挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第四章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

44/75

08.ビアンカの信頼

「くっ!」

 突っ込んでくるビアンカを避けて躱す。

 さっきまでと同じって訳にはいかない、偽物のビアンカじゃない、操られてるとは言え、本物のビアンカだ。

 やられたからやり返す、って訳には。

「へえ、面白いもの持ってんじゃん。それ、つかっちゃおうよ」

 ニヤニヤしながら手を出して、グイってする先祖ヘリン。

 遠隔操作だからか、ビアンカの動きがそれに合わせて変わった。

 懐から針を、縫い物をする針を取り出した。

 変哲のない針、それが二本。

 両手の親指と人差し指で摘まむようにもって――更に襲ってきた。

 きらり光る鋭い針の先端。

 ささったら大変な事になりそうだが、所詮針。

 反撃はできないから、木刀で針をうけた。

「なに!」

 ビリリと来た、まるで巨大な岩を殴った時の様な衝撃としびれが、腕を通って全身を襲った。

 手がしびれる、虎口(親指の付け根)が裂けて血が噴き出す。

 木刀をはじかれそうになった。かろうじて掴み直して、大きく飛び下がる。

「なんというパワー、それに速い」

「どうしたの? 手も足も出ないわけ?」

「くっ」

 楽しげに挑発してくる先祖ヘリン。

 手も足も出ない。ただしビアンカの強さにじゃない。

 確かに強い、そして速い。

 だけどどっちにしてもそんなにじゃない。

 ヘリン……精霊ヘリンに比べればたいしたことはない速度とパワー。

 でも、ビアンカだ、相手はビアンカだ。

「ルーカス様、どうかわたくしに構わず」

「できるか!」

「やればいいじゃん? というか倒さないと試練は不合格だからね」

 くっ。

 どうする、どうすればいい。

 ビアンカを倒すしかないのか。

 倒す、それはおれにとって「殺す」とほぼ同じ意味を持つ言葉だ。

 当然である、おれに手加減のスキルなんてあるわけがない。

 数十年間、コツコツとやってきた修行は「相手の隙を突いて一撃で倒す」ってヤツだ。

 事実、いまでもビアンカの攻撃の隙が見える、ココに木刀を割り込ませたら一撃で倒せる隙が、攻撃される度に見える。

 でもそれは、攻撃したらビアンカが死ぬことを意味する。

 隙は……どれもこれも致命的な、急所に生まれていた。

「かまわずやって下さいルーカス様」

「できない! そんなのできない」

「ですがこのままではルーカス様の身が!」

「それでも!」

 体を操られたビアンカが繰り出す攻撃を必死に避けながら、言い返す。

「おれは絶対にビアンカを攻撃しない! 何があっても!」

「ルーカス様!」

「くぅっ!」

 必死に木刀で受ける、いくつかの攻撃が防御をすり抜けて体に突き刺さる。

 針で刺される度にしびれが体を突き抜けて行く。

 どうする、どうする、どうする。

 考えはまとまらない、しかし熾烈を増していくビアンカの攻撃。

 ますますピンチになってしまうおれ。

「……ルーカス様」

「え?」

 一瞬、家に戻った蚊のような錯覚に陥った。

 それほどに、ビアンカの声が普通だったから。

 実家の様な安心感、それくらい平然と話しかけてきた。

「わたくしは、ルーカス様をお慕いしてます」

「ビアンカ?」

 普通に話すビアンカ、攻撃は一段と激しさをました。

「強く、優しいルーカス様をお慕いしております。そしてそれ以上に」

「それ、以上に?」

「これまで、数々の不可能を可能に変えてきたルーカス様をお慕いしてます」

「そんな、おれなんか――」

「わたくしの目にはそう映りました」

「――っ!」

 ビアンカの目にはそううつった?

 彼女にはそう見える?

 おれは、数々の不可能を可能にする男だって?

 針の攻撃をはじく、目と目がある。

 からかいじゃない、冗談でもない。

 ビアンカの目は、本気でそう信じている、っていう目だ。

 彼女は本気でそう思って、おれの事を信じている。

 不可能を、可能にする男だって。

 なら。

 それなら。

 ビアンカの期待に、答えなきゃいけない。

「……ビアンカ」

「はい」

「おれにすべて任せてくれるか」

「はい」

 頷くビアンカ、口元に浮かべる柔和な笑み。

 混じりっ気のない信頼の証。

 それとは裏腹に、鋭い針の一撃が飛んでくる。

 集中する、攻撃を見つめる。

 隙を見つけた、三つある、どれでも致命傷になる隙。

 それだと今までと同じ。

 それじゃない。

 集中、さらに集中。

 集中して攻撃を見つめる。

 時が止ったかと錯覚するくらい見つめる、見抜こうとする。

 瞬間、体に電流走る。

 白い光が脳天を貫く。

 何なのか分からない、だけど体は動いた。

 頭より先に体が動いた。

 木刀の先端が吸い寄せられるように、ビアンカの頭を指す。

 そして――激突。

 木刀が突っ込んでくるビアンカの脳天を撃った。

 手応えは――ある(ない)

 静寂。

 チリン。

 針が地面に落ちる。

 ビアンカも、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

「ビアンカ!」

 木刀をすてて、彼女を抱き留めた。

「大丈夫かビアンカ!」

「……」

「ビアンカ――んぐ!」

 肩を揺すって起こそうとした瞬間、唇に濡れた感触を覚えた。

 キス。

 ビアンカにキスされたと気づいたのは彼女の顔が離れた後の事だった。

「び、ビアンカ」

「ご迷惑をおかけしました、ルーカス様」

「迷惑なんかじゃない、それよりも大丈夫だったのか?」

「はい、もうなんともありませんわ。すっかり自分の体を取り戻しました。ルーカス様のおかげで」

 そういって自分の唇を人差し指でなぞるビアンカ。

「そうか、よかった」

「ルーカス様」

「うん?」

「三人目、必ず勝利を」

「――ああ!」

 ビアンカが自分の足で立てることを確認して、彼女に背を向けて先祖ヘリンの方を向く。

「これでいいのか?」

「やるじゃん、そうなるなんて思わなかった。あたしが操った人間を外部から断ち切ったのはがきんちょがはじめてだよ。なにをどうやったの?」

「期待に応えただけだ」

「へー」

「それよりも、三人目、出してもらおうか」

「ふふん、気が大きくなってるね。うんいいよ、そういう男のほうがあたしは好みだ」

「……」

「三人目は、あ・た・し」

 先祖ヘリンはどこからともなく短刀をとりだして、逆手で構えた。

 流れで予想していた三人目。

 先祖ヘリン、絶対に倒す。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ