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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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06.横恋慕する黒幕

 嬉しいけどどうすればいいのか分からない俺に、エステル嬢がニコニコ笑いながら棚上げにしてくれた。

「まずはその人。どうして襲ってきたのか、どうしてワナにはめてきたのかを聞きましょう」
「そ、そうだな」

 正直棚上げしてくれたのはありがたい、今の俺じゃ何も思いつかないからだ。

 気を取り直して、縛り上げている男を見下ろした。
 さて気がつくのを待つか……と思っていると。

 ぱしゃーん。

 エステル嬢がどこからか汲んできた水を男の顔面めがけてぶっかけた。

「……う、ん」
「気がつきました?」
「ふっ、今度はちゃんとしばってきたか」
「別に縛らなくても大丈夫なんですけどね。ルーカスさんがいますし、向かってくるなら何度でも倒しちゃいますよ」
「いやいや」

 やたらと俺を持ち上げるエステル嬢。
 そんなに信用されるとむずがゆくてどうにかなりそう。

「それよりもあなたは何者ですか。どうしてルーカスさんにワナをしかけたんですか?」
「答えると思うか?」
「答えないと大変な事になりますよ」
「どうなるって言うんだ?」
「うちのギルド、『蒼空のベルベット』にはいろんな人がいるんです。息をするように拷問の事ばかり考えてる人とかも」
「え、エステル嬢。ゲートはまずいんじゃないかな」
「ルーカスさんも知ってるんですね」

 俺を見てニコニコするエステル嬢。
 そりゃ知ってる、有名人だから。

 昔からアクリーにいて、ギルドに登録してるけど普段は特に表に出てこない。
 趣味は拷問、一番好きなものは剥がしたばかりでまだ血が出てない爪っていう真性のヤバイやつだ。

 ゲートにかかれば喋っても廃人、喋らなくても廃人といわれている。
 ちなみにゲートの拷問で死んだ人間はいない、ギリギリで死なない様に痛めつけるのがすごく上手いらしい。

 正直、襲ってきた敵とは言えゲートみたいなのに引き渡すのは気が引ける。

「だったらお願いしたら絶対に聞き出してくれるってのも分かりますよね」
「うん。ほぼ例外なく全員が『殺してくれ』っていうけど」

 それほどの相手だ。

「とにかくゲートはやめよう。別の方法を考えよう」
「そうですか、分かりました。じゃあ……どうしましょう」

 頬に指を当てて考える仕草をするエステル嬢。
 やっぱり可愛い。
 こんな可愛い子にエグいことをさせたくない。
 何か俺でやれることはないか、と考えてみる。

 うーんうーん唸る、ダメだ思いつかない。
 俺の頭じゃ思いつくのが誠心誠意、頭をこすりつけて頼み込む事だが、さすがにそれで教えてもらえる訳がないというのも分かる。

 どうしたもんか。

「ふっ、そんな事をしなくても教える。俺の役目はほぼ達成したのだからな」
「なに?」
「なんで俺が拘束もされてないのに、逃げもせず二回もお前を襲ったのか」
「むっ」
「そういえば」

 互いを見比べる俺をエステル嬢。
 言われてみればそれは確かにおかしい。
 一回目倒したのはなんの問題もない。
 でも二回目はおかしい。俺たちがもたもたしてる間にこの男が気づいて、普通ならそのまま逃げるはずだ。

 なのに襲ってきた、そして二度倒された。

「ヘリン殺しのルーカス。正面からお前と戦って勝てるはずもない、そんなのは最初から分かっている」
「だったらどうして? 戦ったじゃない」

 エステル嬢が眉をきゅっと寄せながら聞く。
 男の意味深な言葉で表情が一変して深刻そうになっていた。

「そいつに一服盛るためよ」
「そんな!毒なんて何処にもなかったよ」
「毒ではないのだからな」

 男はにやり、と口の端をゆがめた。

「むしろ薬、パワーアップする薬だ。しかも冒険者が普通に使っている必需品だ」

 何を言ってるのかよく分からない。が、状況がまずそうなのは分かる。
 男の台詞が、声色が。
 全部が全部「勝利宣言」に聞こえてしまった。

「身体能力を高めて、好戦的にさせる薬だ」
「アタックポーション……?」

 つぶやくエステル嬢。

 それは俺も知ってるものだ。
 摂取すれば身体能力が、特に攻撃面の能力があがるが、その分性格が好戦的になる薬だ。

 好戦的になるのは副作用なんだけど、攻撃力を上げた後は攻撃しないと話にならないから、いい副作用をもついい薬だとされてる。

 それを俺に使った、なんで?

「それはな、俺の手でお前を葬るためだ」
「だれだ!」

 新しく登場した声の方を向く。
 そこに一人の貴族がした。
 若い男の貴族、どこかで見た事のある顔。

「お前は……」
「ボウヤ・ネルソン。忘れたとは言わせねえぞ」

 ボウヤ……ネルソン。
 どこかで聞いた名前だ……どこだ?

「……あっ! ビアンカを身請けしようとした!」

 思い出した。
 俺がビアンカを身請けした直後にやってきた、同じビアンカを身請けしようとした貴族の男だ。

「なんでお前が……?」
「てめえをぶち殺して、ビアンカを手に入れるために決まってるだろうが」
「え?」
「てめえさえ倒せばあの女の所有権は再び宙にうく、それをおれ様が買い取る。簡単な話だろ」
「……」

 そういうことだ。

「だからてめえの事を研究させてもらったぜ。精霊どもを蹴散らす力、流石だ、まともにやって勝てるか五分と五分。だがな」

 俺は身構えた、何かくる。

「てめえの弱点、しっかり見つけたよ」
「俺の弱点?」
「そうだ」

 ボウヤはにやにやしながら俺に近づいてくる。
 つかつかと、無造作に歩いて近づいてくる。

 そいつが目の前にやってくる、俺はボウヤを殴った。

 俺は? ボウヤを? 殴った?

 自分から殴った? カウンターじゃなくて自分から手を出した?
 なんで?

「カウンター破れたり、アタックポーションのせいでお前は自分から手を出さずにはいられなくなった」
「はっ……」

 そうか、そういうことか。
 毒じゃない、使った人間がアグレッシブになって攻撃的になる薬、実際攻撃力も上がる薬。
 普通の冒険者ならむしろいいことだが、俺にはダメだ。

 俺は自分から攻撃する技を知らない、今のパンチもボウヤの胸板に当たって「ペチッ」って情けない音がした。

「こいつを二度倒し、ソードダンサーを山ほど倒した。その度に少しずつ空気中にアタックポーションの原料が放出される」
「ルーカスさん逃げて!」

 叫ぶエステル嬢。

「無駄だ、これも調べた。普段薬を使い慣れてないヤツほど効くって」

 その通りだ、俺はポーション類をほとんど使ったことがない。
 昔は金がなかったから、そういう消耗品を使う余裕なんてなかった。
 だから、免疫がない。

 ダメダメだと自分を御そうとしながらも、またふらふらなパンチをボウヤに向かってはなった。

「無様だな。自分の得意技、カウンターを喰らえ」

 ボウヤは魔法を放った。
 光と闇……娼館であったときにいってた光と闇の合成魔法をはなった。
 恵まれた才能から放たれる光と闇の魔法は、カウンターで俺の右手を吹っ飛ばし、跡形もなく消滅させた。

「ルーカスさん!」

 なくなった右手、叫ぶエステル嬢。
 どうにかしてエステル嬢だけでも。

 考える、考えた。どうしたら良いのか考えた。

 考えがまとまらない、腕から血がどくどく出て、次第に頭がぼうっとしてくる。
 動くのもおっくうになる、血を流しすぎたんだ。

「これでトドメだあああ!」
「待てネルソン様、そこで襲いかかるのは」

 ほとんど動けなくなった俺、それに飛びついてくるネルソン。
 左手に光、右手に闇。
 それを一つに合成したものを俺に飛ばそうとする。

 攻撃をしかけてくる(、、、、、、)

 体が動いた。
 薬じゃなく、反復練習によって体に染みついた動きだ。

 魔法をかわし、左手で持ったままにしていた、失敗作の縄をボウヤの眉間にぶち込んだ。

 先に動くカウンター(、、、、、、、、、)

 その一撃でボウヤを沈めた。
 白目を剥いて、泡を吹いて倒れるボウヤ。
 それを見て、俺も意識を手放した。

「これだから貴族は、詰めが甘すぎる」

 何かが聞こえた気がしたが、それがなんなのかも分からず、俺の意識が闇に沈んでいった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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