のトラップでポーションを摂取されて、自ら攻撃をしてしまう状態になって、その罠をしかけたボウヤにやられた。
 その事を――口下手だから大分時間掛かったけど、ビアンカに話した。

「そうでしたの」
「完全にしてやられた、さすがだよ」
「ルーカス様の意外な弱点ですわね」
「いや、俺なんか弱点だらけだ――」

 むしろ長所なんてあるのかってくらい弱点だらけだ。

「そんな事はありませんわ――」
「――ってそんな事をいったらまたエステル嬢に怒られてしまうか」
「エステルさんに?」

 何かを言いかけたビアンカが驚きの顔で俺とエステル嬢を交互に見比べた。

「さっき言われたんだ、私の好きな人の悪口を言わないでください、って」
「あら……」

 ビアンカは更に驚いた顔でエステル嬢をみる。
 エステル嬢は真っ赤になった顔を背けてしまった。
 なんだ? 他人に聞かせたくない台詞だったのか?

 むぅ……だとしたらやらかしてしまったな。その辺りも俺鈍いからな……。
 エステル嬢に何かいってフォローしないと、って思っていたら。

「わたくしもエステルさんと同意見ですわ。ルーカス様」
「う、うん」

 まっすぐ見つめられ、たじろいでしまう。

「あまりわたくしの大事な人の悪口を言わないでくださいね。大事な人で、恩人なのですから」
「お、おう。そうだよな。うんわかった」

 似たような言葉だが、ビアンカの圧はエステル嬢以上だった。

 この話はまずい、話をそらさないと。

「はあ……しかし、あっ! 悪口とかじゃないんだぞ。俺ももうちょっとだけ才能あったらな。こんなわかりやすい弱点ばれてしまったらこの先が大変だよ」

 本当に大変だよ。
 今回はエステル嬢をどうにか守れたからいいけど、このままじゃいざって時ビアンカ達を守れないかも知れない。
 それはいやだ、それはだめだ。

「でしたら、そっちも出来る様になればよろしいのでは?」
「そっちも?」
「自ら攻撃する事を、ですわ」
「そんなに簡単にいうなよ、俺は才能がないんだから」
「たしか、今の技も数十年間の修練で身につけたものでしたわよね」
「ああ、約五十年」

 それだけをコツコツやってきてどうにか身についたものだ。

「でしたら、また五十年頑張ればいいのですわ」
「え?」
「ルーカス様が一度出来たこと、ならばまた五十年も頑張れば次の事も出来る。ということですわ」
「いや、でも五十年も待たせるわけには――」
「違うよルーカスさん」
「え?」

 驚いてエステル嬢の方をむく。
 彼女は困った様な、それでいて悔しそうな顔でビアンカをみていた。

「五十年一緒にいたいって意味ですよ、それ」
「そ、そうなのか」

 ビアンカは穏やかな表情のままニコニコした。
 俺の顔が真っ赤になった、耳の付け根まで熱くなった。

 五十年一緒にいたい――というのは恥ずかしくて、嬉しかった。
 何を言えばいいのかわからないから。

「ありがとう」
「はい」

 といって、ビアンカはますます微笑んでくれた。

「あるいは今のまま、後の先を更にきわめるのもおありですわね。どんな状況でも相手が来ない限り手を出さないようにする」
「なるほど、それは分かる」

 先に攻撃をするなんてどうすればいいのか想像もつかないけど、手を出されるまで手を出さないようにするってのは想像できる。
 ガマンだ、とことんガマンできるようにすればいい。

「どっちがいいのかな」
「どちらでも。ルーカス様の選択肢ならば間違いはありませんわ」
「うん、ルーカスさんが選んだ方でいいと思う」

 俺を全肯定してくれるビアンカとエステル嬢。
 その気持ちが嬉しかった。
 そうしてくれる二人の気持ちに報いらないと、と俺はない頭を振り絞って考えた。

 今のままを極めるか、新しい道を進むか。

 今のままか、新しい道か。

 考える、必死になって考える。

 頭の中がぐるぐるになる、ちょっと考えただけで訳が分からなくなった。
 やっぱり俺はダメだ、頭が悪すぎて考え事にむいてない。
 こういう時は――なんだっけ、下手な考えなんとかってやつだ。

 考えるのはやめだ、今まで通りで行こう。

 そう思って、二人を見つめて、口を開く。

「攻め込むカウンターを極めるよ」

 言った瞬間、ビアンカは微笑んだままだが、エステル嬢はすごく変な顔をした。
 あれ? 俺なんか変な事をいった?

「それ……なんか矛盾してませんか」
「大丈夫ですわ。ルーカス様の考えですもの。達人の考え、わたくしたちに理解できなくても仕方ないですわ」
「そっか、そうだよね」

 ビアンカに言われて、エステル嬢は笑顔に戻った。
 納得したみたいだけど、え?

 俺は、何をいったんだ?
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