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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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04.七十年越しの片思い

 生まれて初めて覚えた快感だ。
 強敵を倒した快感、力を振るって新たな結果を得た快感。
 立っていた位置よりも、一つ上のステージに上がったという快感。

 八割に減衰されたという感触は確かにあった。
 それでも力づくで抜いた(、、、)のだから、心がしびれるくらい嬉しかった。
 自分の力で成し遂げたというのも、快感をブーストさせる一因だ。

 数十年間地道に積み上げてきた自分の力とその結果に感動してると、ふと、衛兵がおれをじっと見つめてるのに気づく。
 さっきまでのびっくりした顔じゃなくて、疑問に思う不思議そうな顔で。

「どうしたんだ?」
「ああいえ、ちょっと不思議に思っただけです」
「不思議に?」
「ローマンをこんなに早く倒せる人がなんでローマンなんか討伐してるんだろう、って。クロケット討伐した方が報酬高いし、色々実入りがいいじゃないですか」
「なるほど」

 頷くおれ。
 それは当然の疑問だ。
 というかおれが昔ギルドに投げかけた疑問でもある。
 ヘリンを余裕で倒せるからローマンやらせろ、なんでやらせてくれないんだ。
 と。

 まあギルドの方針が「若い人に機会を優先的にあたえる」だったから、どうしようもなかっただが。
 その時に諦めた。
 諦めて、たいしておいしくもない、生活を維持するぎりぎりのヘリンの討伐を続けてた。

 そのヘリンもたまに駆け出しの子供を優先してやらせる事があったな。
 それはともかく。

 前はそうで諦めたが、今は違う。
 おれは若い、若返った。
 ローマンもクロケットも、ギルドの方針の「若い人」に今のおれは入ってる。
 言えば、やらせてくれるはずだ。
 ローマンを倒したんだから、クロケットもきっとやれる。

 クロケット。

 アクリーの街に長年鎮座している災厄。
 オリジナルの一割の強さでも、時々大けが人が出るほどの強さ。
 それがどんなものなのか気になる。

 今すぐにでも会いたい、やってみたい。
 まるで長年片思いしている相手に対する気持ちのようだ。
 それはともかく、衛兵にはごまかさないとな。
 えっと……。

「はじめてだったから勝手が分からなくてさ」
「そういえば初めて見る顔ですね。よそから引っ越してきたんですか」
「そんなところだ」
「それでしたら是非クロケットの方もやってください。強い人が倒してくれた方がこっちもありがたいです」
「なんで? きちっと倒せればどうでもよくないか?」
「精霊は毎日、決まった時間に復活するって知ってますか?」
「ああ……えっと、聞いてる」

 最後に付け加えてフォローする。
 アクリーの街の三精霊は朝晩に二回、決まった時間にオリジナルの一割の力で復活する。

 この街にいる人間なら誰でも知ってることだ。

「それでその時間はおれら警備も緊張する訳ですよ、誰かが討伐にきて、倒すまでの間は緊張が解けません。だから今日みたいにローマンを一瞬で倒してくれると、この後楽出来るんです。次の復活の時間までだらだらしてられるっていうか。決まった時間に復活する。これはもう数十年間変わらないことですから」
「なるほど」

 実際に数十年間ヘリンを倒してきたからそれはわかる。
 精霊は決まった時間にしか復活しない。復活するポイントから討伐完了するまでの時間が衛兵の実質仕事する時間帯だ。
 討伐が長引くのと短いのと、どっちがうれしいのかは、言われたらすぐに納得することだった。

「しかしうーん、ローマンはいいけど、ヘリンとクロケットがなあ……」

 衛兵は両横にある神殿を交互にみた。

「ヘリンとクロケットがどうかしたのか?」
「両方ともまだなんですよ。ヘリンは毎日あるじいさんがきてやるんだけど、今日はまだ来てないし。クロケットはクロケットでまだ来てないし」
「ああ……」

 ヘリンのじいさんはおれのことだな。
 数十年間おれがやり続けてきたから向こうも覚えてるんだな。

 ちなみに衛兵の名前を知らない、向こうもたぶん「じいさん」の名前をしらないだろうな。
 互いに顔見知りだけど名前は知らないちょっと面白い関係だ。

 それよりもヘリンだ。
 彼女はおれがずっと担当してきた、ギルドもすぐにほかの人間に依頼しないはずだ。
 だから、下手したら今日一日放置されるかもしれない。

 そうなるとこの衛兵がに迷惑がかかる。
 おれはちょっと考えて、提案した。

「よかったらおれがやろうか、ヘリン」
「いいんですか?」
「ローマンをやれればヘリンも楽勝だろ?」
「うーん、でもこの後にあのじいさんが来たらどうしよう」

 くるわけがない。
 おれ(じいさん)は死体になっておれの家に転がってるんだから。
 だけどそれはこの衛兵知らないからな。

「報酬はじいさんにやるよ。あれで生活してるからな」
「……」

 衛兵は首を傾げて不思議そうな顔をした。
 なんでそんな顔?

「じいさんの事を知ってるんですか?」
「えっ? ああギルドで聞いた話を今思いだしたんだ」
「なるほどそうですか。でしたらそれでお願いします」
「いいのか」
「倒したあと、報酬の分配でももめなければオーケーです」
「そりゃそうだ」

 そもそもの話が、早く倒して「仕事を減らす」ことだからな。もめ事さえなければ向こうは構わないんだろう。

 話がすんで、おれはヘリンの神殿に向かおうとしたその時。
 町の方から一人の男がやってきた。

 知ってる顔だ。
 燃え盛る炎の様な赤い髪、ロングソードを二本腰に下げてる若い男だ。
 アレクサンダーという、大げさな名前で呼ばれてるギルドの実力者。

「お疲れ様です」

 衛兵はアレクサンダーに敬礼した。そいつは軽くあごだけ引いて、クロケットの神殿に向かった。

 若い実力者で有名なヤツで、クロケット討伐の常連の一人だ。
 そうか、今日はアレクサンダーか。
 ……なんかちょっと嫌な記憶が蘇ってきた。

 前、さんざんこいつにイヤミを言われたっけな。
 思い出すのもいやだから、おれもとっととヘリンの神殿に入ろう。

「おい」

 振り向いた直後に呼ばれた。アレクサンダーだ。

「お前、ヘリンの討伐か」
「うん? ああ、そうだが」

 振り向き、アレクサンダーを見る。
 そいつはおれをジロジロと、まるで品定めのように見つめてきた。

「一つだけ忠告する。ヘリンは早めに抜けた方がいい」
「早めに抜けた方がいい? どういうことだ」
「この辺にルカカスってじいさんがいてな」

 ルーカスだよ。

「そいつはな、人生の大半をそのヘリンに費やしてきたんだ。その辺のガキでもその気になれば倒せるヘリンにな。何十年もな。つまらない人生だと思わないか?」
「……」
「ヘリンには先がない、だからとっととそこを抜けた方がいい」
「……わかった、肝に銘じておく」
「ふっ……」

 アレクサンダーは嫌な笑みを残して、クロケットの神殿に入っていった。
 なんか……腹立つやらへこむやらだな。

「あの、気にしないでくださいルカさん。あの人はああなんです」
「ああ?」
「多分また酒を飲んで女を抱いてきたんです。酒が抜けてない日だとあんな感じに口が悪くなるんです」
「へえ」

 確かにそうかもしれない。
 今まで何回か会話したことがある、ルーカスだった頃の記憶を掘り起こす。
 確かに嫌なことを言われるのって酒臭いときがほとんどだ。
 ……人間酒はいってるときの方が本性だから、嫌なヤツに変わりはないがな。

 気を取り直してヘリンの神殿に向かった。
 数十年間通いなれてきた場所、もはや実家の様な安心感すら覚える場所。
 さて、さくっと()ってくるか。

「アレクサンダーさん!」

 ふと、背後から衛兵の切羽詰まった声が聞こえた。
 振り向くと、今し方神殿に入ってたはずのアレクサンダーが入り口で倒れてて、衛兵が掛けよってそばにしゃがんでるのが見えた。
 アレクサンダーは血まみれで、よく見れば片腕がない。

「くっ……しくじった」
「一体どうしたんですかーーひぃ!」

 衛兵がすくみ上がって、女みたいな悲鳴を上げた。
 地面が揺れた。神殿がふるえて、屋根から建物のかけらがぼろぼろ落ちてきた。

「な、なんだこれは」
「クロケットの噛み付きを喰らったんだ。クロケットは噛み付きで人間の肉を食うと一時的にパワーアップするんだ」

 実際にやったことはないが、ギルドで何度も説明を受ける人間の横で聞いてきたから覚えている
 クロケットには噛みつき攻撃があって、人間の肉から魔力とかいろいろ補充して、自分の力にする攻撃がある。討伐失敗して死んでもかまわないけどそれだけは食らうな、死ぬときは外に出て死ねってギルドは討伐する人間によくそういう。

 それをアレクサンダーが食らった。
 腕が一本もってかれて、それでクロケットがパワーアップした。
 まったくはた迷惑な!
 衛兵は立ち上がって、パッと身を翻した。

「どうした」
「ギルドにいって救援を要請してきます」
「……まて」
「え?」

 走り出した衛兵が立ち止まり、おれを不思議そうに見つめる。
 おれは考えた。
 これは……チャンスなんじゃないのか?

「おれがやる」
「え?」
「なんとかする」
「いや、しかしパワーアップしたクロケット――」
「……任せろ」

 衛兵の制止を振り切って、おれは神殿の中に入った。
 自分の中で何かが変わったのを感じていた。
 今までになかったもの。
 力をふるいたくてたまらない。そんな気分。

 神殿の中は空気が荒れ狂っていた。
 ピリピリと肌に突き刺さってくるような空気。
 それの原因になったもの――精霊クロケット。
 ヘリンにもローマンとも違う、色っぽい大人の女って感じのヤツがそこにいた。

「こんな顔をしてたのか……」

 妙に感慨深かった。
 数十年間隣に通ってきたけど、実際に見るのは初めてだ。

 さて、感慨に浸ってる暇はない。
 おれは木刀にそっと手をかけた。
 しかけることは……出来ない。

 おれには先手を打つ力はない、それを出来る技も能力もない。
 出来るのは数十年間努力して身につけた、相手を先に動かせて後の先で反撃する方法。

 だから待った。
 クロケットの猛りが鎮まる、しかし空気は張り詰めたまま。
 その空気の中で、クロケットはおれをじろりと睨んで――襲いかかってきた。
 ――はやい!

 頭から突進しての噛み付きはローマンの十倍近く早かった。ヘリンに比べると二十倍以上だ。

 それに対処した。
 飛んでくるクロケットの右半身に三カ所の隙がある。どれだけ早かろうと決してカバー出来ないほどの隙。

 木刀を引き抜き、その一点に殴りつける。
 数十年間、毎日欠かさずやり遂げた一万回の素振り。
 それの集大成である一撃をクロケットの隙に叩き込んだ。

 インパクトの瞬間ーー力の減衰を感じる。
 無属性の人間だけが感じる、二割の力がどこへともなく消えてしまう切ない感触。
 攻撃が減衰した不思議な感覚の直後、今度はバターをナイフで切るような感覚。
 木刀は精霊クロケットを真っ二つにした。

 一撃で、一番凶悪な精霊を真っ向から打ち破った。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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