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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第三章

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08.お姫様を守れ

「ヘリン!?」

「ヘリン殺しだって……」

「あいつが今噂の……?」

 兵士達がざわつきだした。ヘリン殺しというワードに反応して、何人かはバケモノを見るような目でおれを見た。

 その間、当のヘリンはと言えばするりとおれの前に出て、体を翻して腰に抱きつき、しがみついてきた。

 ちらっと見えた顔は満足げだった。何でだ?

「静まれ」

 ジュリエットが一言、静かにいい放った。

 怒鳴ったわけでもなく、がなり立てたわけでもない。

 ただ静かに、そう言い放っただけ。

 なのに、兵士達は静まりかえった。ざわざわっていいあって恐怖までしていたのが、一気に静まりかえって、全員がキリッとした顔つきに戻った。

「おー、見事な統率力じゃな。若いのにやるのじゃ」

 ヘリンは感心していた。

 おれはといえば……ちょっとだけ嫉妬した。

 ジュリエットが輝いて見えた。

 こういう若い才能を見てるとどうしても嫉妬してしまう。

 なんというか、おれの七十年を何日間かで追い抜いていっちゃう才能には毎回嫉妬する。

 並んでるのは向こうが出始めたころ、こっちが勝ってる時期なんて一つもない。

 あーもう、才能っていいな、ちくしょう。

 とと、いじけてる場合じゃなかった。

 しがみついてくるヘリンを気持ちかばいつつ、木刀を構えて先端をジュリエットに向ける。

「そなたは、本当にあのルーカスか」

 更なる一戦を免れないと覚悟していたが、まさかの問答開始で拍子抜けした。

 気を抜かず、ジュリエットに返事をする。

「ああ」

「問おう。何故そのルーカスがアーロン・クスクロに加担する」

「加担してない。こっちもやり合ってる最中だ。というか、見て分かるだろ。ここに来るまでさんざん倒したんだから」

 そう、そこがそもそもおかしかった。

 この部屋に到達するまでさんざんクスクロ組の構成員を倒した。

 それを見ればクスクロに対抗する勢力がもう一つはあると考えるのは確かだ。

 なのに、ジュリエットは問答無用でおれとクスクロをひとまとめにした。

 それが分からない、分からなかったが。

「倒した?」

 ジュリエットは眉をひそめた。

「クスクロの構成員だ、さんざん抵抗されて、そいつらを倒してここまでたどりついたんだ」

「そんなの、どこにもなかったぞ」

「え?」

「この部屋にたどりつくまで、誰一人として出会っていない」

「なん、だって?」

 どういう事だ。

「だれもいなかったのか?」

「そうだ」

「殿下、そういえば気になる事が」

 兵士の一人が口を開く。

「なんだ」

「壁や道に新しめの血痕がありました」

「そうだ、何人か血を吐いてたぞ」

 木刀だから攻撃したところから出血することはあまりないが、血を吐いて壁とか床に飛び散っていた。

 それが残ったんだ。

「確認してこい、血痕の近くに隠し部屋、それに類するものがないかも調べてこい」

「はっ!」

 ジュリエットの命令で兵士達が動き出す。

 とりあえず敵意は残ったままだが、すぐに戦闘になるような状況じゃなくなった。

 おれはほっとした、その時。

「殿下!」

 今し方出て行った兵士が戻ってきた。

「どうした?」

「か、階段が」

「階段?」

「階段が落とされてます」

「なに!?」

 ジュリエットの形のいい眉がキツくゆがんだ。

 階段が落とされたって、どういう事だ。

 次の瞬間、それ以上の事が起きた。

 どかーん、という音とともに建物が傾いた。

 その場にいる全員がバランスを崩す。

「くっ」

「大丈夫かヘリン」

「大丈夫じゃ。まったく忌々しいのじゃ、これほどくっついているのに力が出せないなど」

「全然でないのか」

「か弱き乙女モードじゃな」

 わざとらしくおどけていうヘリン、でもその顔は不快感にあふれていた。

 更に次の瞬間、ドカーンって爆発音がもう一度した。

 建物が更に揺れて。

「小僧、天井が崩れる」

「むっ」

「避けろ」

「――打ち落とす!」

 天井が崩れて、がれきが落ちてくる。

 ヘリンは避けろといったが、おれにそんな器用な真似なんて出来ない。

 代わりに木刀を握り締めた。崩落してくるがれきに真っ向から木刀をたたきつけた。

 がれきを粉砕して、おれとヘリンの安全を確保する。

「ぐあああ!」

「がふっ」

 一方で兵たちの悲鳴が聞こえる。落ちてくるがれきに当たって、下敷きになる兵が続出した。

「はあああ!」

 ジュリエットは大剣を振って、おれと同じように真っ向からがれきに立ち向かった。

 一つ払ったが、二つ目で剣がバキン、と音を立てて折れてしまった。

 剣を捨てて、今度は肉体でがれきに立ち向かう。

 その光景は――嫌なものだった。

 勇ましい姫騎士だが、その体つきはどちらかといえば華奢なほうだ。今すぐドレスに着替えれば完璧なお姫様に変身するほど。

 そして今は鎧もぼろぼろ、あっちこっちが傷を負ってて痛ましい感じ。

 それでがれきに立ち向かうのは、見てていやな気分になるもの。

「何をするのじゃ小僧」

「しがみついてろ」

 驚くヘリンを引き連れてジュリエットとの距離を詰めた。

「何をする」

「おれがやる」

「わたしに構うな」

「黙ってろ!」

 ジュリエットの肩をつかんで、無理矢理しゃがませた。

 そうして木刀を振った。

 落ちてくる大小様々ながれきを木刀で払う。

 重さ、そして密度。

 がれきの一つ一つがまるで強力な冒険者の攻撃のようだった。

 少なくとも、さっきまで戦っていたジュリエット以上。

 それに払った、砕いた、全力で塞いだ。

「わたしも――」

「大人しくしているの、じゃ」

「止めるな、こんな――」

「わしの男の見せ場をじゃまするな、なのじゃ」

 下で何かごちゃごちゃやってたが、気にする余裕はなかった。

 崩落が続き、足元も少しずつ崩れていった。

 それを気にしながら、二人の女に害を及ばさないように必死に木刀を振る。

 一心不乱に振って、がれきを打ち払って。

 気づけば、完全に崩落した廃墟に立っていた。

「な、なんという……」

「まあ、及第点じゃな」

 呆然するジュリエット、何故か更に強くしがみついてくるヘリン。

 二人は無傷だったから、とりあえずほっとした。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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