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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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03.一撃必殺

 力は示した、これで仕事をもらえるだろう。
 おれはエステルの方に向き直った。

「ヘリンの討伐があるよな。それを」
「ヘリン? とんでもないです! ルカさんならローマンかクリケットいけると思います!」

 いつの間にかフレンドリー通り越して敬語になったエステル。
 っていうか、クロケット?

 アクリーの街には大昔に封印された三体の精霊がいる。
 ヘリンと、ローマンと、クロケットだ。
 街に伝わる伝承だと、三体は大地から生まれて、人間を襲い辺り一帯を滅ぼしかけた。

 大地の力を得て生まれた三体の精霊はほぼ無限に再生する、不死身の様な存在だ。
 人々は困り果てた、この地を離れるって話がでたくらいだ。

 それを救ったのが余所からやってきた流れの賢者だった。
 精霊を倒す事は出来なかったけど、賢者は同じく大地の力を借りて、三体の精霊を封印した。

 その封印はしかし完全なものじゃない。
 毎日に二回ずつ、オリジナルの一割の力を持つ分身が封印から漏れて、顕現してくる。

 これはいくつかの説があって、最近の主流は精霊の力が高まって完全に封印から抜け出すのを防ぐから少しずつ漏れるようにして、毎日ちょっとずつ削るという説だ。
 毎日ちょっとずつなら大地が持つ復原力と相殺するし、人間側も何とか倒せるからの苦肉の策……といわれてる。

 とにかく、毎日二回封印から精霊の力が漏れ出る。
 一回ごとオリジナルの一割、それは一カ所に集まって、元の姿に戻ろうとする。
 つまり5日間放置したら完全体になって復活してしまう、その時封印もとけてしまう。

 そうなったらアクリーの街は昔と同じ末路をたどってしまう……ってことで、毎日二回、精霊の分身の討伐がされてきた。

 話は戻る、精霊の強さはヘリン、ローマン、クロケットの順だ。
 その強さに合わせて、ギルドがふさわしい人材を派遣して、毎日きっちり討伐してきた。
 おれは今まで毎日ヘリンを討伐してきた。
 三体の中で一番弱くて、かつオリジナルの一割程度のヘリンは正直たいしたことない。

 ちなみにおれは三十歳で討伐出来る様になった……素質がないんだからしょうがない。
 その上のローマンとクロケットも勝てるかもしれないが、やらせてもらったことはない。

 それはこのギルドのマスターでの方針のせいだ。
 同じことできそうな人間が複数いたら、できるだけ若者にチャンスをあげるって考えだ。
 というのもヘリンにはないが、ローマンとクロケットをうまく討伐すると、精霊の力が凝縮した精粋をゲットすることが出来る。
 それを使って儀式を行えば精霊の力をちょっとだけ得て強くなることができる。

 基本倒した人間が好きにするものだから、若者に出来るだけチャンスをやるってことだ。
 ローマンを倒せるかもしれないくらいの修行を積み上げたのは五十歳を越えてからのこと。
 金棒を全力で振れるようになったころだ。
 年齢で見ると立派な初老だから、ローマン討伐はやらせてもらえなかった。

 ちなみにヘリンはいくら倒しても精霊の精粋になることはない。代わりにヘリンの肉――という名前で呼ばれてる錠剤サイズのものが落ちる。
 このヘリンの肉は、食ったらその一粒だけで三日間は腹が減らないという効果がある。

 収入の少ないおれにとって、食費が節約できるから、それはそれでありがたかった。
 ま、それはともかく。

 今までずっとそれをやってきたから、今日もヘリン討伐をやろうと思ってエステルにいった。

「是非ローマンをうけてください! 今日のローマンのローマンの枠ちょうどあいてますし」
「いいのか?」
「もちろんです。強い人にやってもらった方がいいに決まってます。弱い人が無理して討伐いって負けたか殺されたら後始末が大変ですが、ルカさんくらい強ければ問題ないです!」
「いやでも、それは若者にやらせた方がよくないか?」
「え……? やだなあ、ルカさんまだまだお若いじゃないですか」
「……あ」

 クスクス笑うエステル、それで主出した。

 そうだ、おれは若いんだ。というか若返ったんだ。
 若返ったばかりだから、自覚とか全然なかった。

     ☆

 アクリーの東外れにある三つの神殿。
 流れの賢者オリバー・ローリーが精霊を封印するために建てた神殿。

 ここにヘリン、ローマン、クロケットが封印されてる。
 おれは数十年間通ってきたヘリンの神殿じゃなくて、ローマンの方に向かって行った。

 一人の衛兵が立っていた。
 衛兵はおれを見るなり槍を構え、誰何(すいか)してきた。

「止まれ! 何者だ」
「ルカっていう。これが手形だ」

 ギルドからもらってきた手形を衛兵に見せた。
 精霊討伐を依頼された人間の証である。
 正直これを使うのは数十年ぶりだ。

 ヘリンの時、数十年にわたっておれがやっていたから、手形は一応もらってるけど向こうの衛兵には顔パスのような感じだった。
 ローマン神殿の衛兵は手形を確認して、槍を下ろした。

「失礼しました! どうぞお通りください!」

 衛兵の横をとおって神殿の中に入った。
 さて、初めて入るローマンの神殿だ。
 中は……ヘリンとほとんど同じだった。

 高い天井、等間隔に建てられてる装飾付きの柱。
 地面には魔法陣があって、それが一定間隔で明滅を繰り返している。
 魔法陣の色も形も、果ては明滅する間隔もヘリンと同じ。

 ちょっと肩すかしだ。数十年間こっそり中をみたいと思ってたローマンの神殿はヘリンとほとんど変わりない事にちょっとがっくり来た。
 ほしかったものがいざ手に入ると価値がなくなって色あせるとか言われるけど、これはそれとは違う。
 完全におなじじゃ、失望の一つもしようというもんだ。
 まあ、いい。

 おれは少し待った。
 しばらくしてその時がやってきた。
 魔法陣の明滅の間隔が短くなっていく。
 赤い光が徐々に水のように魔法陣から漏れだして、一つにあつまっていく。

 これもヘリンと一緒だ。精霊の力が具現化する直前の現象。
 この後赤い光があつまって、幼い女の子の姿をした精霊になるはずだ。
 もうちょっと待つと、目の前に精霊が現れた。

 ヘリンとちょっと違った。
 ヘリンが幼女の姿で、ここの(ローマン)のが十代の若い少女って感じだ。
 さっきまでの失望がまとめて吹っ飛んだ。違うものをみて、数十年ごしの片思いが報われたそんな気がした。

 同時に期待も生まれる。
 ヘリンが幼女、ローマンが少女、ならクロケットは?
 いつかそっちも見てみたいものだ。
 ま、それはともかく。

 深呼吸した。
 少女は幼女と同じ、神殿の異物(おれ)を見つけて、怖い顔をした。
 戦闘開始。

 おれは才能がない。

 剣術を覚えられなかったし、何十年戦いの中に身を投じても先読みの技術は身につかなかった。
 だから発想を変えた。

 相手が動いた後に先手を取ればいいんだと。

 流石にそこまでバカじゃない、見えてるものは理解できる。
 相手がどんな動きをしてくるのかをしっかりみて、それよりも速く動けばいい。
 えっと……なんだっけ、たしか昔なんか言われたっけ。

 そうだ、後の先だ。

 おれは、それだけを磨いてきた。

 木刀を抜き、ローマンをじっと見つめる。
 何をしてきてもいいように、じっと見つめる。
 ローマンが飛び込んできて、右手があがって、左手が弧を描く。
 弧を描いた後に一瞬、左半身に隙ができた。
 隙が消える前に木刀を振った。

 狙い澄まして、ピンポイントにそこを狙った。
 木刀がローマンの体にめり込む。
 なれた感触が手に伝わる。
 不遇の物理属性、インパクトの瞬間二割の力がどこかに消えてしまうという切ない感触。

 人生において、この感触ばかりを味わってきた。どんな相手に攻撃しても八割の効果しか出せないでいた。
 今も同じ、若返ってもやっぱり八割の効果のまま。

 だが。

「ーー!」

 文字では形容出来ない声、ローマンの断末魔が聞こえた。
 驚くおれ、目の前の出来事を信じられないでいた。
 木刀はそのままローマンの体をえぐり――少女の姿をした精霊が消滅した。

 一撃? 一撃で倒したのか?

 あのローマンを?
 夢か? いやそうじゃない。
 その証拠に、ローマンが消えたそこに赤い宝石のようなものが浮かんでいる。
 見た事がある、見せびらかされた事がある。

 ローマンの力の精粋。

 精霊を倒したという、動かない証拠。
 それをつかんで、半ば呆然となったまま神殿をでる。

「どうしました? 精霊がそろそろ復活する時間です――って、それはローマンの精粋!」

 衛兵が驚愕した。

「もう倒してしまったんですか!?」
「あ、ああ……どうやらそうみたいだ」

 おれは驚いた、まだ自分がやったことを受け入れられない。

「復活の時間になったばかりだ……もしかして一撃で?」

 衛兵も、ものすごく驚いていた。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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