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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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04.私の好きな人

 エステル嬢に褒め殺しにされて、俺は年甲斐もなく照れた。

「ありがとう、お、お世辞でもうれしい」
「お世辞じゃありませんよ」

 エステル嬢はますます笑顔になってそう言った。
 やっぱり褒め殺しだ、そんな風にされるとなんて言って返事をすればいいのかがわからない。どうにかごまかそうと視線をさまよわせていると、運良くというか当たり前というか、今し方倒した襲撃者の姿が目に入った。

 俺の一撃を食らって、白目をむいて泡を吹いてる。
 年は30代、男だ。
 体はほどよく引き締まってて、唇が何かに斬られた傷跡があって、人相は地味に凶悪そうな感じがする。

 そんな人相だが、今は救いの神に見えた。話をそらすための救いの神だと。

「ま、まずはこいつを拘束しよう」
「そうですね。ルーカスさん縄とか持ってますか?」
「いや持ってない」
「私も持ってないですね、どうしましょう」
「俺の服を使おう、破けばとりあえず縛れるはずだ」
「それはもったいないです。そうだ、縄を作りましょう」
「縄を作る?」

 いきなり何を言い出すんだエステル嬢は。
 縄を作るなんて、町中で材料があるならともかく、こんな野外でできるはずがない。

 そうか、俺の服をちぎって縄を作るんだ――なんて一人で納得していると、周りをキョロキョロ見ていたエステル嬢が何かを見つけて、小走りで向かっていった。
 倒れてる男をチラ見しつつ、エステル嬢の後を追う。

「どうしたんだエステル嬢」
「ルーカスさん、この木のてっぺんに手が届きますか?」
「木のてっぺん?」

 エステル嬢がさしてるのは、大人の男である俺がつま先立ちになればギリギリ手が届く程度の高さの木だった。

「届くけど、どうするんだ?」
「あの枝をつかんで思いっきり下に引いてください」
「こうか」

 エステル嬢に言われた通りにてっぺん近くの枝を引っ張ると、まるでサヤエンドウの筋を取るかのように、枝と一緒に木の皮がペロンとめくれた。

 それをエステル嬢に手渡す。

「これをどうするんだ?」
「見ててください、これをまず半分に折って、そしたら片方を左回転でひねって、両方を逆回転でまとめるようにひねる、さらに左側になった方を左回転でひねって、両方をまとめて右回転でひねる……」

 説明しつつ、木の皮をひねっていくエステル嬢。
 するとどうだろう、さっきまで長い木の皮だったのがあっという間に縄になった。

「すごいな! こんな風にできるのか」
「はい! 手足を縛る二本が必要なので、ルーカスさんもお願いします」
「あ、ああ」

 確かに二本必要だな、よし。

 エステル嬢に言われて、俺はさらに木の皮を剥がして、彼女をまねてひねった。

 えっと、左に……右に? りょ、両方……?

 初っぱなから何もかもわからなくなってしまう。
 それでもどうにか木の皮をひねっていくが、結局できたのは思春期の乙女が失敗した手編みのセーターのようなひどいものだった。

 ぼろぼろだし、くねくねしてるし。
 エステル嬢のがきれいに縄になってるのに対し、俺のは細くない上にほぼ枝のまま固まっているという有様だ。

「ちょっと失敗しちゃいましたね。大丈夫ですよ、こういうのは慣れなので何回かやればちゃんとできるようになります」

 エステル嬢は俺の失敗を責めるでもなく、ましてや笑うでもなく励ましてくれた。
 別に失敗したから恥ずかしいわけでもない。俺には才能がないんだからな。

 もうありとあらゆる才能がないんだ。皿を洗えば割りまくるし、掃除をしてもゴミがいつまでもまとまらない。
 何をやってもだめな人間で、唯一できるのがコツコツと剣を振って、魔物――精霊へリンを倒すことだった。

 今更縄作りに失敗したところで傷つくわけでも恥ずかしくなるわけでもない。

「すまないなエステル嬢。せっかく教えてもらったのに」
「いえいえ、私、こうしてルーカスさんと一緒に作るのすごく楽し――」
「俺は無能だからなあ。エステル嬢の説明でちゃんとできればよかったんだが」
「……」
「本当にすまない、だめなのがわかりきってるのに説明に無駄な時間を使わせて」

 エステル嬢に謝った。
 みると、彼女はさっきまでとは違ってちょっと不機嫌になっていた。
 やっぱり俺のふがいなさに怒ってるみたいだ。
 もっとちゃんと謝らないと――。

「やめてくださいルーカスさん」
「え?」
「私の好きな人の悪口を言わないでください」
「エステル嬢の好きな人の悪口? いや俺はそんなことしてないけど」

 というか誰の悪口も言ってない。
 無能な俺だ、誰かの悪口をいうような偉い人間じゃない。
 だから言ってないんだが……。

「言ってました」

 エステル嬢はきっぱりと言って、俺を見つめた。
 怖いくらいの顔で、視線で俺を射貫くかのように見つめてくる。

 そんなこと言われても俺はやっぱり誰の悪口も言ってない。
 強いて言えば自分のことを言ってただけなんだが。

 ……。
 …………。
 ………………。

「え?」

 まっすぐ俺を見つめるエステル嬢。

「それって……俺の、こと?」

 エステル嬢はゆっくりと、しかしはっきりとうなずいた。

「そうです。いくらルーカスさんでも、ルーカスさんの悪口は言わないでください」
「えっと……えぇ……」

 なんて言ったらいいのかわからなかった。
 俺は別に悪口はいってないけどでもエステル嬢には悪口に聞こえたみたいででもそれは普通というかあたりまでのことでむしろただの事実って好きな人ってどういうこと!?

 頭の中が混乱した、何が何だか全くわからなくなってしまう。

 エステル嬢はそれでも俺を見つめる、そして、静かに口を開く。

「ルーカスさんはすごい人です。ううん、すごいなんてものじゃないです。ルーカスさんはアクリーを救った英雄なんです」
「英雄だなんて」
「誰だろうと、私はルーカスさんを悪く言う人が嫌いです」
「……」

 ますます混乱してしまう。
 エステル嬢は俺が好きだといってでも俺の当たり前(、、、、)を悪口だと言って俺が俺を悪く言うから俺が嫌いだって。

 ますますわからなくなった、頭がぐるぐるする。

「しゃあああ!」

 突然背後から奇声とともに誰かが襲ってきた。

「うるさい!」

 頭がぐるぐるしてる俺は、手に持ってる武器で襲ってきた相手を倒した。
 襲撃者はさっきの男だ。急に来たから脊髄反射で倒した。

「ほら、やっぱりすごいんです」

 エステル嬢はそう言って、打って変わってニコッとした。

「それで相手を倒せてしまうのは、やっぱりすごい人だからなんですよ」
「それ?」

 エステル嬢の視線が向けられてるのは、俺の右手。
 俺は自分の右手を見た、持ってるのは――襲ってきた相手を一撃で倒したのはいつもの木刀じゃなくて、さっき作った失敗の縄もどきだった。

「そんな小枝みたいなものでも武器にできてしまうルーカスさんは、やっぱりすごい人なんです。だから」

 エステル嬢は俺に近づき、至近距離で見上げてきた。
 吐息がかかるほどの、ものすごい近い距離で。

「私の好きな人の悪口、もう二度と言わないでください」

 再会してからよく見るようになった、かわいらしい笑顔を見せてくれたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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