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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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07.救出

「ぐすっ……ルーカスさん、ルーカスさん、ルーカスさぁん」

 誰かの泣き声が聞こえる。
 声の主は泣きながら俺の名前を呼んでる。
 誰だろう、俺なんかを泣きながら呼ぶのって。

 声に感情がこもってる、ちょっと嬉しい。
 なんでかはわからないけど、そんな風に名前を呼ばれるのは前の70年の人生にはなかったことだから、嬉しい。

 目を開ける、ぼんやりとした視界に相手の顔が映る。

「エス、テル……嬢?」
「ルーカスさん!」
「泣かないでくれ。なんで泣いてるんだ」
「だって、だってルーカスさんが。ルーカスさんの腕が」
「ん? ああ」

 言われて自分の腕をみる。なるほど、確かに右腕がない。
 ボウヤの魔法で吹っ飛ばされて、今もどくどく血が流れてる。

「とりあえず血を止めないとな」
「布用意します!」

 エステル嬢はそう言って、自分のエプロンドレスを引き裂こうとしたが。

「それじゃ間に合わない。悪いけど俺の木刀知らないか?」
「木刀? えっと……あっ」

 エステル嬢は立ち上がって、小走りで離れたところに落ちてる俺の木刀を取りに行く。
 すぐさま戻ってきて、木刀を俺に差し出す。

 まだ涙目のままだ。
 女性に泣かれるのはつらい、口下手だし宥める方法なんて知らない。
 でも血が流れてるのが理由みたいだから、まずはそこを何とかしよう。

 木刀を左手で持って、近くの地面に転がってる枯れ木を一本引き寄せた。
 それを体の前に置いて、まっすぐ向き合う。

「何をするんですか?」
「火をおこす」
「火?」
「みてて」

 木刀を使って、枯れ木に向かって素振りをした。
 速さは毎朝やってる一万回素振りと同じ、それをぎりぎり当たるところで寸止めする。
 振って振って振りまくり。
 一回振り下ろすごとにちょっとだけ摩擦が生まれる。

 火は木と木の摩擦でおこされる。
 俺の素振りで、枯れ木に火がついた。

 それを見てたエステル嬢が「まさか」って顔をする。

 俺は枯れ木を持った、すっかり燃え上がったそれを、なくなって血がどくどく流れてる右腕の付け根に押し当てた。

「――――!!!!」

 壮絶な痛みが全身を貫く、肉を焼く音が耳ではなく、体の中から聞こえてくる。
 それを我慢する、ガマンは得意だ。
 70年間あらゆる事にガマンしてきたんだから、この程度の事で根をあげる俺じゃない。

 俺は声を全くもらさずに、傷口を炎でやいて止血に成功した。

 そっと触れてみる、肉が焦げてて、それで止血になった。

「よし、これで――」
「よしじゃないですよ!」

 エステル嬢は大声を出した、みるとますます涙目になってるのが分かった。

「え、エステル嬢?」
「どうしてそんな無茶をするんですか?」
「いやこれが一番手っ取り早いやり方で……冒険者の間じゃ当たり前だよ?」

 おそるおそる聞き返す、もしかして知らないのか? ギルドの受付嬢なのに。

「しってます! ケガは火で焼いて止血するのは知ってます!」
「そうか、だったら――」
「それとこれとは話が違います! ルーカスさんはもっと自分の事を大事にしてください!」
「ええ? だ、大事に」
「そうです!」

 きっ、と俺を睨むエステル嬢。

「いやでも、俺は本当に大丈夫――」
「まわりの人が心配するんです!」
「お、おう……」
「もう! ルーカスさんのバカ! ルーカスさんのバカ! ルーカスさんのバカ!!」

 涙目のまま駄々っ子のように振る舞うエステル嬢。
 困った、止血すれば泣き止んでくれると思ったのにますます泣かれてしまったぞ。どうするんだこれ。

 本当にどうするんだ……。

 そんな、俺が困り果てていると。

「きゃっ!」

 エステル嬢がいきなり悲鳴を上げて、体が後ろに引っ張られた。

「ボウヤ!」

 エステル嬢の体を引っ張ったのは貴族のボウヤだった。
 俺の一撃を喰らって気を失っていたのが目覚めてしまったようだ。

 ボウヤは片腕をエステル嬢の首に回して、後ろから密着した体勢で拘束した。

「よくも、よくもやってくれたな! ゆるさんぞド貧民が!」
「エステル嬢を離せ! 彼女は俺たちの事には関係ない!」
「そうはいくか! ふっ、お前、こいつの事が大事みたいだな」
「……なにが言いたい」
「お前の目の前で、こいつをなぶるのも悪くないかもな」
「やめろ!」

 俺が叫ぶと、ボウヤは満足そうな顔をした。
 よっぽど俺が憎いんだろう、俺のいやなことがそのまま喜びになってるみたいだ。

「悔しかったら取り返してみろ、ほれ、ほれほれ」
「くっ」

 俺は木刀を持って突っ込んでいった。
 ボウヤを倒して、エステル嬢を取り返す。

 攻撃をしかける方法なんて知らないけど、それでもエステル嬢を助けなきゃ。

 だが、現実は無情だ。
 突っ込んでいきしかけた俺を、ボウヤは無造作なケリで吹っ飛ばした。

 真横にふっとび、コロコロ転がる俺。
 口の中に土と泥がはいる。
 それを吐き出し、どうにか手離さないですんだ木刀を杖代わりにして立ち上がる。

「ふふふ……」

 ボウヤはにやけた笑いで、エステル嬢を拘束したまま振り向き、立ち去ろうとして見せた。

 追いかける、エステル嬢に手を伸ばす。

「くわっ!」

 今度は裏拳を見舞われた。遠心力の効いた手の甲が頬をがっちり捕らえる。

 またしても吹っ飛ぶ俺。


「ふふふ、ふはははは、あーはっははは!」

 髪をかきあげ、高笑いするボウヤ。

「無様なルーカス! 所詮お前の様なド貧民はその程度なのだ」
「エステル嬢を……かえせ」
「そーれ!」

 三度向かっていくおれ、そして三度吹っ飛ばされる。
 待つことなんて出来ない、エステル嬢が人質にとられている以上待てない、向かって行くしかない。

 しかし向かって行く俺はザコもザコ、駆け出しの冒険者に――いやその辺の子供にさえいい様にされるレベルでしかない。

 それでも、やるしかない。
 エステル嬢を取り返すにはこれしかない。

「ふむ、そろそろ気が済んだぞ。そろそろトドメをくれてやるかぁ」

 ボウヤはそういって、再びおれから離れる。
 俺は追いかけるしかなくて、向かって行くしかない。
 ボウヤのにやけた顔が見えた。

 くそっ、くそくそくそっ!

 悔しさで一杯だが、どうしようもない。
 俺が出来る事はただ一つだけ、それ以外は出来ない。

 だから……悔しかった。
 すごくすごく悔しかった。

 悔しさが胸の中で渦巻いた。

 次の瞬間、状況が変わった。
 首に腕を回されていたエステル嬢がその腕を噛んだ。

「いたっ! 何をする女!」

 噛まれたボウヤはエステル嬢を振りほどいた。
 バランスを崩し、エステル嬢は尻餅をついた。
 それでも、キッとした目でボウヤを睨む。

「貧乏人がその目をするなあ!」

 ボウヤは手を振り上げた。
 手のひらが光る、そしてくすむ。
 六属性の内でもとりわけ優遇されている光と闇、その両方を扱える才能オブ才能マンの攻撃。

 エステル嬢はひるまなかった、ボウヤをまっすぐみて。

「ばーか」
「なに?」

 驚くボウヤ、攻撃はやめない。
 光と闇をまとった一撃がエステル嬢にそのまま放たれる。

 俺は――割り込んだ。

 エステル嬢の前に飛び出し、ボウヤとの間に割り込んだ。

 すると状況が一変する。
 ボウヤの一撃がまっすぐ俺に向かってきた。

「ばーか」

 エステル嬢の声が背中から聞こえてきた。
 俺はそれを聞きながら、左手の木刀でボウヤの四肢を打った。

 無属性対、光と闇属性。
 減衰されるも、確かな手応えを感じた。

 両腕両足、一瞬で撃ち抜かれたボウヤが倒れた。

「い、いたい、いたいいたいいたいいたい!」

 骨を砕いた手応えがあった。
 四肢を砕かれたボウヤは芋虫のように転がって、わめき散らした。

 流石にこれでもう大丈夫だろう。
 と、ともっていると。

 背中から抱きつかれた。
 柔らかく、いいにおいがする。
 エステル嬢が抱きついた来た。

「え、エステル嬢?」
「ありがとう」
「え?」
「ありがとうルーカスさん」
「あ、ああ」

 そうか、助けたからありがとうか。
 何事かと思った。

「ありがとう……」

 エステル嬢は俺に抱きついたまま、何度も何度もそれを繰り返したのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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