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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第三章

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12.バトンとリレー(第二章エピローグ)

「こうしてっ! こうしてっ! こうしてやるのじゃ!」

 八つ当たりとしか言いようが無い暴力がロミオの死体を襲う。

 おれのそばに戻ってきて、力を取り戻したヘリンが神速でロミオの死体を殴りつけた。

 血と肉片が飛び散り、飛び散ったものが攻撃で粉砕・蒸散させられる。

 一分もしないうちにロミオだったものが跡形もなく消し去られてしまった。

「すっきりしたか?」

「まだまだじゃが、これくらいで勘弁してやるのじゃ」

「もう跡形もなく消えてるんだけど。ちなみに簡便しなかったらなにがどうなるんだ?」

「小僧に八つ当たりじゃ」

 背中がぞくっとした。

 ヘリンのセリフの語尾はハートマークがついてそうな甘いものだったが、それ以上に強烈な殺気に背筋が凍った。

 未だにこういうことがよくある。ヘリンがおれの味方なのかどうか分からない様な、とんでもない殺気を突きつけてくることが。

 殺気の強烈さと言ったら、間違いなく他の相手に向けるものよりも強い。まるで彼女の親の敵にでもなったかのような錯覚を覚える程の殺気だ。

「頼むからやめてくれ」

「まっ、そっちも勘弁してやるのじゃ」

「そうか……ふう」

 気が抜けた、ようやく事が一段落して気が抜けて……目の前がちかちかして真っ白になった。

「小僧? おい大丈夫か小僧」

「ルーカス殿!?」

 女達の声が聞こえる、しかしその声も何故か急速に遠ざかる。

 ああ……これは知ってる。

 声が遠ざかってるんじゃなくて……おれの意識が……とお……。

     ☆

 目を開けるとそこは見知らぬ天井だった。

 真白い天井に馬の彫像、そしてきらびやかなシャンテリア。まったく見た事のない場所。

 体を起こしてみる、巨大なベットに寝かされてて、部屋の中には花瓶やら絵画やらがあっちこっちにある。床に敷かれてるじゅうたんまでもが刺繍いりで数百万ドーラしそうな高価なものだ。

 やっぱり知らない場所だ。

「ここは……どこだ?」

「ジュリエット王女の屋敷じゃ」

「うわ!」

 布団からニョキ、と顔を出してきたヘリンに盛大にびっくりした。

「へ、へりん。なんでそこに?」

「わしが一番安全な場所は小僧の傍らだからじゃが? 身を守るのはそこまでおかしいことか?」

「え? ああそうか、おれから離れると力なくなるんだよな」

 よく考えたらおかしくなかった。ヘリンはおれの二シャーク以内にいるのが一番安全なのだから、いても確かにおかしくない。

「ところで、ここはどこなんだ?」

「いったじゃろ? ジュリエット王女の屋敷じゃ」

「王女の屋敷」

「小僧をとりあえずここまで運んだのじゃ。治療のためにな」

「治療?」

「右腕」

 ちょんちょん、って感じでおれの右腕を指すヘリン。そこに目を向けると――見事なまでになかった。

「おお、ない」

「ちぎれたままじゃからのう。あれはもうだせんのか?」

「あれって……ああ、あれか」

 光の腕。

 ロミオと戦ったときに、無我夢中でなんか出した精霊光の腕。

「やってみる。うーん……むむむ……」

「なにがむむむじゃ、出来ぬのなら素直にいうのじゃ」

 ぺしって頭をはたかれた。

「あっ、できた」

「なに?」

 驚くヘリン。あの時の光の腕がでた、が。

「消えたのじゃ。一瞬だけじゃったな」

「む、むむむ……」

 更に力んでみたが、今度は出なかった。

「だめだ、もう出ない」

「ふむ、出そうと思って出せるものではないようじゃな」

「そうみたいだ」

「ならばやはり、治療せねばならんな」

「さっきから治療って言ってるけど、どうするんだ? たしか腕そのものは……」

 戦いを思い出す、ちぎって武器にしたおれの腕は爆破されて跡形も残ってない。

 というか、残ってたらヘリンが縫い合わせてくれてるはずだよな。

 それが出来ないのに、何をどう治療するんだ?

 そんな疑問を抱えて、ヘリンを見ていると、彼女はにやりと口角をゆがめた。

「ついてくるのじゃ」

     ☆

 ヘリンにつれて来られたのは屋敷にある別の部屋だった。

 さっきの部屋よりも更に豪華な部屋で、入った瞬間その豪華さに圧倒されそうだ。

 そこに彼女がいた。

 真新しい鎧で身を包み、背筋をぴんと伸ばしてる窓の外を眺めている。

 ジュリエット。敵としてであって、一応は助けてやった女だ。

「ルーカス殿。お体はもう大丈夫か」

「ああ、こういうのはもう慣れたから大丈夫。そっち大丈夫なのか?」

 敵同士だったときおれがさんざん木刀で叩いたからだ。

「問題ない、痛みなど我慢すればいいだけだ」

「そういうものなのか」

「何をいう」

 ヘリンが呆れたため息をつく。

「小僧も同じ事を抜かしておったではないか。ほれ、戦いの中でじゃ」

「え? そんな事言ったっけおれ」

 目を見開いて、ヘリンをみて、ジュリエットを見る。

 ヘリンは呆れた顔をして、ジュリエットは真顔で頷いた。

 そんな事いったのか、おれ。

 まあでも、おれの事はともかく、ジュリエットは大丈夫そうでよかった。

 そのジュリエットはおれにむかって、深々と頭をさげた。

「申し訳ない、ロミオとのことで、関係のない貴殿を巻き込んでしまった」

「気にしてないから大丈夫だ。やりとりを聞いてたらそっちも被害者ではめられた側だって分かるからさ」

「しかし、巻き込んだのは事実。それに……貴殿の腕」

「ああ、これか」

 たしかに腕をなくしたのは痛い。

「なんとわびれば良いのか」

「それも気にしなくて――」

「いや。何かさせてくれないか。なくなった腕に対して償いに値することが出来るとは思えないが、それでも何か償いをさせてくれ」

「いや――」

「ジュリエット・アン・クムスの名にかけて、出来る事はすべてやるつもりだ。なんでも言ってくれ」

 参ったな。別にそんなのはいいんだが。

「なあヘリン、お前からも何かいってくれ」

「その件で来たのじゃ。貴様に治療の手助けをしてもらおうとな。小僧の右腕を元に戻す方法が一つだけあるのじゃ」

「そんなのあるのか!?」

 おれは盛大に驚いた。そしてジュリエットはそれに食いついた。

「わたしにできることなのか? 言ってくれ、なんでもする」

「うむ、今なんでもするといったな?」

「ああ、なんでもする!」

 はっきりと頷くジュリエット。その顔は出会った時と同じように凜々しく、意志の固さが見て取れた。

「よろしい。ならば小僧に純潔を差し出すのじゃ」

「承知した」

「……はい? いや待て待て。なに言ってるんだヘリン。それにそっちも、承知したじゃないだろ」

「わしは本気じゃ」

「いやお前のもくろみは分かるよ? あれだろ? もう自分を産んでそれで腕を再生したらいいって話だろ? だけどそれは絶対出来るって証拠が――」

「ある」

「え?」

「確証ならあるのじゃ。ふふ、これはもうリレーじゃな。ビアンカめ、あの時この確信を持っていたから、あそこまで強くいいきったのじゃな」

「どういう……ことだ?」

 リレー? 確信?

 ヘリンが何を言ってるのか理解できない。

 出来ないけど、彼女が本気で言ってることだけはわかった。

「ともかく、それで小僧の腕が治るのじゃ。つべこべいうな、やるのじゃ」

「いや、しかし……いいのか?」

 おそるおそるジュリエットを見る。

「問題ない。ジュリエット・アン・クムスの名に誓って、必ずやルーカス殿の腕を治してご覧に入れる」

 ジュリエットは意気込んでいた。

 本当に……いいのか?

 こんなことで、王女様の純潔を奪ったりして。

「わたしでは……不服なのだろうか」

「え?」

「このような無骨な女では役不足なのだろうか。もしそうなら条件を言ってくれたら、それにあう女をあつめて――」

「いやいやそんな事はない。むしろ逆。いい女だと思った。最初はあれだったけど、出自とかしって、親近感沸いたし、普通に綺麗だと思った!」

「あ、ありがとう……」

 ぽっと頬を染めるジュリエット……ますます綺麗だと思った。

「では、問題ないのじゃ。わしは外にでている。しっかりとやるのじゃ」

 ヘリンはそういって、言葉通り部屋から出て行った。

 残されたおれとジュリエット、ちょっと微妙な空気になった。

 本当に……いいのか。

「小僧」

「うわ!」

 出て行ったはずのヘリンがドアをあけて、顔だけ出してきた。

「女に恥をかかせたら承知しないのじゃ」

 といって、今度こそ出て行った。

「……」

「……」

「……」

「……」

「る、ルーカス殿」

 おれの名前を呼ぶジュリエット。よく見たら手が震えている。

 ……そうか、恥をかかしたらダメだよな。

「なあ」

「な、なんだろうか」

「キミの名は……なんだ?」

「え?」

「ジュリエット・アン・クムス。それは王女としての名前なんだろ? 王女になる前は? 抱く子の本当の名前を知りたい」

「あっ」

 はっとして、ジュリエットが答える。

「ジュリエットだ……です。ジュリエットだけが元の名前なのです」

 口調もやわらかくなった。

「そうか。ジュリエット」

 ジュリエット嬢に近づき、残った左腕で抱き寄せた。

「今だけ、恋人だと思っていいか?」

「は、はい!」

「ジュリエット」

 名前を呼んで、キスをした。

 柔らかい唇、強ばる体。

 緊張してるのが明らかなジュリエット嬢に、言葉が自然と口から出た。

「キミの唇、温かいな」

「唇が?」

「ああ、唇が温かい人間は心も温かいって聞く。キミはきっと心も温かい人間なんだろうな」

 受け売りだが、今のシチュエーションにふさわしい言葉だと思った。

「そんな事言われたの……初めてだ」

「もう一回キスして良いか?」

「はい……」

 目を閉じて、顔を上げるジュリエット。

 その体は、さっきまでとちがって、すっかりとほぐれていた。

 そんな彼女にキスをして、ゆっくりと、服を脱がせていったのだった。
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