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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第四章

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03.すごい女

 ひとまず国王(と兵士達)が帰ったあと、ジュリエットと二人きりになった。

 ジュリエットは着替えて、昨日出会った時と同じ鎧姿になった。

 おれも綺麗な服に着替えさせてもらった。互いにさっぱりした二人、リビングの様なところに移動して、改めて向き合う。

 そこで、今一番気になってる事を聞いた。

「試練の塔っていうのはなんだ?」

「どう説明すればいいのか……」

 ジュリエットは困り顔になった。微かに首をかしげ、明後日の方を向いて考え込む。

「墓……いや祭壇か? 神殿の方が近いのか。むむむ……」

「なんかややっこしそうな場所だな」

 墓とか祭壇とか神殿とか、一体どういうところなんだ。

 その上名前が「試練の塔」と来たもんだ、なんか悪い予感しかしないぞ。

 悩んでたジュリエットがおれをまっすぐ見て、聞いてきた。

「ルーカス殿は、わがクムス王国は大陸最古の王国であることは知っているか?」

「ああ、常識だよな」

 即答する、ジュリエットは頷いた。

「そう、常識だ。現存するどの国よりも歴史のある国、クムス王国。当然、先祖の数も他の比ではない。その先祖の御霊がお戻りになられるのが試練の塔だ。亡くなった先祖がた、みまかった歴代の陛下達。その方々がぶらっとこの世にお戻りになる。その場所が試練の塔だ」

「……ってことは、その塔とやらにクムス王国の先祖の幽霊がうようよしてると?」

 ジュリエットははっきりと頷いた。げっ、そんな場所だったのかよ。

「それもあって、王室に関すること、特に国王の即位や新たに王室に加わる人間など、そういったことがあると当事者は試練の塔に赴き、先祖たちに認めてもらわなければならない、というしきたりが出来たのだ」

「一族の長老達に挨拶しにいくみたいなもんか」

 またはっきりと頷くジュリエット。

「行かないってのは……出来ないのか?」

「しきたりはしきたりなのだ」

 申し訳なさそうに眉をひそめるジュリエット。

「ルーカス殿が王族として――」

「そうじゃなくて。例えばさ」

 ジュリエットの言葉を遮る。

「おれが王族に加わるんじゃなくて、ジュリエットが平民になるって話になれば行かなくて済むんじゃないのか?」

 よくある話だ。平民と恋仲になった王族は放逐される。

「そういう場合『試練』の必要はないだろ?」

「……その通りだ。しかし」

「しかし?」

「わたしは父上を敬愛している。ルーカス殿が話したような不義理はできないのだ」

「……そっか。変な事言った悪い」

「いや! ルーカス殿が悪いわけではない。わたしのわがままなのだ。そ、それに!」

「うん?」

 なぜか慌て出すジュリエットを見る。

「父上と同じように、ルーカス殿を、その……お、お慕いしている」

「お、おう」

「父上に不義理は働けない、でもルーカス殿のものになりたい。……ああ、わたしは何というわがままを」

 今度はうなだれるジュリエット。結構忙しい子だな。

 そう思うと、彼女が途端に可愛く見えてきて、おれはくすっ、と笑った。

「ルーカス殿!?」

「わるい、何でもない。それよりもその試練の塔で何をすれば認めてもらえるんだ」

「行って頂けるのか!?」

「ああ。何をすればいい」

 もう一度同じ質問をした。ジュリエットは気を引き締めた表情で答えた。

「それはその時いる先祖の方次第だ。人によって違うし、その時の気分次第で違うこともあると言う話だ」

「なんてやっかいすぎる話だ。ジュリエットの時は何をしたんだ?」

「痛みをこらえろ、と」

「へ?」

 思わず間抜けな声をだしてしまった。

「10代前の王子、皮剥ぎ公と呼ばれた方がちょうどお戻りになられていたのだ。その方が生前と同じ事をするから、三日三晩痛みに耐えれば認めるとおっしゃってくださった」

「痛みを三日三晩? しかも皮剥ぎ公ってなんかものすごい名前だな」

「文字通り皮を剥ぐ痛みを与えられた。公は生前、人間を地面に埋めて、頭のてっぺんに切り傷を作り、薬剤をそこから流し込む刑罰を開発した。やられた人間はその薬剤が皮と肉を剥離させる」

「聞いただけでいたくなってくる」

 多分腕を自分でもいだ以上の痛みだろうな。

「実際に皮を剥いではないが、それと同等の痛みであったらしい。頭のてっぺんから順に足の裏まで、それが終わったらまた頭のてっぺんから……を繰り返した」

「……おいおい」

 それを三日三晩耐えろって、相手はとんでもないSだな。

「それをどうしたんだジュリエットは」

「耐えた」

 彼女はけろっと言った。

「耐えた? 皮を剥ぐ痛みを、三日三晩も?」

「そうだが?」

「そうだがって……」

「痛みなど耐えればいい、それだけのことではないか。公の試練は痛みだけ、体になんら損傷を与えるものではなかったしな」

 当たり前の事のように言い放つジュリエット。

 そういえば昨日戦ったときもそんな事いってたっけ。

 痛みなんて耐えればいい。

 そんな……単純な話なのかな。

 ……ちがうよなぁ。

     ☆

 ジュリエットの屋敷を離れ、自分の家に戻ってきた。

 建物の中に入るなり、ビアンカが出てきておれを出迎えた。

「お帰りなさいませ、ルーカス様」

「た、ただいま」

「お休みになられますか? それともお食事にいたしますか」

「えっと、その……」

 いつも通りのビアンカに対して、おれは盛大に口籠もった。

 戻ってくるまでの道すがらいろいろ考えたけど、うまい言葉が思いつかなかった。

 ジュリエットに対して「男の責任」をとる決意はしたが、それをどうビアンカに伝えて良いのか分からない。

 それで迷っていると――ビアンカの顔がいきなり顔の前に来た。

「――っ!」

 唇に伝う、濡れた感触。

 触れるだけの優しいキス。

「ビアンカ?」

「ルーカス様の唇は、やはり温かいですわ」

「へっ」

 アホみたいなほげぇってした顔になる。

「わたしはそんなルーカス様に惹かれてついてきました。ルーカス様が何をなさろうともついていきます」

「……ヘリンから何か聞いてるのか?」

 ジュリエットの屋敷で、ヘリンが先に帰った事を聞いた。

「いいえ、なにも。ただ先ほどのルーカス様が迷っている顔をしてらっしゃったので」

「迷ってる、か。いや、迷ってはないんだ」

「そうなのですか?」

「ああ、やる事は決まってる。それをどうキミに伝えればいいのか分からないだけだ」

「わたしのような女には」

 ビアンカはにこりと微笑んだ。

 魂を奪われそうな、優しくて素敵な微笑みだ。

「事実をそのまま話していただけるのが一番ありがたいですわ」

「事実を、そのまま?」

「はい。ついて行くと決意しましたので」

「それでいいのか?」

「もちろんですわ」

 にこりと微笑むビアンカ。

 本当に……いいのか?

 正直に話しても……。

 いや、話すしかないんだ。隠せる事じゃないし。

 おれは深呼吸して、まっすぐビアンカを見つめて。

「ジュリエットという子を、妻として迎えたい」

「はい」

 微笑むビアンカ、あっさり頷いた。

 そんなにあっさり……おれの悩みは何だったんだ?

 苦笑いを浮かべてしまう、さっきまでの悩みがアホらしくなってくる。

「お手伝いは必要でしょうか」

 そしてビアンカは怒るところか、こんなことまで聞いてきた。

 ……すごい(ひと)だ。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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