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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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08.口撃

 わめくボウヤ、そしてそのボウヤの手下。
 二人を拘束して、気絶させた。

 これでようやく一件落着だな。
 ふう……。

 と思ったら終わってなかった。
 エステル嬢が俺の事をじっと見つめている。
 今にも泣きそうな目で、俺をじっと見つめている。

 俺の、なくなった右腕をみている。
 まずい、元気なところを見せないと。

「大丈夫だエステル嬢、ほら」

 俺は木刀を左手で持って、素振りをした。
 集中して、最高のパフォーマンスを出すように素振りした。
 毎朝やってるそれよりも下手すると速いペースでの素振り、それで元気なことをアピールした、が。

「……ぐすん」
「えええええ!?」

 エステル嬢はますます泣きそうな顔になった。
 こまった、困り果てた。
 俺はこんなに元気なのになんで泣くんだ?

 腕をなくしたのはこれが初めてじゃない、今までの何回かあった。
 ゾンビに襲われた時はちぎれたりくっついたりのくり返しだから、それに比べると一発で消し飛んだ今回はむしろ苦痛が少なくて、だからまだまだ元気。
 アピール出来るくらい元気……なんだけど。

 エステル嬢は泣きそうだ。

「私が……」
「え?」
「私がもっとちゃんとしてて、ルーカスさんにこんな依頼を紹介しなければ」
「いやいやいや、エステル嬢は何も悪くない。悪いのはお――」

 俺、って言いかけてエステル嬢に睨まれた。
 半分おこってて、半分なきそうな顔。

 そうかさっき言われたんだっけ、わたしの好きな人の悪口を言わないでって。
 えっと、俺自身の悪口を言っちゃダメか、それじゃ――。

 まわりをみる、ボウヤが目に入った。
 悪い、ダシにする。

 ボウヤに心の中で謝りつつ、エステル嬢に言った。

「悪いのは彼。俺の腕を吹っ飛ばした彼だから」
「……そうですよね、ルーカスさんをワナにはめて、攻撃したのこの人ですもんね」

 エステル嬢は気絶してるボウヤを睨む。
 その顔もどうかって思うけど、泣かれるよりはちょっとマシだった。

「どうしてやろうかしら……」

 どうするって何をするんだろうエステル嬢。

「それにしても、そんなにビアンカの事が好きだったのか、彼は」
「ただの執着だと思いますよ」
「執着? 好きとは違うのか?」
「はい。こういう貴族って好きって言うよりは執着するんです。ちなみに次の段階どうなるのかも分かってます」
「ど、どうなるんだ」
「壊すんです」
「えええええ!?」

 エステル嬢とボウヤを見比べる。

「ど、どうしてそうなるんだ? だって好き――じゃなくて執着? ほしいんだろそれってようするに」
「はい。でも手に入らないと分かると壊すんですよ。俺のものにならないのならいっそのこと、って」
「えー……」

 そういうものなのか? 理解が追いつかないぞ……。

 でもエステル嬢は言い切ってる。

 そんなの困るぞ、俺はともかくビアンカに手を出されるのはすごく困る。

「どうにか止めなきゃ。諦めてもらう方法ってないのかな」
「……いいこと思いつきました」

 エステル嬢は笑顔になった。
 初めてみる笑顔だった。ギルドの受付嬢やってる時の可愛らしい笑顔と、昔の俺を――「まだくたばってないのじじい」ってさげすんだ目が合体した、ちょっぴり怖い笑顔だ。

「な、何をするんだエステル嬢」
「簡単です♪」

 そう話すエステル嬢の笑顔は、ますます怖くて背筋が凍りそうになった。

「この状況をビアンカさんに見てもらうんです」
「見てもらう? それだけ?」
「はい、それだけです♪」
「???」

 それでどうなるっていうんだ?
 うーん、分からない。
 頭の悪い俺にはまったく分からないぞ。

     ☆

 エステル嬢が使った魔法――ギルド経由で連絡を受けたビアンカがやってきた。

「ルーカス様」

 俺を見た瞬間、ビアンカは目を見開いたが、すぐにいつものおだやかな表情に戻って、俺のそばにやってきた。

「大丈夫ですか」
「ああ、もう大丈夫だ」
「あまり無茶をなさらないで下さいな。毎回こうだとルーカス様がいらっしゃらない時に落ち着きませんわ」
「ごめん、気をつける」
「はい」

 そうだな、これからは気を付けよう。
 せめて心配を掛けないくらいにはならなきゃな。

「それで……エステル嬢? ビアンカは来たけど、どうするんだ」
「私はどうもしません。ビアンカさんはもう分かってるみたいですから」
「そうなのか!?」

 驚いてビアンカをみる。
 ビアンカはいつもの様に、上品で優雅なたたずまいのまま微笑んだ。

「はい、おおよそ」
「すごいな……何で分かるんだ?」
「わたくしがいつもルーカス様の事を思っているからですわ」
「……はあ」

 分からなかった、ビアンカがいつも俺の事を思ってるのとこの状況を見て理解するのがなんで繋がるのか分からない。

「起こしますわ」

 ビアンカはそう言い、やっぱり上品にしゃがんで、地面から砂を一握り取った。
 それを気絶してるボウヤの鼻と口にかける。

 さらさらさら、と、砂が口と鼻を覆い。やがて。

「げほっ! がはっ……な、何をするんだ!」

 気絶してても息はする、砂が口と鼻に入って盛大にむせたボウヤがおきた。

「ご無沙汰しておりますわ、ネルソン様」
「ビアンカ!」

 転がってるボウヤ、立っているビアンカ。
 二人の視線が交わる。

「待っていろビアンカ、今すぐそいつの元からお前を助けだす。そうしたら俺のところでいい暮らしをさせてやるぞ」
「助け出す? 何を勘違いしてらっしゃるのですかネルソン様」
「え? だってビアンカ俺の好きだって言ったろ? あんなに熱く俺の名前を呼んでくれただろ?」
「ええ、呼ばせて頂きました。あなたがネルソン様だから」
「え?」
「あのときあなたは大事なお客様でした、しかもネルソン家のご長男。尽くして、ご機嫌を取るのは当たり前の事ですわ」
「それだけじゃないだろ!? あれには――」
「それだけですわよ?」

 ビアンカは醒めた目で、そしてきょとんとした顔で更に言う。

「あなたのような男性、お客様でもなければお相手することなどあり得ませんわ」
「きゃ、客じゃなかったら……?」
「ええ。ネルソン様のご長男だからお相手したのです」
「ち、父上の息子だから……?」
「お客様としては……そうですわね。お金を貯めていらしゃってくださった乞食の方とおなじですわ」
「乞食と同じ……」

 ビアンカが何かを言う度に、ボウヤはショックを受けた様子で体を震わせる。

「さすがですね、的確にいたいところをえぐってる」
「そ、そうなのか?」

 エステル嬢をみる、彼女は感心していた。

「よっぽど怒ってるんですね。まあ当たり前ですけど」

 エステル嬢が感心する一方で、ビアンカは更に続ける。

「正直、男性としてのあなたはなんの価値もありませんわ」

 ビアンカがトドメの一言を放った。
 今のはこっちにもグサッときた。

 この姿になる前に何度も何度も言われてきた言葉だ。
 男としてなんの価値もない。
 俺ほど言われてきた男もいないだろう。

 死ぬ間際になるともう慣れてたけど、最初に言われた頃の胸の痛みは今でも覚えてる。
 ボウヤの顔が絶望に染まる、気持ちはよく分かった。

 ああ、そっか。
 エステル嬢はこれのためにビアンカをよんだのか。

「う、うわああああ!」

 ビアンカに心をえぐられまくったボウヤ、血の涙を流し、絶叫しながら立ち上がる。
 エステル嬢が縒った即席の縄を引きちぎり、ビアンカに向かって叫んだ。
 両手がそれぞれ光と闇に輝く――それを打ち払った。

 ビアンカを攻撃する意思を見せたボウヤ、両手が光った瞬間先に動くカウンター(、、、、、、、、、)で払った。
 ただでさえ砕かれてるボウヤの腕が更にボロボロになった。

 ビアンカはやらせない、なにがあっても。

「うが……き、きさ、ま……」

 地面に再び転がって、憎しみの目で俺を見あげるボウヤ。
 ビアンカが動く、彼女はそっと、俺に寄り添う。

「あなたなんて、この方の足元にも及びませんわ」

 と、トドメの一言を放った。

 絶望したボウヤは、そのまま崩れ落ち、空虚な目でうごかなくなったのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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