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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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02.ものの道理

 さて、ジュリエットに聞くのはいいけど。

「ジュリエットは……いないのか」
「ジュリちゃんならちょっと用事があるといって出かけて行きました。しばらく家を空けるそうです」

 俺の腕の中でビアンカが答える。
 ビアンカとジュリエットは昔からの知りあいで、ビアンカがジュリちゃんと呼ぶほど二人は仲が良いらしい。

「そうなのか。じゃあ夜だな、話を聞くの」
「そうですわね」
「それまでどうするつもりなのじゃ?」

 ヘリンが聞いてきた。
 ジュリエットとすぐに話が出来ないんなら、いつも通りの事をするだけだな。

     ☆

 朝食の後、俺は一人で家を出て、ギルド「蒼空のベルベット」に来た。
 昔から世話になってきたギルドで、俺が若返った後も何かと便宜を図ってもらったりする所だ。

 中に入ると、何故か急にざわついた。
 同じように仕事を受けるためにギルドに集まってきた他の冒険者たちが俺の顔を見てひそひそと何かを言い合っている。

 なんだ? どうしたんだ?

「ルーカスさん!」

 俺の名前を呼ぶのは女の声。
 見ると、カウンターを回って出てきて、こっちに向かってくる若い少女。

 このギルドの受付、エステル嬢だ。

 若返った後ギルドではルカって名乗っていたが、「ヘリン殺しのルーカス」と名乗るようになってからはルーカスにかえた。
 それでエステル嬢も俺の事をルーカスって呼ぶようになった。

「おはようエステル嬢。今日もすごく可愛いな」
「え? あ、ありがとうございます」

 エステル嬢は赤面した。
 こんなに可愛い子がほめられ慣れてないことはないだろうに、わざわざ褒め言葉に喜んで見せてくるなんて。
 やっぱり根はいい子なんだよな、この子。

「それより、どうしたんですかルーカスさん」
「今日も依頼を受けようって思って」
「えっ?」
「えっ?」

 エステル嬢の驚きがあまりにも意外で、俺まで同じ驚きの声を上げてしまった。

「どうしたんだ?」
「どうしたもなにも……ルーカスさん、領主になっちゃうんですよね。それなのに依頼を……ですか?」

 領主に?
 そういえばそんな話になってた様ななってなかったような。

 それも含めてジュリエットに聞かなきゃいけない事なんだけど……。

「領主だと依頼を受けられないのか?」

 それは困るぞ。
 なんてだって無能な俺の事だ、ギルドから討伐系の依頼を受けられなくなると金をかせぐ手段がゼロになる。

 俺一人だけならそれでも大した問題じゃないが、今はビアンカ、ヘリン、そして多分ジュリエットも俺の家族になる。
 金を稼げなくなるのはまずい。

「そんな事はないけど……」

 エステル嬢がそう言ってくれた。ない、ってのはホッとするけど彼女は何故か歯切れが悪い。

「本当にいいんですか?」
「なにかまずいのか?」

 俺が聞き返すと、エステル嬢はきょとんとした後、くすっと笑ってくれた。

「そうですね、何も問題ありません。ルーカスさん、ルーカスさんの腕を見込んで討伐してほしいモンスターがいるんですけどいいですか」
「やらせてくれ」

 討伐で稼げる。それを聞いて、俺はホッとしたのだった。

     ☆

 ギルド「蒼空のベルベット」を出て、エステル嬢と肩を並べて街中を歩いた。
 受けた依頼に、彼女が現地まで案内してくれるというのだ。

「しかしさっきは焦ったよ」
「そうなんですか?」
「ギルドの依頼を受けられなくなったら俺、他に出来ることないからな」
「またまた。ルーカスさんならいくらでも出来る事があるじゃないですか」
「お世辞は嬉しいけど。俺の事は俺がいちばんよく知ってる。無属性の才能ゼロだ。コツコツやってきて今はどうにか討伐の仕事が出来るけど。他に何も出来ないし才能もない」
「……」
「だから本当によかった、ホッとしてるよ」
「……」
「エステル嬢?」

 急に黙り込んでしまったエステル嬢。並んで歩いてる彼女の顔をのぞき込む。
 すると、ぶすっとして、それでいて悲しそうな顔をしているのが見えた。

「そんな事をいわないでください」
「そんな事?」
「たしかにルーカスさんは無属性かもしれませんけど、でも今持ってる力は本物です」
「それはコツコツ積み上げてきたものなんだ。それしか出来ないんだおれは」

 それも50年分、いやその前の下準備の段階をいれて70年分だ。
 70年間コツコツやってきてどうにか今の自分があるってだけだ。

「それでもです。コツコツやればそうなるなら、無属性の人はみんなそうなってます」
「それは……」

 俺は迷った、若返ってるけど70年コツコツやったからって言うべきか迷った。
 言えば俺があの「ルカカス」だってばれる。するとエステル嬢はまたあの生ゴミを見るような目をするだろう。
 それは、ちょっとつらい。
 だから言い出せなかった。

「違いますよね。コツコツでも――ずっとコツコツとやっていられたのはルーカスさんだからです。他の人が出来なかった事をやったから、そんなに強くなったんです」

 正直……胸に刺さった。
 他の人が出来なかった事をやったから。

 俺がそれとなく思っていたことで、しかし目をそらしたこと。

 本当はすごいことかも知れないと思ったこともあったけど、目をそらしたことだ。
 それを肯定してくれたエステル嬢……ちょっとだけうるっときた。

「そんなルーカスさんだから、わたし――」
「え?」

 たち止まって、真横を向いて、まっすぐ俺を見あげるエステル嬢。
 うるうるした瞳は何かを訴えかけているかのようだ。

 なんだ? それはなんだ?
 それをわからないでいると――。

「ああっ!」
「なに!?」
「で、出ました!」

 いきなり怯え出すエステル嬢。
 まわりをみる。話してて気づかなかったけど、いつの間にか俺たちは街を出て、アクリー近郊にある湖についていた。
 そして俺たちのまわりを魔物が取り囲んでいた。
 人型の魔物で、手に鉄の長剣を持っている。

 ほとんど同じ外見をしたのが5体。あからさまな殺気を放っている。

「こいつらか、人を襲いはじめた魔物って」
「おかしいですルーカスさん、話と違います」
「話と違う?」
「はい。依頼は獣型の魔物の討伐のはずです」
「獣型……」

 魔物を見て、俺も眉をひそめた。
 いくら俺でも違うって分かる。俺たちを取り囲んでいる魔物は人間型で剣を持ってる。
 俺でもこれを獣型と間違えない。

「それにこれ、ソードダンサーですよ」
「ソードダンサー?」
「アンデットの一種です。剣士が死んだ後成仏出来なくて、ひたすら剣術を磨くだけが存在意義になった魔物です。ウーゴクという山の特殊な場所にしかそうならないモンスターのはずです」
「それが何でここにいるんだ?」
「わかりません!」
「むっ」

 焦るエステル。
 が、考えてる暇はなさそうだ。

 ソードダンサーの五体は全員剣を持ったまま包囲を狭めてくる。
 剣術を磨くというエステル嬢の言葉通り、そいつらの身のこなしは流石だった。
 モンスターでありながら達人のような身のこなし、そして雰囲気を出している。
 多分、全員剣術の達人なんだろうな。

「どうしましょう、ソードダンサーが五体もいるなんて。この魔物って全員剣術の達人になってるのが特徴なんです。まずすぎます」
「エステル嬢、俺の後ろに隠れてくれ」
「え? た、戦うんですか」
「ああ」
「危ないです! 全員剣術の達人でしかも五体いるんですよ」
「大丈夫だ」
「大丈夫って」

 焦るエステル嬢。

 ソードダンサーの一体が攻撃をしかけてきた。
 持ってる長剣を振るい、閃光の様な速さで無数の斬撃をはなってきた。

「きゃっ!」

 怯えるエステル嬢。未だに俺の背中に隠れていないから、左腕でそれとなく抱き寄せた。
 そして右手で木刀を突き出す。
 先に動くカウンター(、、、、、、、、、)

 無数の閃光の中に存在するたった一つの隙めがけて木刀を突き出した。
 後から放った木刀は先にソードダンサーの肘を叩いた。
 肘が反対側に曲がって、剣を取り落とす。

「えええ!?」

 驚くエステル嬢、さっきまでの怯えが吹っ飛んでいた。

「剣術っていうのはどこまで行ってもある特徴からは逃げられないものなんだ」
「ある特徴?」
「剣術の宿命と言うべきか、どれだけ極めても、どれだけ速くても完璧でも。攻撃する瞬間必ず隙が出来てしまう。それは水が高いところから低いところに流れるのと同じくらい、当たり前の事」
「当たり前……」

 そう、当たり前。
 実は剣術だけではない、あらゆる攻撃がそうだ。
 それはあのヘリンですら例外ではなかった。
 ただ、「技」とか「型」が他の武術に比べて多い分、剣術はそれが顕著的なのだ。

「攻撃するときに隙が出来るのなら、先に攻撃をさせてその隙を突けばいい」

 別のソードダンサーが飛びかかってきた。
 今度は真っ向からの唐竹割り。
 振り下ろされる剣は「ぶおおおおおおん!」と空気を裂いて耳をつんざく轟音を出している。
 当たればたたでは住まない、山さえ切り開くほどの一撃。

 それでも道理からは逃れられない、隙が振り下ろされた後の胸にある。
 先に動くカウンター(、、、、、、、、、)
 ソードダンサーの胸をついた。

 二体のソードダンサーを一瞬で無力化し、包囲の一角をクズした。
 今なら逃げられる。

「エステル嬢、あそこから逃げて。俺が食い止める――ってエステル嬢?」

 どういうわけか、俺を見つめたまま動かないエステル嬢。

「どうしたエステル嬢」
「ルーカスさん……かっこいい」
「この動きは単に慣れてるだけ」
「動きじゃないです」
「え?」
「今の話し方、それと内容……」

 エステル嬢は俺を見つめる、さらに見つめる、強く強く見つめてくる。

「……すごく、格好良かった」

 と、言ってきた。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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