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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第四章

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09.はじまりのはじまり

「言っとくけど、あたしは強いんだからね。生きてた頃は『閃光のヘリン』って呼ばれて戦場じゃ――」
「『閃光のヘリン』というのは口数の事をいってるのか?」
「ルーカス様……」
「ルーカス殿……」

 びっくりした様子のビアンカとジュリエット。
 それとは関係なく、先祖ヘリンを見つめる。
 表情が変わった。
 顔は笑ってるけど、目は笑ってないと言う顔に。

「……いうじゃないがきんちょ。あたしにそんな口をきいたバカははじめてだよ。覚悟は出来てるんでしょうね」
「いいからかかってこいよ口だけヘリン」

 むかついた、腹の底がぐつぐつ煮えたぎるくらい腹が立った。
 ビアンカを操ってあんな事をさせるなんて、許せない。

「いい度胸――じゃん!」

 一瞬で先祖ヘリンが肉薄してきた。
 フッと消えて、目の前に現われて。
 それもまたフッと消えて、今度は――。

「後悔しなさい!」
「――っ!」

 背後に現われた。
 鋭い何かが飛んでくる、とっさに地面を転がってかわした。

「やるじゃん。でもね、まだまだ!」

 更に飛んでくる先祖ヘリン。
 目の前に迫って、消えて、今度は左から攻撃をしかけてくる。
 木刀で受けて、はじき飛ばす。幽霊なのに実体があるような手応え。
 三度飛んできて、目の前から消えて、今度は左。
 先祖ヘリンの攻撃は大体分かった。
 超スピードで肉薄して、目の前で残像を残すほどに加速して死角から攻撃をしかけてくる。
 閃光のヘリン、という名前にふさわしい程のスピードだ。

「ほらほらほら、どうしたの? 避けてばかりじゃ勝てないよ。それともあたしのスピードについて来れないのかしら?」
「そうでもない」
「へえ?」
「もう見切った、次で決める」
「口だけ男――ね!」

 距離をとって、助走つけて肉薄して、フッと消える。
 ここから本命の攻撃がすっ飛んでくる。
 今までは背後に左右、そして頭上から飛んできた。
 今度は――。

「ざーんねん、真っ正面だよ!」

 正面に残像を残して、正面から残像を突き破って(、、、、、)再突進してくる。

「これは予想出来てなかったよね」
「予想なんか最初からしてない」

 おれは頭がよくない、下手の考え休むににたりだ。
 おれにできることは一つ、昔も今も多分これからも。
 相手の動きをよく見て、隙を見つけてカウンターを叩き込む。
 どんなにフェイントをかけられようが、予想を外す動きをされようが関係ない。
 おれからすれば先祖ヘリンは正面から再突進してくる。
 それだけのことだ。
 スピードに甘えすぎた先祖ヘリンは全身隙だらけだった。ざっと見て全部で九カ所、どれ一つでも人間なら致命傷になるところだ。
 だから――全部叩いた。
 木刀を握って、九カ所を全部ぶったたいた。

「きゃあ!」

 手応えと悲鳴、先祖ヘリンがすっ飛んでいく。

「な、なに?」
「これで終わりか?」

 静かに言い放つ。

「そんなわけ……ないじゃん!」

 更に飛んでくる先祖ヘリン、顔が完全に怒りモードになった。
 でもそんなの関係ない。
 肉薄して、残像で惑わせて、今度は左の死角から。

「これで!」
「みえる」

 隙は四カ所、余さず全部ぶったたく。

「なんでよ! どうしてよ! こんなの!」

 肉薄、残像、背後から。
 ちらっと肩越し、隙は二カ所。

「かかったわね! ここから――きゃ!」

 何かしようとした、多分それもフェイントにしてどこかに飛ぼうとしたんだろう。
 関係なかった、ブレはじめる姿を先にぶったたいた。

「なによこんなの! こんなのあり得ない」

 肉薄――ぶったたく。
 フェイントかけて残像を残す前にぶったたいた。
 すっ飛んでいく先祖ヘリン、ゆっくり歩いて近づく。

「また――きゃ!」

 動き出す――叩く。

「ちょっとなにす――」

 起き上がる――叩く。

「やめなさ――」

 口を開く、叩く。
 先祖ヘリンのあらゆる行動に反応して、先回りのカウンターでぶったたいた。
 容赦なくぶったたいた。

「ルーカス殿……何という鬼のような形相……」
「こういうのは……嬉しいわね。ジュリちゃんもそう思わない?」
「はい! ビアンカさんが羨ましいです。わたしもそんな風に思ってくれるのでしょうか」
「きっとジュリちゃんの時もそうしてくれるわ。でも、そうならないのが一番わよね」
「もちろんです!」

 外野のやりとりを言葉として理解できないくらい、おれは先祖ヘリンを叩き続けた。
 もはやモグラ叩き、ちょっとでも動いた瞬間に叩いた。

「やめっ、ちょっとっ、もうっ――やめなさいよ!」

 その場にじっとして、声だけを張り上げた。

「なんだ」
「もういいって言ってんの。あたしの負け、それでいいでしょ」
「……」
「何よその目、なんか不満でもあるの」
「ある」
「はあ?」
「叩き足りない」
「叩き足りないってあんた」
「あと一万回くらい叩きたい」
「そんなに叩いたら死ぬでしょうが!」
「大丈夫、お前はきっとしらなない」

 だから叩きたい、思いっきり、ずっと。

「ルーカス様」
「ビアンカ?」
「それくらいでいいのではありませんか? 彼女は敗北を認めたし、目的は達した訳なのですか」
「しかし……こいつはビアンカを……」
「ルーカス様」

 ビアンカは耳打ちしてきた。

「わたしの事よりも今はジュリちゃんを」
「ジュリエット……あっ」

 ハッとして離れたところに立つジュリエットを見た。
 彼女は複雑そうな顔をした。
 切なそうな、それでいて羨ましそうな顔。
 そうだ、おれはジュリエットの事を認めてもらいにきたんだ。
 ビアンカの事で怒ってたら……ジュリエットに悪い。

「ありがとうビアンカ」
「どういたしまして。そして、ありがとうございますわ」

 微笑むビアンカに「ちゅっ」ってキスをされた。

     ☆

「認めてくれるって事でいいんだな」

 一息ついて、先祖ヘリンに聞く。

「二言はないわよ。あたしを誰だと思ってるの?」
「そうか」

 どうやら悪いやつじゃなさそうだ……またちょっとむかむかするけど。

「認めてやるわよ、あんたとその子の結婚……ほら」

 先祖ヘリンは手をかざした、そこに光が集まって、半透明の紙っぽいものになった。
 そこに光った指先をなぞらせて、何かを書き込んでいく。

「ねえ」
「なんだ」
「あんた、その二人の事が大事?」
「ああ」
「どれくらい?」
「何でもするくらい」

 おれは即答した。
 そう、なんでもする。
 こんなおれでも、才能もなく頭も悪いおれと一緒にいてくれるビアンカとジュリエット。
 なんでもしてやる、なんでもさせて欲しい。
 おれは本気でそう思っていた。

「なんでも?」
「ああ、なんでもして、そうだな、金を儲けて、もっと力をつけて。彼女達が不自由のない生活が出来るようにする」

 財産の桁はそのまま自由に直結する。
 おれは最近そう学んだ、実感した。
 だから、そこを目指す。
 めざして、彼女達を幸せにする。

「……そっ。はいこれ」

 先祖ヘリンが紙を投げてきた。半透明の紙はおれがキャッチした瞬間実体化して普通の紙になった。
 そこにびっしり文字が書き込まれている。

「それを持ってったらがきんちょがあんた達の結婚を認めるから」
「そうか、ありがとう」
「……ふん」

 先祖ヘリンはつまらなさそうに試練の塔の中に消えていく。
 もしかして、悪い人間(ゆうれい)じゃないのかも知れない。

     ☆

 試練をクリアした証を大事に懐に忍ばせて、ひとまずはアクリーに戻る。
 途中で、アクリー西側の神殿を通り過ぎた。
 そこでヘリンを見かけた。
 精霊ヘリン、のじゃ口調の女の子。
 彼女は砂にした神殿の跡地の上に座って、空を見上げていた。

「ヘリン」
「うむ? おお、小僧ではないか」

 ヘリンに声をかけると、彼女は立ち上がって、パタパタと駆け寄ってきた。
 かわいい。先祖ヘリンに比べて大分可愛い。喋り方は婆くさいのになんてかわいい。
 ちょっと抱きしめたくなった。

「へり――」
「ヘリン彗星拳!」
「ぐお!」

 いきなり腹パンされた。

「な、にを……」
「わしを放っておいてどこにいってたのじゃ? んん? また浮気か」
「うわ、ちが……」

 悶絶してうまくしゃべれない。こいつ、思いっきり殴りやがって。

「ダメですよヘリン、そんな事をしては。ルーカス様を怒らせると大変な事になりますわよ」
「そうだ、ルーカス殿を怒らせたら大変な事になる!」

 一緒に戻ってきたビアンカとジュリエットがいった。

「大変なことってなんじゃ」
「イジめられますわ」
「あれはプライドをへし折っていた気がします!」
「なんの事なのかわからぬのじゃ。それよりもどこに行ってたのじゃ?」

 ヘリンの質問を答える二人。
 ジュリエットとの結婚を認めてもらうために試練の塔にいって、そこで起きたことをかいつまんで説明した。

「ほう、それで認めてもらったのか」
「ああ、これがその証拠だ」

 そういって懐から紙を取り出す。くるくるに巻いてヒモで結んで閉じたヤツをとりだした。

「どれ、わしにも見せよ――」

 そういって、手を伸ばすヘリン。
 彼女の小さくて柔らかそうな手が紙に触れた、途端。
 バリン!
 巨大なカラスが割れた様な音が空気を引き裂いた。
 直後、地震がおきた、圧倒的な力を感じた。
 ちからの出所は……二つの神殿。
 ローマンと、クリケットの神殿。

「ど、どういう事だ?」

 この時のおれはまだ知らなかった。
 三体の精霊、るつぼの街に干渉してくる三つの王国。
 そして、同じ名前と見た目をした「ヘリン」という二つの存在。
 それらの意味を、この時のおれはまだ知らなかった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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