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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第四章

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12.ルーカス・クムス

 目の前に佇む、ヘリンと先祖ヘリンのふたり。
 こうして並んでみるとそっくり具合がよく分かる。双子とかそういうレベルを超えてコピーの領域だ。
 口を開かなきゃまったく見分けがつかない。
 いや、今はそれよりも。

「因縁を断ち切るってのはどういう意味なんだ?」
「話すと長くなるのじゃ。それよりも今はあれらを葬るのじゃ」
「あたし達がやったげるから」
「うむ、わしが元に戻ればこやつらなど赤子の手をひねるよりもたやすいのじゃ」
「元に戻る? 一体何を」
「話は全て後じゃ。今はわしの言うことを聞け」
「……わかった、どうすればいい」
「聞き分けのよい小僧じゃ。わしらとまぐわえ」
「……ら?」

 ヘリンをみて、先祖ヘリンをみる。
 まったく同じ顔で、得意げな表情をする二人を交互に見比べる。

「感謝しなさいよ。死んだあとにそういうことをさせるのはがきんちょがはじめてなんだからね」
「いや待て待て、本当に訳が分からない。もっとわかる用に説明して――うわあああ!」

 まったく訳が分からないままヘリン達に押し倒されて。

「安心するのじゃ、ジュリエットからバトンをうけている」
「じゃなきゃこのあたしがこんなことをするわけないじゃん」

 なすがまま、二人と体の関係をもった。

     ☆

「またしても双子の出産じゃな」

 地面に倒れているおれとヘリンの死体。
 ヘリンのはまったく外傷がなくて、眠ったように死んでいる、一方のおれは腹がぱっくり内側から裂けて、もうすっかり見慣れたグロ状態になっていた。
 それを見下ろす、おれとヘリン。

「あんたはどっちのヘリンなんだ?」

 おれの隣に立つ、一人しかいないヘリンに聞く。

「どっちでもないのじゃ。強いていえばオリジナルヘリン、ってとこね」

 途中で口調をかえて、腰に手を当てていうヘリン。
 口調を変えたけど、表情はかわらなかった。変わらなくても自然なくらい、ヘリンそのものだった。

「さて、奴ら二人との因縁を断ち切ってくるのじゃ」

 腰に手を当てたまま、ローマンとクリケットの神殿の方を向く。
 神殿は震えている。二人を抱いて、自分で自分を出産する間にローマンとクリケットは何回か復活をくりかえして力が増大している。
 気配的に、もう70~80%はある感じだ。

「大丈夫なのか?」
「問題ないのじゃ、みておれ」

 そういって飛び出したヘリン――だったが。
 ぺちゃん、って音をたてて、盛大に顔から地面に突っ込んだ。

「いたたた……ええい、どうなっておるのじゃこれは。力が戻るところかゼロになっておるではないか」

 赤くなった鼻を押さえて起き上がるヘリン。

「あ……」
「なんじゃ、そのあっ、ってのは」
「いや、いまなんか来たんだ。おりてきたって言うか、なんというか」
「ええい、まどろっこしい。言いたい事があるのなら早くいえ」
「みんなが言ってた『バトン』の受け渡しの感覚がわかった気がする。理屈は分からないけど、こうすりゃいいっていうのが分かるんだ」
「ほう?」

 目がきらーんって光って、おれに向き直るヘリン。

「なにをするというのじゃ?」
「こうする」

 ヘリンにちかづいて――キスをした。

「――んぐ!」

 びっくりするヘリン。キスはもう初めてじゃないけど、いきなりされてびっくりしてる。
 五秒位して、唇を離してやった。

「いきなり何をするのじゃ」
「これで戻ってるはずだ」
「え? ――本当じゃ」

 ヘリンが頷く。

「本当って、わかるのか」
「……これは愉快じゃ。今の動き、小僧にも見えなかったということじゃなからな」

 ヘリンは手をかかげた。その手の中に細長いものがあった。
 目を凝らした――指?
「小僧の指じゃ、ほれ」

 あごをしゃくる、その先におれの死体がある。

「今の一瞬でもぎ取ったのか?」
「うむ。これがわしの本来の力じゃ。分割する時に横着をしてしまってな、それで他の二人よりも一段よわい存在になってしまったのじゃ。じゃが、元に戻った以上分離したあやつらに遅れは取らぬ」

 えと。なんか色々新事実が出てきたんだけど。
 どこから突っ込むべきか――と思った瞬間地震が起きた。
 ローマンの神殿が崩れて、そこから精霊が飛び上がった。
 圧倒的な威圧感。今までに感じた事のない程のパワー。
 100%のローマン。一瞬でそうだと分かった。

「まあ、こんなもんじゃな」

 ヘリンはそう言って、何かボールのようなものを、真上に投げてはキャッチするのを繰り返した。
 直後、ローマンが墜落する。威圧感が嘘みたいに一瞬で消えた。
 首を失ったローマンが地面に落ちていく。

「なっ! 今の一瞬で? ……何も見えなかった」
「これがわしの本来の力じゃ」

 ヘリンが得意げに言った。
 その後、100%に戻ったクリケットが同じように神殿を破壊して出てきたが、彼女もやっぱり、ヘリンに首を取られて、朝露の如く消え去ったのだった。

     ☆

 ヘリン、ローマン、クリケット。
 かつてアクリーを壊滅寸前まで追い込んだ三体の精霊はいずれ元人間であった。
 アクリーをるつぼの街たらしめている三つの王国。
 ヘリンがクムス王国の王族であったように、他の二体もそれぞれの国の重鎮だった。
 三人の重鎮はある協定を結んだ。
 秘法によってそれぞれの分身を産み出し、たたかって、かったものがアクリーの統治権をえると。
 しかし秘法によって産み出された三人の分身は精霊的な存在となり、本来の目的を忘れた。
 精霊は赴くままに破壊を繰り返し、やがて封印された。

     ☆

「その状態は永らく、小僧がわしの封印を解くまで続いたのじゃ」

 とりあえず一件落着したあと、自宅に戻ってきたおれはヘリンの説明をうけた。
 正直話をきいてもほとんど理解できなかった、が。

「もうクリケットもローマンも復活しない。でいいんだよな」
「うむ。わしがこの手で葬った。貴様がわしを葬ったのと同じように。100%に戻った状態で打ち倒されれば復活のしようがない。例外を除いてな」
「例外?」
「貴様が倒せば次の情交で復活もあったやもしれんが、残念なことに倒したのはわしなのじゃ。奴らはもうしまいじゃ」
「そ、そうか」

 ということは。

「アクリーは……解放されたんだな。精霊から」
「わしはまだいるのじゃ」
「……」
「ふっ、安心するのじゃ」

 ヘリンは自分の爪で手のひらをひっかいた。
 爪痕が残り、赤い血が出る。

「力が切れておる。小僧の許可がなければわしはまともに動けん。今度は距離じゃなくて、時間のようじゃな。元に戻れるのはざっと三分、それを過ぎたら見た目通りの人並みじゃ――むぐっ」

 ヘリンに迫って,キスをした。
 無理矢理奪うような、触れるだけのキス。

「いきなり何をするのじゃ!」
「傷、治ったか」
「む? ……こんなもの治るに決まってるのじゃ」

 仏頂面で手のひらを見せるヘリン。
 さっき自分でつけた傷がきれいさっぱり消えてた。

「そうか、それはよかった」
「まったく……この説明のタイミングでキスするなどずるいのじゃ」

 ぶつぶつ文句を言うヘリン。
 おれは全身が脱力した。

「そうか……これで終わりか」

 精霊との戦いはおれの人生そのものだったといってもいい。
 主にヘリンだったけど、おれは五十年間も精霊の討伐を――精霊と戦い続けてきた。
 それが終わった。喪失感のような、達成感のようなものがおれを襲った。

「何をいう、これからが始まりじゃ」
「へ? 始まりって」
「わしは他の二人を倒した、つまり競争に勝ったのじゃ。かったのはクムス王国じゃ」
「そう、だな」

 そういうことになるのか? 一応。

「そして小僧はわしの……あたしの許可で王族になった」
「そうだな」
「というわけで……ふむ、来たようだな」
「来たって?」

 何をいってるんだろ、って思っていると。
 部屋の外が騒ぎ出して、ジュリエットが入って来た。

「ルーカス殿」
「ジュリエット? そういえばいなかったな。どこ行ってたんだ?」
「ヘリン様のご命令で、父上の詔書をもらいにいってました」
「詔書?」

 鎧姿のジュリエットはビシッと背筋を伸ばして、文書の様なものを取り出して、それを読みあげた。

「精霊討伐の功績をたたえ、王族ルーカスをアクリーの領主に命じる」

 ……。
 …………。
 ………………。

「え?」

 王族ルーカス? アクリーの領主?
 なんか訳が分からないうちに、事態が一気に動いて。
 おれは、想像だにしなかった地位に登りつめたのだった。
これにて第四章終了でございます。
ブクマ、評価もらえると嬉しいです。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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