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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第三章

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07.痛みは我慢すればどうということはない

 部屋の中にますます兵士がなだれ込んできた。

 部屋の主、アーロンは抵抗する事なく、捕縛され、つれて行かれた。

「どうするのじゃ?」

「どうするだって」

「小僧と一緒なら多少のアクシデントもデート気分じゃが」

「おれと一緒……あっ」

 そういうことか。

 おれのそば二シャーク以内にいる限り、ヘリンはアクリーを壊滅寸前まで追い込んだ精霊ヘリンの力を振るうことが出来る。

 そんなヘリンからすれば目の前の敵なんてものの数じゃない。余裕と軽口はそこから来てるんだ。

 だが、そうは言っても。

「つかまりたくない」

「ま、それもそうじゃな」

「逃げよう」

「うむ。来た道を引き返すのじゃ」

 とりあえず正面突破で血路を開く、そう思ったのとほぼ同じころ、ジュリエットが手のひらをかざして、兵士達に命令した。

「殺すな、捕縛しろ」

「「「はっ!」」」

 兵士達が綺麗に揃えた、訓練を感じさせる返事をして、一斉にこっちに向かってきた。

 それに反応したのはヘリンだった。

「ふっ。この程度の人数でわしを止めようなど、笑止なのじゃ」

 腰を落とし、飛びかかろうとした。

 ピターン。

 直後、彼女は顔から地面に突っ込んだ。

 真面目な現場に突如起きたコントの様なワンシーン。

 場は一瞬だけ、沈黙に支配された。

「あいたたた……なにがどうなってるのじゃ!」

 起き上がって、鼻をさすりながら涙目でおれをにらみつけるヘリン。

「い、いや、おれは何も」

「何もしないでこうなるわけがないじゃろ!」

「そんな事言われても……」

 本当に何もしてないし、心当たりすらない。

 そんな風に困っていると。

「なるほど、場不相応な幼子だと思っていたら、使い魔の類だったのか」

「なんじゃと!?」

「この建物は結界の支配下にある。協力、共鳴、連携。そう言った類の能力・魔法を一切合切遮断する結界だ。この結界の中では全て個人の能力しか振るうことが出来ない。使い魔は主人とのつながりをたたれて、力の全てを失う」

「なっ……」

 絶句するヘリン、おれも同じようなもんだ。

 力のつながりをたつ結界って、そんなものがあるのか。

 だが、それは効果的だ。

 おれとヘリンは同じおれから生まれた双子の兄妹的な関係性で、彼女はおれの二シャーク以内でのみ力を発揮することが出来る。

 使い魔とかじゃないけど、何かしらのつながりがあるのは確かだ。

 そしてそれをたたれると彼女はただの女の子になるのも納得。

「ジョブ」

「はっ」

 兵士の一人がジュリエットに応じた。

「まずは捕縛、隔離しろ」

「はっ! 全員、かかれ!」

 ジュリエットの命令を受けて、兵士・ジョブは更に部下に号令をかけた。

 合計五人、兵士が綺麗に揃った動きでヘリンに迫る。

 相手が幼女に見えても油断はしない、という現れか。

 だが。

「幼い子供によってたかって!」

 その光景は吐き気がするものだった。

 両者の間に割って入って、矛先を向ける兵士の槍を一瞬で全部叩き落とした。

 そのまま流れでヘリンの腕をつかんで背中に隠し、彼女をかばう。

「小僧」

「毛一本もふれさせない」

「……言ったな」

「ああ」

 力強く頷く。さっきの様な光景を見るくらいならかばって死んだ方がマシだ。

 兵士は取り落とした槍を拾って、さっと陣形を組んでおれ達を取り囲む。

「かかってこい」

 この程度の人数、カウンターで打ち倒してそのまま正面突破してやる。

「下がれ」

 後ろからジュリエットの命令が聞こえて、兵士達は警戒したまま下がった。

 代わりにジュリエットが前に進み出た。

「降伏しろ。今なら身の安全を保証してやる」

「断る」

「そうか。ならばやむを得ない」

 ジュリエットは腰間の剣を抜き放った。

 肉厚で無骨な、大剣に近い一振りだ。

 それを構え、踏み込んで振り下ろしてくる。

「はっ!」

 攻撃を見極めて、先に動くカウンター。

 木刀がしたたかにジュリエットの手首を打つ。手応えあり――。

「なっ!」

 驚愕する、ジュリエットにまるできいていないようだった。

 手応えは確かにあったが、ジュリエットはまったく気にした様子なく、そのまま剣を振り下ろしてきた。

 慌ててヘリンをかばって横っ飛び、剣を躱す。

 息をつくまもなく、すぐ様次の攻撃が飛んできた。

 直線的な切っ先の軌道、隙がはっきり見える。

 隙の一つ、体の中央――両乳の真ん中に木刀の突きを叩き込む。

「またか!?」

 確かに手応えがあった。しかしジュリエットは同じように前進して、今度は剣を横薙ぎに振った。

 床を蹴って飛び下がる。ヘリン共々壁に背中を打ち付ける。

 ジュリエットは更に進んでくる、一歩、一歩とどっしりした歩で進んでくる。

 進んで、斬撃を繰り出してくる。

 それに会わせてカウンターカウンターまたカウンターと、隙に急所に木刀を叩き込むが、手応えに反して、ジュリエットは一切堪える様子を見せない。

 むしろ。

「喰らいながら反撃しているのじゃ」

「まさか! 全部クリーンヒットしてるぞ。木刀だからすごくいたいはずだ」

「痛みなど」

 ジュリエットが口を開く。

「痛みなど、ガマンすればどうと言うことはない」

 と、言い放った。

 え? ええ? えええええ?

 いやいや、痛みは我慢すればどうと言うことはないって、そんな理屈あるかよ!
「小僧の攻撃は死ぬほど痛いはずじゃぞ……」

 つぶやくヘリン、実際それで死んだ者だからか、セリフに実感がこもってる。

「では死ぬほどガマンすれば問題はない!」

「お、おう……」

 ヘリンが絶句していた。

 すごい、ヘリンを絶句させた。

 ――って関心してる場合じゃない。

 ジュリエットが進む、おれは反撃してヘリンをかばいながら下がる。

 ものすごい奇妙な光景だ、手応えがあるのに、きいてる気がしない。

 気づけば壁際に追い込まれた。

 まったく効いてないのか? いやそんな事はない。

 よく見れば、ジュリエットの鎧はぼろぼろだ。

 露出して見える素肌は血がにじんだり、アザが出来たりしてる。

 きいてるんだ、少なくとも肉体的には。

 それでも、彼女は顔色一つ変えない。

 痛みなど我慢すればどうと言うことはないと宣言した通りに、ガマンして前進して、攻撃しておれを追い詰めようとする。

 そして、おれたちは追い詰められた。

 部屋の角に、ヘリンと二人で。

「終わったな。殿下は今まで敵を逃したことはない」

「例えどんだ敵であっても、どんなに不利な戦場であっても」

「王者の歩みで前進を続け、決して後退することなく敵を追い詰める」

 兵士達の声が聞こえた。

 セリフには、絶大な信頼が寄せられている。

 姫騎士ジュリエット・アン・クムスに寄せる信頼を強く感じる。

 実際、ぼろぼろに見える一方で、彼女の姿は「威風堂々」に見える。

 憧れすら覚えてくるほどだ。

 それに比べると……おれは……。

 結局ダメなんだ。

 何十年頑張ったって、結局女の子一人守れやしない。

 才能の前じゃ、結局。

「はああああ!」

 ジュリエットが剣を振り上げた。

 鈍色の電光が弧を描いて穿ってくる。

 綺麗だ、とすら思った。

 これが才能の剣か……はあ、もういいや。

 死を覚悟した、最後がこんなに綺麗な斬撃ならまあいっか。

 そう思った、次の瞬間。

 ざわざわざわ。

 部屋の中がどよめいた。

 どうしたんだ? いきなりざわざわして。

 気をしっかり持って、状況を確認。

 ざわざわしてるのは兵士達だった。

 なんで?

 更によく見れば、ジュリエットは上半身をのけぞらせていた。いやそれだけじゃない、右足が一歩、あきらかに後ずさったあとがみえた。

 それをさせたのは――おれ?

 おれの右手がまっすぐ突き出す木刀が、状況的に彼女を後退させた。

 ……なんで?

 パシッ、後頭部をはたかれた。

「まったく、遅いのじゃ」

 はたいてきたのはヘリンだった。

「な、なにが?」

「今までもったいぶりおって、さっさとその技を出してれば楽に勝てたのじゃ」

「わざ?」

 よく分からない、おれが何かしたのか?

 思い出そうと試みる。

 ジュリエットの斬撃が飛んできた、投げやりになったおれは木刀を無造作に突き出した。

 無造作な動き、無駄の無い動きの一撃。

 ……あれか!?

「ぼさっとするな。次が来るのじゃ」

「むっ」

 ジュリエットの斬撃がまた飛んでくる。今度は意識してカウンターを放つ。

 無駄の無い、最小限のに絞った動きでの刺突。

「くっ!」

 呻いてのけぞり、回避するジュリエット。

 無理矢理な動きで、また、一歩下がってしまう形になった。

 それに、兵士達が更に動揺する。

「殿下が……後退を!?」

 ざわざわが大きくなる、動揺が波のように広がっていく。

 そんな中、苦虫をかみつぶした様な顔のジュリエットがおれを見る。

「貴殿は……何者だ」

「おれ? おれはルーカス――」

 名乗った瞬間、後ろからスネを蹴られた。

 ヘリンがジト目でおれを睨んで、もう一度蹴ってきた。

 ああ、そうだ。

 おれは深呼吸して、ジュリエットに向き直って、宣言する。

「おれは、ヘリン殺しのルーカスだ」

 ヘリンは満足げな顔をして、兵士からこの日一番のざわめきが起きた。
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