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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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03.ハニートラップ

 エステル嬢を抱き留めたまま、ソードダンサーを全体倒した。
 倒すのは楽だった。

 全部が剣術の達人級の魔物だが、魔物であるせいか、全員が惜しげもなく様々な技を使って攻撃してくる。
 それぞれが違う技、おそらくは生前の技、それを死後更に磨き上げたんだろう。
 全員鋭くて、キレがあって、強かった。

 でも、助かった(、、、、)

 全員ががむしゃらに攻めて(、、、)来るから、どうにかなった。
 しかけられてくる攻撃をよく見て、先に動くカウンター(、、、、、、、、、)で隙を突く。
 一撃一殺で、ソードダンサーを葬っていった。

「これで全部か」

 ソードダンサーを全部倒して、まわりにもう魔物の気配がなくなったから、エステル嬢を話した。

「あっ……」
「え?」

 エステル嬢がなんか声を上げたので彼女をみる、すると慌てて顔をそらされた。
 どうしたんだろう――ってバカだ俺は。
 緊急事態で仕方なかったけど、エステル嬢の腰に手を回して抱き寄せていたんだ。

 最近ビアンカによくそうして――今朝もしたからついつい失念してた。

 妙齢の女性がそういう関係でもない男に抱き寄せられていい気分なはずがない。
 微かに見えるエステル嬢のうなじと耳が赤く染まっているのはそういう事(、、、、、)なんだろう。

 これはまずい……でもどうする?
 謝るのか? どうやって?
 そもそも謝っていいのか? それをしたらもっと気分を害さないか?

 どうすればいいのか、何が正解なのかが分からない。
 長年女性とは無縁の人生、「店員」という人種以外とは話すことすらない人生を送ってきた俺には、今どうしたら良いのか分からない。
 逡巡している内に、時間だけが流れていく。

「……これ、ちょっとおかしいです」
「え?」

 驚き、エステル嬢をみる。
 彼女は倒されたソードダンサーを見て、あごに手をやりつつ思案顔をした。
 秀麗な顔つきが、珍しく真剣で険のある表情をした。

「おかしいって、どういう事なんだ?」
「ルーカスさん、誰かに恨みを買ってませんか?」
「恨み? いや……そんな事はないと思うけど」

 そもそも今まで大して他人と関わらなかった人生なんだ。
 自分で自分を産んで若返るまでの人生は、控えめに言えば道ばたの虫けらレベルだ。
 恨まれるというのは言い換えればその相手に注目される事、注目されるような人生じゃない。

「どうしてそんな事を聞くんだ」
「このパターン、ごくたまにあるんです。ギルドに特定の人じゃないと出来ない依頼をして、その人が受けたら実はワナだった、っていうパターンです」
「そんな事があるのか……あっでも、それなら依頼者で分かるんじゃないのか?」
「もちろんギルドに戻ったら調べますけど、恨みでワナにハメてるんですから、大抵は偽装してます。代理の人を使って依頼を出したり」
「そ、それもそうだよな」

 よく考えたら当たり前の事なのにエステル嬢にいわれるまえで気づかなかった、恥ずかしい。

「と、とにかく。俺に心当たりはないよ」
「そうですか」

 そう言って、うつむき、更に考え込むエステル嬢。

「今度は何を?」
「まわりをみないで下さいねルーカスさん。多分ですけど、監視もいると思うんです」
「か、監視?」

 慌ててまわりを見ようとした俺を、エステル嬢ががっしと顔を使った。

「みないで下さい、気づかれます」

 顔を掴んで、まっすぐ見つめて、押し殺した声でしかりつけてくる。

「ご、ごめん」

 そうだった、言われてたんだ。
 俺は深呼吸して、同じように声を殺して聞き返す。

「本当にいるのか?」
「多分、だってこの魔物、殺す気だったですよね」
「それは間違いない」

 攻撃に殺気があって、容赦とかまったく無かった。
 全部一撃で倒せたけど、俺が死ぬか向こうが死ぬかの戦いだった。

「それなら死体を確認するための人が近くにいるはずです、それかいざって時にトドメを刺す人が」
「な、なるほど」
「それをおびき出せればいいんですけど……」
「それは……難しい……」

 というか俺には無理だ。
 どんな戦いでも、俺は相手から手を出してもらうのを待つだけ。

 自分からしかける事は出来ない、しかけさせるように仕向けることも出来ない。

 どこかに潜んでる誰かを誘い出す、なんてやり方は一つも知らない。

 ……ダメだよな、俺。本当ダメダメだ。
 俺の顔を掴んだまま難しい顔をするエステル嬢。
 ふがいなさに失望されたかな……。

「……ルーカスさん」
「あ、ああ……何?」
「大事な話があります、聞いてくれますか」
「な、なんだ?」

 罵倒されるのかな、この無能が、って。
 それでもいい、その方が気が楽だ。

 さあどんな罵倒でもどんとこい、なんて思ってると。

「私、ルーカスさんの事が好きです」
「……………………え?」
「好きだったんです、最初にあったとき、ルーカスさんが店に入ってきたのを見たときから、ずっと」
「な、ななななな――」

 いきなり何を言い出すんだエステル嬢は!
 俺の顔を掴んだまま見あげてくる、心なしか顔が赤い、目がうるうるしてる。

 これは……これは知ってる。
 ビアンカたちに教えられた、女性とキスをする前の顔だ。

 キスどころではなかった、エステル嬢は俺の顔から手を離したと、そのまま首に回した。
 そして、俺を引き込む。
 首に手を回したまま後ろに倒れ、俺を引き込んだ。

 とっさに地面に手をついて体の上に倒れない様にしたが、それでもエステル嬢を押し倒すような体勢になった。

「好きです、ルーカスさん」

 エステル嬢は片手をはなして、器用に胸もとをはだけた。

 露わになる下着、そして白いエステル嬢の肌。

 頭がぐるぐるする、何がどうなってるのか分からない。
 どうしてこんなことに? なんでいきなりこうなった?

 分からなくて、頭が真っ白になりそうだ。

「ルーカスさん……」

 エステル嬢は更に俺の頭を引き込んだ。
 顔と顔が近づく、吐息がかかる。
 そして――唇が重なる。

「――っ!」

 瞬間、驚くおれにエステル嬢は更に腕の力を込めて抱きしめた。
 パッと離れようとする俺を引き留める。

 至近距離で目があう、まっすぐ見つめられてる。

 このままで。

 と、無言で言われた気がした。

 エステル嬢とのキスは、キスじゃなかった。
 唇が重なる直前、唇の間に何かが差し込まれた。
 薄いなにか、布か紙か、そういうものが。

 おかげで俺のパニックが少しは収まった。
 何かがある、何かのためにエステル嬢がこうしている。

 瞬間、ものすごく薄く、早い殺気が襲ってきた。

 考えるよりも先に体が動いた。
 木刀を逆手に持ったまま、襲ってきた相手の攻撃を弾いてカウンターを叩き込む。

「うごっ……」

 相手は苦悶の声を漏らし、そのまま倒れ込んだ。
 手応え、そして声。

 どうやら相手は人間みたいだ。

 エステル嬢が俺の首に回してる手の力が緩んだ、俺は起き上がった。

「これの……ために?」
「はい。男の人はああいうときいちばん隙だらけって前に聞かされましたから。暗殺される人も結構な割合でそういう時だって」
「うん、要人暗殺は寝技の場合が多いよな」

 それは俺もよく聞く、そういう噂話とか作り話とか結構効く。

 そうか、エステル嬢は俺を引き込んだ、そういう場面をつくって相手に手を出させるように仕向けたのか。

 ……すごいなぁ。

「しかしエステル嬢、これは危険すぎる。さっきの姿勢だと一歩間違えればエステル嬢も相手に攻撃されてたかもしれないんだぞ」
「それなら大丈夫ですよ」

 俺がおきた後、エステル嬢も体を起こした。
 にっこりと――生まれ変わったあと初めてギルドであったときに見せた、あの笑顔を浮かべて。

「ルーカスさんのそばなら、どこよりも安全ですから」

 と、言い切ったのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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