挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

5/75

05.身請けしたい

 いい武器を使えば、それだけで強くなれる気がした。

 三十歳の年、おれは半年分コツコツ金を貯めて、鉄の剣を買った。
 買った剣はそれまでに使ってたほぼジャンクの武器よりも遙かに切れ味がよかった。
 でも強くはならなかった。
 切れ味の鋭い剣を振り回すだけで当たらなくて、当たっても刃が滑ったり途中で止ったりで、全然意味がなかった。
 切るのがダメならたたきつければいい、そんな風に思ってた時期がおれにもあった。

 四十歳の年、それまで使ってた鉄の剣から、一週間溜めた金で金棒を特注で発注した。
 ただの鉄の塊だから、金棒はやすかった。
 それでちょっとは強くなった。
 重い分――敵に当たらないのはそのままだが、当たればたたきつぶせることがわかった。

 ヘリンと毎日のように戦う日々を送るようになってて、精霊でも当たればガードごと吹っ飛ばすことができた。
 ただし当てるまでが大変だった、重すぎるのだ。

 重いのなら軽くすれば良いじゃないか。

 五十歳になった歳、家の裏に生えてる木を切って、自分で削り出して木刀を作った。
 木刀は軽かった。金棒に比べれば紙切れにも等しい軽さだった。
 軽いし、自分で削り出して作ったものだから、手によくなじんだ。
 一万回素振りのタイムがよくなったのもこの頃からだ。
 それで割り切って、武器が軽いから敵の動きを見てから動くようにしはじめたのもこの頃。

 それから二十年、同じことをやり続けてきた、修行をこつこつつづけてきた。
 素振りに、ヘリン相手に。
 それを繰り返してきた。
 ヘリン以外の相手にやったのは――今日がはじめてだった。

     ☆

「はあ……はあ……」

 息が上がる。背中に嫌な汗が流れた。
 ちゃんと動きを見れたとは言え、あの噛み付きが出た瞬間は全身が総毛立った。

 一瞬「死」が見えた。

 それで上がった息が徐々に落ち着いて来て、おれは自分の手のひらを見つめた。
 驚きが後から追いついてきた。

 精霊クロケットを一撃でたおした。
 先に動かせて、先に動いた相手よりも先に(、、)動いて、隙を突いて倒す。
 修行通りの動きだが、一撃で倒せたのは予想外だった。

「すごい……クロケットを一撃で」

 後ろから声がした、例の衛兵だ。

「みてたのか。あー……このことは秘密に頼む」
「え、何でですか?」
「頼む」

 強めに言った。
 衛兵は納得しがたいって顔をしたが、渋々頷いてくれた。
 アレクサンダーが下手撃って噛み付きにやられたのに、おれが噛み付きに反撃したなんて知れたら大事だ。

 そもそも信じてもらえないかもしれない。
 大昔、ヘリンを倒せるようになって、それよりちょっと強いモンスターを頑張って一人で討伐したが、「お前のような無属性に出来るわけがない」って笑われたのを思い出す。

 あれはもういやだ、今回もどうせ「クロケットの噛み付きを真っ向から破るなんてできるわけがない」ってなる。
 だから秘密にしてもらった。

 まあ、でも。
 倒せたと言う事自体、純粋に嬉しいことだった。

     ☆

 クロケットを倒して、ギルドに戻ってきた。
 入り口にエステル嬢がいて、おれを見るなり笑顔になった。

「お帰りなさいルカさん!」
「な、なんだ。どうしたんだ一体」
「連絡来ました。精霊クロケットを代わりに討伐してくれたって」
「ああ、もう来たのか。えっと……」
「すごいです! 一撃で倒したって聞きました」
「他になにか聞いてないか?」
「え? えっと……アレクサンダーの代わりに倒したってことですか?」
「……ほかには?」
「いえ、特には」

 エステル嬢は不思議そうな顔をした。
 ふむ、衛兵はちゃんと黙っててくれたみたいだな。
 それならいい。

「でもすごいです、一撃で倒すなんて。今月で一番早く倒したんじゃないですか?」
「そうなのか?」
「はい! 動きを覚えて、弱点とか知ってて慣れてる人でも十分間くらいはかかるはずだから」
「そうなのか」

 それは知らなかった。
 そんなことを何となく聞いた記憶もあるような気がするけど、ヘリンしかやれない(やらせてもらえない)おれと関係ない話だから、かなり記憶があやふやだ。

「すごいですルカさん! 無属性でもこんなに強い人は他にいません。史上初なんじゃないでしょうか!」

 すごい持ち上げられ方をされた、複雑な気分だ。
 持ち上げられるのは嬉しいが、おれはおれのまま、何一つ変わってない。
 戦うとよりいっそうわかる、外見は若返ったけど、おれの中身は昨日までのおれ――ジジイだった時のまま何も変わってない。
 それで持ち上げられて、さも英雄みたいに扱われるのは――正直いって複雑な気分だ。

「あの、それでですね」
「うん?」

 エステル嬢が上目遣いで、「お願い」って若い女の子特有のポーズをした。

「今日、もう一回クロケットの討伐があるんです」
「ああ、夜の分だな」
「その夜のに依頼した子がちょっと不安な子なので、フォローをしてくれませんか? たぶん大丈夫ですけど、いざって時の為にルカさんがいると安心です。あっ、もちろん報酬は支払います」
「サポートか」

 そういうのあるんだ。
 いやあるのか。普通に考えて、若い者にチャンスを与えるって事は、その分リスクも増えるってことだ。
 実力者についてもらってフォローしてもらう、ってのは当たり前のことなのかもな。

「どうでしょう……」
「わかった」

 別に断る理由なんてない、報酬が出るんならなおのことだ。

     ☆

 ギルドを離れて、街中を歩いた。
 精霊クロケットの二回目の、夜の復活までにだいぶ時間がある。
 どこかで時間をつぶそう。

 懐がいつになく重い。ローマン、クロケット、そしてついでにヘリン。
 三精霊を討伐した報酬と、緊急出動でクロケットを討伐した報酬で、金がずっしり入っている。

 額は、ヘリン日課のざっと十倍。
 何か美味しいものでも食べよう。
 そうだ、肉がいい。

 新年の時くらいにしか食べられない、血が滴るくらいの肉々しいうまい肉を食おう。
 そう思って、街中を歩き回って、店を見て回った。

「ーー!」

 その時、全身に電流が走った。
 建物の中から一人の女が出てきた。
 建物は娼館、出てきたのはビアンカ。

 アクリー三番目の娼婦、気立てのいい美女。
 おれが――童貞を卒業した相手。

 のどがガラガラになった、緊張で全身がこわばった。
 目と目があう……にこりとほほえみかけられた。
 ドキドキする、心臓が暴れ回って、耳にうるさいくらいその音が響く。

 はじめての相手だからか、ますますドキドキする。
 ポケットの中の金を握り締める。
 彼女を買うには足りない、でも、ちょっと話すくらいなら。
 数時間一緒にいて、話したり、楽器を演奏してもらったりするくらいなら足りる。

 ――よし。

 おれは金を握り締めて、彼女の前に立った。
 舌が口の中でひっついてるのを無理矢理剥がして、言葉を絞り出す。

「あなたを身請けしたい!」
「え?」
「……………………え?」

 気付けば、おれは訳のわからないことを口走っていた。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ