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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第四章

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05.手作りの木刀

 朝、日が昇る前にいつもの習慣で起き出したおれ。

 部屋を出て、庭に立つ。

 日課の素振り……をやろうとしたんだが出来なかった。

 もう木刀はない。長年愛用してた武器はロミオ戦で爆発に巻き込まれて木っ端微塵になった。

 仕方ない、もう何十年もやってないけど、木刀じゃなくて鉄の剣を代わりに使って素振りするか。

 意味があるか分からないけど、日課を欠かすわけにはいかない。やらないよりはマシだ。

 おれはコツコツやるしか能がない。だったらやらなきゃ。

 そう思って、鉄の剣を取りに行こうとした。

 と思って一歩踏み出したが、そのまま足が止ってしまった。

 ……はて? 引っ越した後鉄の剣(と金棒)はどこにおいたっけな。

「ルーカス様」

 家の中からビアンカが現われた。

 夜明け前だというのに、彼女は日中と同じように、寝間着じゃなくてちゃんとした服を着ていた。

「ごめん、おこしちゃったか?」

「いいえ。ルーカス様にこれをお渡ししようと」

 そういって、彼女は一本の木刀を差し出してきた。

「これは?」

 受け取って、目を見張って彼女を見る。

「ヘリンから話を聞いて、急ぎこしらえました」

「こしらえたって……まさか作ったのか?」

「ルーカス様の手になじめば良いのですが」

 そう話すビアンカ。

 よくよく見れば目の下にクマが出来てる、白く細い手が微妙にあれてる。

 そしてこの木刀。徹夜して作ってくれたんだとすぐに分かった。

 じーん、と胸に来た。

 わざわざ作ってくれるなんて、なんていい(ひと)なんだ。

「ありがとうビアンカ、使わせてもらう」

「手にあわないなどがありましたらおっしゃって下さい。すぐに直しますので」

「いや、大丈夫だ」

 はっきり言い切った。

 ビアンカがせっかく作ってくれたものだ、大切に使わせてもらう。

 なじまないなんてあったら……なじむように自分の感覚を改造すれば良い。

 おれの感覚ほどあてにならないものはない、道具がなじまないものなら、自分の感覚か体を改造すれば良い。

 それだけのことだ。

「早速使わせてもらう」

「はい」

 木刀を握り締めて、構える。

 深呼吸を一つして、素振りをはじめる。

 一、二、三――。

 感触を確かめながら素振りする。最小限の(シャープな)動きを意識して素振りする。

 遅くなってはいけない、ビアンカの木刀を使って、もたもたする様な事になってはいけない。

 おれは一心不乱に素振りをした。

 ビアンカの木刀に感謝の気持ちを捧げながら素振りをつづけた。

 数を積み上げていって、やがてノルマの一万に到達する。

「ふう……」

 ちょっとだけ疲れた。

 いつもより遥かに真剣にやったから疲れてしまった。頬に汗がつー、と伝う。

 なんとか一万達成した、が。

 耳を澄ます、あるべき声が聞こえない。

「朝鳥の共鳴が聞こえない……くっ、遅かったか」

 下唇を噛んだ。

 いつもなら素振りが終わる頃にはアクリー名物・朝鳥の共鳴が聞こえる。

 朝鳥というのは、朝が来るのを告げるようになるから、朝鳥と名付けられた鳥の名前だ。そいつらはバラバラに鳴るんじゃなくて、綺麗に共鳴をする事で名物として知られてる――らしい。

 そいつらは決まって同じ時間で鳴る。

 春夏秋冬、一年中決まって同じ時間で。

 その正確さは、下手したら魔法時計以上だ。

 それが鳴ってない……新しい木刀でなじめずに手間取ってしまったのか。

 くっ……。

 仕方ない、明日からもっと頑張るしかない。

 頑張って、朝鳥が共鳴をはじめるまでに間に合わせるように。

 コツコツと、また努力するしかない。

「あら?」

 決意を固めた直後、ビアンカが家の中から出てきた。

 さっきとは違う服を着ていた。同じちゃんとした服だが、さっき――つまり徹夜して昨日のままの服とは違うもの。

 よく見たら目の下のクマも見えない。身だしなみを整えてきたんだな。

「もう終わりなんですか?」

「ああ」

 ビアンカをまともに見れなかった。

 新しい木刀をもらったのに素振りをもたついてしまった。まるで彼女を裏切ったような気分になってしまった。

「お早いのですね」

「いや、全然早く――」

 そう言おうとした直後――朝鳥が鳴った。

 アクリーのあっちこっちから鳴き声が上がった、鳥どもが一斉に共鳴し出した。

 ……え?

「朝鳥が……鳴った?」

「はい。ルーカス様はいつもこれくらいの時間に素振りを終わらせてますわよね。また一段とお早くなったのですわね。齢七十超えてなお成長するとは流石ルーカス様」

 にこりと微笑むビアンカ。

 えっと……つまり?

 遅いわけじゃなくて、早かったのか。

 朝鳥が鳴り終わったんじゃなくて、鳴り出す前に終わらせたのか。

 ……よかった。

 おれはかなりほっとした。

     ☆

 昼過ぎになって、家を出てジュリエットの屋敷に向かった。

 ビアンカが一緒についてきた。

 ヘリンは来なかった。

 誘ったが、「やる事があるのじゃ」といってどこかに行ってしまった。

「やることって何だろう」

「ヘリンの事ですか? 大事なことですわ、きっと」

「大事な事か。……危険な事をしなきゃいいんだが」

「危険な事、ですか? 騒ぎをではなくて?」

「騒ぎもそうだけど、おれといないと普通の女の子だろヘリンは。いつものノリとかクセで危険な事をしないといいんだが」

 心配だ、だっておれがそうだったから。

 ジュリエットの父親が来たとき、兵士に取り囲まれた時クセで木刀を持とうとした。

 腰にある木刀はもうないってのに、クセで手がそこに伸びた。

 人ってとっさの時は習慣で動くらしい。

 おれにとっての木刀がそれで、ヘリンだと……多分虐殺がそれだ。

 キレたらむかつくヤツを殺すとか思いそう。でもおれと離れてるから力が出ない。

 それで……やらかしそうな気がする。

 ああ……心配だ。

「大丈夫ですわ」

「ビアンカ?」

「彼女なら大丈夫ですわ。きっと」

「そうかな」

「ええ」

 はっきりと頷くビアンカ、なんか確信している、って感じにみえる。

 うん、まあ。ビアンカがそう言うんならそうなんだろう。

 というか下手の考え休むに似たりだ。頭の悪いおれが心配しても意味はないわな。

 おれはビアンカを信じる事にした。

 そうすると、今度は違う感情が芽生えてきた。

 横を歩くビアンカに対する感情が。

 背筋を伸ばして、上品なたたずまいでおれの横を歩く彼女。

 アクリーの街を一緒に歩く彼女を、通りすがる人々は――特に男達は二度見した。

 ビアンカをうっとりするような目で見て、その後おれをさげすんだり怒ったりするような目で見る。

 なんでこいつがこんないい女と歩いてるんだ、って目だ。

 そんないい女のビアンカが隣を空いてる。

 優越感と同時に、腕、組みたいって思った。

 というか組んでもいいよな。おれとビアンカの間柄だし、組んでもいいよな。

 うん、組もう。組んで――。

「ルーカス様」

「は、はひ!」

 思わず声が裏返った。考えてる事を見透かされた様な気がした。

「ち、ちがうぞ。おれは別に変なことを考えてない。というか変な事でも決してなくてむしろ普通の――」

「腕、組んでいただいても良いですか」

「ほえ?」

「こうして……ですわ」

 ビアンカはおれの腕をとって軽く曲げさせ、腰との間を輪っかみたいにして、自分の腕を通した。

 なんと彼女の方から腕を組んできた。

「こうしては……ダメでしょうか」

「そんなことない!」

 思わず大声が出た。

「そんなことない。むしろおれ、ビアンカを腕を組みたい。世界を敵に回してても組みたい!」

「ありがとうございます」

 ビアンカはそう言って、腕をくんで、体をくっつけてきた。

 温かい、柔らかい、いいにおいがする。

 はじめてじゃないのに、すごくドキドキする。

 ビアンカ……ビアンカ……ビアンカ!

 すごくドキドキして――興奮した。

 ここが街中じゃなかったら――くぅ。

 興奮する気持ちを抑えて、ジュリエットの屋敷に向かう。

「お力になれるようにがんばらなきゃ」

「ん? 今なんか言ったかビアンカ」

「いえ。ルーカス様は世界一素敵な殿方だと言ったのですわ」

「な、何を!?」

「お強くて、お優しくて、向上心があって、力をひけらかさない謙虚さも。全てを兼ね備えた希有な殿方ですわ」

「い、言い過ぎだ。おれはそんな大層なもんじゃ」

 顔が熱くなった、火を噴くかと思う位恥ずかしかった。

 ビアンカの言葉ですれ違ったおばちゃんが「あーら」と手で口を押さえてにやけた。

 恥ずかしいな、もう……。

 恥ずかしさも頑張って抑えて、更にジュリエットの屋敷に向かう。

「あっ」

 到着するなり、ジュリエットの姿が見えた。

 なんと、彼女は屋敷の中じゃなくて外に出ていた。

 鎧を身につけ、屋敷を出ておれを待っていた。そうしておれの姿を見るなり、敷地を出て駆け寄ってきた。

「ルーカス殿! お待ちしておりました」

「待たせてごめん」

「いえ。ご準備は整ったでしょうか」

「ああ。……そうだ、紹介するよ。この人、一緒に行ってくれる――」

「ビアンカ様……?」

「あら。もしかして、ジュリエットちゃん?」

「ほげ?」

 びっくりしあうする二人。

 紹介する前から名前を呼び合ってるってことは……。

 もしかして……二人は知りあいだった?
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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