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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第四章

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11.桁違い

「うぎゃあああ!」

 クリケットの神殿の中から断末魔が聞こえてきた。
 おれは無言で立ち上がって、木刀を握り締めて神殿にはいった。
 神殿のど真ん中に男の冒険者が倒れている。
 若い男だ、まだ息がある。今日補充されてきた、炎と氷の二つの属性を持ってる希少な才能。
 才能にふさわしい自信もあった。
 それでおれにまかせろと意気揚々に神殿に飛び込んだはいいけど、一戦ももたないでやられた。
 おれに反応して、殺意を剥き出しにして襲ってくる精霊クリケット。
 木刀を握り締め、動きをよく見て。
 見つけた隙に攻撃を――。

「――っ!」

 景色がぶれた、力が抜けそうになった。

「くぅ!」

 歯を食いしばって、握り直して、遅くなったカウンターを叩き込む。
 一撃でクリケットを倒す。
 脱力して、へろへろその場に座り込む。

「ルーカス様」

 ビアンカがはいってきた。

「まだ息がある、連れてって治療してやって」
「はい」

 新入りをおこして、外に連れて行った。
 その場に座るおれ。うごけなかった。
 精霊の暴走が始まってから一週間、たおしたローマンとクリケットは100を超えた。
 日夜問わず復活してくる強力な精霊、それの対応に体力と精神力をすり減らした。
 冒険者がちょろちょろ補充されてくるけど、今の若者みたいにやられて……半日以上もったのはいない。
 やられる度におれが尻ぬぐいをしている。
 空気が震えた、隣のローマンの神殿から精霊復活の気配をかんじた。

「……ふう」

 肺の中にたまって空気を吐き出して、木刀を杖代わりに立ち上がって、向こうの神殿に向かっていった。

     ☆

 神殿の外、おれはへたり込んでいた。
 今、ギルドが探してきた人間が何かをしている。
 神殿全体を大がかりな魔法で囲んで、魔法を行使している。

「あれは?」

 横に立っているエステル嬢に言った。

「封印を補修? それか強化をしているんです。精霊の封印を元の状態にもどしているんです」
「なるほど。前の様に一日二回程度の復活に戻せば、日常の討伐ですむしな」
「はい! こういう事ができる人はとても希少なので、探すのに手間取りました」
「最初にこれをつくって賢者様がいかにすごかったのかって分かるな」
「はい。あの精霊達を封印するなんて」

 木刀を抱えて座り込んだまま、かんがえる。
 体のキレはもうない、動きは完調の時の五割程度。
 敵の動きはよく見えるが、たまに動こうとして体が動かない事がある。
 体が動かなくて、ヘリンに気づかされた最小限の無駄の無い動きでなんとか対応出来てる。
 それもギリギリの綱渡り。戦い続けて、まともに休めなくて、もちろん寝るヒマなんてほとんどない。
 それもやっと終わる。封印さえ――。
 ――パキーン。
 何かがはじける音がした。
 嫌な予感がする、とんでもなく嫌な予感がする。
 とてつもなく、ものすごい嫌な予感がする。
 おそるおそる神殿の方をみた。
 展開しかけの魔法陣がきえていた。術者もいなくなっていた。
 術者は――術者だったものが全てをぶちまけていた。
 地面に血と肉を飛び散らせて……内側からはじけて、円形に均等に飛び散らせていた。

「きゃあああ、ど、どうして!?」

 驚愕するエステル嬢。
 ……封印は、失敗か。
 いや、失敗じゃない。
 大失敗だ。
 神殿の入り口からでてきた、はじめて神殿の外に出てきた精霊クリケットの姿をみて、おれは封印が裏目にでた事を直感的に理解したのだった。

     ☆

 草木も寝静まった夜。
 精霊が神殿を出られるようになってから、丸一日。
 微妙に強さを増した精霊を討伐し続けたおれの疲労がピークに達した。

「ルーカス様。少しお休みになられては」
「……いや休むと起きれないような気がする」
「そうですか。せめて寄りかかって、すこしでもお体をやすませては」

 ビアンカはおれの横に座った。言われたとおり体をよせて、肩に頭を寄っかからせて休憩した。

「……おれは、ダメだよな」
「ルーカス様が?」
「ああ、こんなことしかできないなんて。この程度で体が動けなくなるなんて情けない」
「そんな事はありませんわ」
「だが……」
「この一週間、入れ替わり立ち替わりやってきては、負傷・死亡して離脱した冒険者の数は36名。その間ルーカスが倒したクリケットの数は131、ローマン127」
「数えてたのか」
「倒した数の次点が陽炎のノアのローマン3、クリケット1です。そこから先は有象無象。ルーカス様の功績は桁違い、いえ、桁が文字通り二つは違いますわ。ルーカス様が水際で食い止めてるから、アクリーの街は無事でいるのですわ」
「しかし、おれがもっと上手くやれれば」
「ルーカス様がもっと上手くやってしまうと、世界を救う英雄になってしまいますわ」
「言い過ぎだ」
「わたくしにとってルーカス様はそういう方ですわ」

 静かにいうビアンカ。
 本当に、そんな風に思われてるって感じた。
 気持ちが嬉しかった、例え慰めの気休めだって分かってても。
 それが、ものすごく嬉しかった。
 ビアンカの気持ちと温もりにいやされる。
 それも、長く続かなかった。
 ローマンの神殿が震えた、精霊が復活する。

「――ふっ!」

 自分に喝を入れて、何とか立ち上がってローマンの神殿に向かっていく。
 もうちょっと体は動く。
 ビアンカのおかげでもう少し体が動く。
 動けなくなるまで、戦おう。
 おれに出来るのは戦う事だけだから。

「それは甘えなのじゃ」
「ふん、その程度の男だってことよ」
「え?」

 声がきこえて、驚いて、振り向く。
 そこに、ヘリンたちがいた。
 ヘリンと、先祖ヘリン。
 まったく同じ顔をした二人がそこに立っていた。

「待たせたのじゃ。さあ、因縁を断ち切りにいくのじゃ」
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