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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第五章

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01.世界でいちばん安全な場所

 東の空が白みはじめたばかりの早朝、俺は木刀を持って庭に出た。

 両足でしっかり地面を踏みしめて、木刀を軽く握る。
 深呼吸をしてから、木刀での素振りをはじめた。

 なにも考えないで、ひたすら振る。
 振って、振って、とにかく振る。

 振った回数を数える、頭が悪くてちょっとでも気を抜いたら回数が飛んでしまうから、集中して数を数える。

 いつもの感覚になった。
 景色を見ているのに、何も見えていない状況。
 頭にあるのはただただ数字、目の前に数字が出ている様な感覚になって、それをひたすら数える。

 素振りで音を立てない(、、、、、、)ようにするのも忘れない。
 俺はとにかく無能だ、頭が悪くて同じ事を同時に出来ない。
 素振りで音を立ててしまうとその音に邪魔されて数も満足に数えられない。

 だから頑張って身につけた、思いっきり振っても音がしない、まわりの木々や草とかが揺れない様な素振りを。

 その素振りを続ける、ひたすら。
 やがて――目標の一万回を達成。
 朝の素振り一万回、持ち出した魔法時計を確認すると、ちゃんと一時間以内で達成した。
 その事にちょっとホッとした俺である。

「お疲れ様です、ルーカス様」

 穏やかな美声と共に、絹の感触が俺の頬に触れる。
 みると、ビアンカが手ぬぐいで俺の顔を拭いてくれていた。

 汗はかいていない、一万回素振りは毎朝の日課だから、もう汗をかかないで出来る様になってる。
 情けない話をすると、汗をかいてそれが目に入ると数を数えるのが飛ぶんだ。どこまで数えたのかまったく分からなくなって、一からやり直しだった時代が続いた。
 集中力を切らさないために、一万回程度(、、)じゃ汗をかかないようにコツコツ鍛えた。

「なにか考え事ですか?」
「え?」
「今すごく難しい顔をなさってました」
「ああ。ビアンカにこうして拭いてもらえるなら、汗を出すように鍛えなおさないとなって」
「汗を出せないのですか?」
「俺はそこまで器用な男じゃない。コツコツ努力してない事は何一つ出来ないんだよ」

 情けない物言いだが、ごまかしてもしょうがないから素直にビアンカに言った。

「わしを殺した程の男が情けない」
「いたっ!」

 今度は反対側から声がして、すねに痛みが走った。
 振り向くとそこにヘリンがいて、幼女さながらの小柄な体で腕を組んでふんぞりかえって俺を見あげていた。

「何するんだ」
「小僧はいい加減自信を持つのじゃ」
「自信なんて、俺は普通より大分無能だから持ちようが無い」
「ならば自信を持つ努力をせい。努力は得意なのじゃろ?」
「得意って言うか、それしか出来ないというか」
「どっちでもよいのじゃ、とにかくそれをやれと言ってるのじゃ」

 自信を持つ努力か。
 言いたい事は分かるけど、何をどうすればいいんだ?」

「大丈夫ですわ、そんな事をなさらなくとも」
「貴様はいつもそうじゃ。あまり小僧を甘やかすな」
「甘やかしてなどいませんわ。ルーカス様は既に『自信がないことに自信を持っている』ので、それでいいのではありません。アーサー・ドレイクも、天才とはミスを自慢したがる人種なのだとおっしゃってますし」
「鉄血皇帝か。フン、天才に憧れる凡人のいじけた台詞などとっとと忘れるに限る」

 ビアンカとヘリンが俺を挟んで言い合っていた。
 険悪な雰囲気になりそうだから今のうちに止めないと――。

「――っ!」

 瞬間、何かが空気を切り裂いて飛んできた。
 何なのか分からない、しかしものすごい勢いで飛んできた。

 気が付くとそれはビアンカとヘリンの鼻先にまで迫っていた。

 持ったままの木刀を振った。
 先に動くカウンター(、、、、、、、、、)、俺が唯一出来る事。
 攻撃をみてからそれを越える速度で打ち払う。

 鈍い音が立て続けに聞こえた、二人を襲うものを同時に打ち払った。
 地面に転がるそれを見る、長い円錐体が二つくっついた様な飛び道具だった。
 さっきの勢いなら人間の頭なんて簡単に貫通してただろう。

 俺はそれが飛んできた方角をみた、更に同じものが三つ飛んできた。
 俺とビアンカとヘリン、それぞれを狙って。

 撃った人間は見えない、どこかに隠れているみたいだ。
 姿の見えない突然の襲撃者に俺がどうしようかと悩んでいると。

「打ち返せばよかろう」
「――っ!」

 まるで天啓、ヘリンの言葉はまるで白い稲妻となって俺の脳天を撃ち抜いたかのような衝撃を受けた。
 体が動いた、それは出来る(、、、、、、)

 相手に攻撃をしかけるのは出来ないが、攻撃そのものを打ち返す事は出来るようにしていた。

 飛んできた円錐をガガガと打ち返した。
 そのままの軌道で戻っていく円錐、直後、低い苦悶の声が聞こえた。

「かえしすぎじゃ」
「え?」
「軌道そのままにかえしすぎて相手の肩を貫通しただけじゃ、体にかえさぬか体に」
「無茶言うな、俺がそんなすごい事できる訳がないだろ」
「今ので充分すごい事ですわ」

 つぶやくビアンカ。そんな事はない。
 飛び道具を飛んできた軌道そのままに打ち返しただけだ。そんなのすごくもなんともない。
 ヘリンがいう軌道を変えて打ち返す方がよっぽど難しい。
 まあ、そんな事今の俺には出来ないからどうでもいいけど

「あーあ、小僧がトドメを刺さぬから相手が逃げてしまったのじゃ」

 俺には見えてないけど、ヘリンは見えてるみたいだ。

「っていうか、何なんだ今のは。なんでいきなり」
「刺客、いや威力偵察といったところじゃな。相変わらずじゃなこの街は」
「ど、どういう事なんだ?」
「詳しい話はジュリエットにでも聞け。わしが知ってるのは過去のことのみ、ジュリエットなら現在の情勢も教えてくれるはずじゃ」

 ヘリンはそう言って俺の腕を取った。
 自分の腕を回して――腕組みの体勢になった。
 まるで恋人同士でするかのように。

「ジュリエットに聞くのはいいけど、なんで腕を組んでくるんだ?」
「どうせまたくるじゃろうかな、小僧のそばにいるのじゃ。ここがこの世で一番安全な場所じゃからのう」

 そう話すヘリン、肝心な事をまったく言ってないから訳が分からないけど、半分楽しんで俺をからかってるのだけは分かる。

「そうですわね」

 と、今度はビアンカも腕を組んできた。
 ついでに体もびったりくっついてきて、どこもかしこも柔らかくていいにおいがした。

「ルーカス様のお側にいれば安心ですわ」

 ビアンカ……うん、ビアンカは守らないと。
 何が起きてるのか分からないけど、俺の木刀が届く限り、二人には傷一つつけさせないぞ。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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