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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第四章

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04.バトンタッチ

 夜、自宅の庭。

 家の規模にふさわしいちょっとした庭だ。広さはそこだけで前のあばら屋が三つくらいすっぽり入るかなりのもの。

 そこに出て、おれは空を見上げていた。

 綺麗だな、星。

 ……そういえば最後に星を見たのはいつだ?

 子供の頃、六十年くらい前に見た気がするけど、その後はこんな風に見あげた記憶がない。

 頑張って考える。うーん、やっぱりないな。

 まあ、いっか。

「昔と変わらないな」

「そうじゃな。わしのころもこのような星空だった」

「ヘリン」

 家の中からヘリンが出てきた、おれの横に立った。

「どこに行ってたんだ?」

「神殿に行ってきたのじゃ」

「神殿?」

「ローマンとクロケットと会ってきた」

「会ってきたって……」

「案ずるな。会ってきただけじゃ、と言うより見てきただけじゃな。何もしてやせん」

「何のために?」

「……ふっ」

 ヘリンはシニカルな笑みを浮かべて、何もいわなかった。

「やる事は決まったのか?」

 なんか話をそらされた気分だ。

「ああ、一応。試練の塔ってところに行くことになった。クムス王国代々伝わるしきたりで、そこに行かないと行けないらしい」

 ジュリエットから聞いた話をヘリンにそっくりそのまま伝えた。

 黙って聞いてた彼女は最後にニヤリと笑い。

「成程、その塔を砂にすればいいのじゃな?」

「やめてくれ!」

 流石にそれはまずい。ジュリエットを迎えるところの騒ぎじゃない。

「それが一番手っ取り早いと思うのじゃがな。試練などまだるっこしいだけじゃろ」

「ジュリエットは父親を尊敬してるらしいんだ。そんな事はできないよ」

「おーおー、お優しいことじゃな。我らがルーカス殿は」

「別に優しいとかじゃ――」

「たわけ。皮肉じゃ」

「お、おう」

 そうだったのか。

「まあよい、好きにやるといい」

「いいのか?」

「それをクリア出来れば貴様は晴れて王族の仲間入りなのじゃろ? それで少しはわしにふさわしい男になるというものじゃ。ならば文句はない」

「王族、か」

 王族になるってすごいことだよな。

 なんというか、王族ってのは働かなくても、毎日ごちそう食べて遊んで暮らしてるってイメージがある。

 ……すげえな、今のこの生活以上じゃないか。

 金があれば自由が手に入るって昨日知ったばかりだ、王族になったらますます自由になるじゃないか。

 頑張らないとな。

「しっかりやるのじゃ」

「ああ」

「貴様がもししくじって――そうじゃな、死にでもしたらその時どうなるか分かっているのだろうな」

「ど、どうなるんだ」

「当然、あの塔を砂にかえるのじゃ」

 にやりと笑うヘリン。

「ちょっと!?」

「当然じゃろ。自分のものを亡き者にされて黙っているほど寛大ではないのじゃ。当然腹いせに跡形もなく消し去るのじゃ」

「そ、そうか。いやでも」

 なんて言っていいのか分からなかった。今のヘリンの言い分もわかる。おれだってビアンカやヘリン、ジュリエットが誰かに殺されたらそいつをとても人には言えない様なやり方で殺すだろうから。

 かといって、なあ。

「ふっ」

 ヘリンはまたまた口の端を持ち上げてわらった。

「何を情けない顔をしているのじゃ。貴様が生きのびればいいだけじゃろ」

「……おお」

 そういえばそうだ。

「貴様が生きてさえいれば何もしないのじゃ」

「そうか。わかった。頑張って生きる」

「ならばよし、なのじゃ」

 ヘリンは満足げな顔をした。

 その顔はちょっと――いや大分綺麗だった。

 月明かりに照らし出されるヘリンの幼い、でも深みのある横顔。

 気づけば、それに見とれていた。

「どうしたのじゃ? わしをジロジロみて」

「え? あいや……その、そうだ!」

 いい訳を考えようとして、ある事を思い出した。

「これの事なんだが、この紋章」

 右手をあげて、手の甲をヘリンに見せる。

「これが光らなくなって、属性が元に戻ったんだ」

「ひかってるではないか」

「へ?」

「ほれ」

 ぐねっ、って手首をひねられて、甲の部分を自分に向けさせられた。

「いてててて、ちょっと優しく――って本当だ、光ってる」

 ジュリエットの屋敷にいる時は光らなかった右手の紋章が光ってる。

 前の時と変わらない光。

「どういうことだ? なんで光ってるんだ?」

「どういう事はこっちのセリフじゃ。説明せい」

 ジュリエットの屋敷での出来事を話した。

 紋章が沈黙して、減衰しかしない無属性に戻ったことを。

「ふむ、試してみようか」

「試す?」

「ほれ」

 ヘリンは庭にある木にむかっていって、枝を一本折って、おれに放り投げた。

 キャッチして、首をかしげる。

「木刀の変わりじゃ」

「何をするんだ?」

「いくぞ」

 ヘリンは分身して、襲いかかってきた!
 いきなりの事で慌てた。とっさに木の枝を握り直して、ヘリンの動きをじっと見る。

 速い! でも攻撃が見える。

 弓引いて突いてくる右手の手刀、風斬り音と共に上半身に四カ所の隙が見えた。

 それにあわせて、うち二つに先に動く(、、、、)カウンター。

 ぺしっ、ぺしっ。

 木の枝がヘリンに当たって、音を立てて折れてしまった。

 木刀じゃないただの木の枝だから当然だ、が。

「減衰しない……ヘリンの属性だ」

 手応えが無属性じゃなかった、紋章も光っていた。

「元のままなのじゃ」

「どういうことなんだ?」

「……こういうことなのかもしれんのじゃ」

「え?」

 ヘリンはすたすた歩いて、おれから距離を取った。

 二シャークの外、ヘリンが普通の幼女になってしまう距離。

 そこから出たヘリンが行ってきた。

「どうじゃ?」

「え? あっ、光が消えてる」

「これだとどうじゃ?」

 戻ってきて、更に聞く。

「光り出した」

「そういうことじゃな」

「……そういうことかあ」

 状況を一発で理解した。

 要はヘリンの力と同じで、この紋章、ヘリンの属性も彼女の二シャーク以内にいないと発揮しないらしい。

「わかりやすいのじゃ」

「わかりやすいけど、なんでこうなったんだ?」

「バトンを渡したからじゃろ。わしから、あの娘にな」

「……ばとん?」

 なんだかよく分からなかった。

「原因などどうでもいい、現状が分かればそれでいいのじゃ」

「……それもそうだな」

 そこはヘリンの言うとおり。原因を追及しても意味がない。

 ヘリンの二シャーク以内にいれば精霊属性、離れたら元の無属性になる。それだけ分かれば問題ない。

 本当にまったく問題ない。七十年間も無属性でやってきたからな。

「にしても……なんて男じゃ。奴ら二人の力を一部とはいえ吸収してきたというのに、それでもまだわしの上をいくとは」

 ヘリンが何故かぶつぶつつぶやいてた。

「なんか言ったか?」

「なんでもないのじゃ」

「いやでも今何か――」

 いうと、ヘリンはにこやかな――ちょっと切れてるようにみえる笑顔でおれのほっぺたをつねってきた。

「小僧は精霊の上を行くすごい男じゃから、試練にはついてってやらんといったのじゃ」

「いた、いたたたた。なんで今更。ってかすごい男ってそんな事ない――」

「す・ご・い、男じゃ」

「いたたたたた!」

 ヘリンはますますつねってきた。

 試練の塔に旅立つ前夜、上機嫌なのか不機嫌なのか分からない、ヘリンに一晩中ほっぺをつねられ続けたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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