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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第三章

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05.壊滅するしかない

 この日は朝からギルドに来て、昼まで粘った。

 ローマンもクロケットも今日の討伐は先に埋まってて、他に仕事もない状況だった。

 これ以上粘っても何も変わらなさそうだったから、昼の鐘になったのをきっかけにギルドを離れた。

「なんだろうな、この鐘を聞くとコトゥジュース飲みたくなるよな」

「幼年学校の昼飯で毎日絶対出てくるからなあ、コトゥジュース」

 おれの前を二人の青年が通り過ぎていく。

 懐かしいな、コトゥジュース。

 コトゥってのはアクリーからちょっと離れたってところにある村の名産品で、コトゥって果物を搾っただけのジュースだ。

 それが幼年学校の昼の給食に必ずって言っていいほど出てくるもんだから、昼に街全体でなる鐘を聞くとついそれを思い出す。

 おれが子供の頃もそうだったけど、いまのそうなんだな。

「というかこっちまで飲みたくなってきた。久しぶりに飲むか」

 どうせやる事ないんだし、コトゥジュース売ってる店を探すことにした。

 学校で絶対でる割りには、取り扱ってる店は少なかった。商店街を三十分近くさまよって、ようやく売ってる店を見つける事ができた。

 商店街の隅っこにあるこじんまりした店で、店先にコトゥそのものがぶら下がってる。

「いっぱいください」

「はーい。200ドーラになります」

 店をやってるのは、二十代後半かな? 口調がはきはきしてる女の人だった。

「うん?」

「どうしたんですかお客さん」

「いや……あなた、どこかであったことありません?」

「やだ、ナンパですか? 今どきそういうやり方流行りませんよ?」

 パシって背中をはたかれた。いやそうじゃないんだが……。

「思い出した。あなたガヤ亭の看板娘さんだったよな。名前はたしか――」

「ああ、そういうことですか」

 女主人はにこりと笑った。うん、やっぱりそうだ。

 ガヤ亭というのはこの商店街の反対側にある料理屋で、肉のみを出す結構有名な店だ。

 何年か前におれの肉ブームが来てたとき、三ヶ月に一回の贅沢で通ったことがある。

「バベットよ。あの頃のお客さん?」

「ああ」

 即座に頷く。

「去年結婚して、いまは夫とこの店をやってるんだ。よかったらこれからこっちもひいきしてくださいね」

「ああ」

「はい、200ドーラ」

「おっとそうだ」

 慌てて小銭を取り出して、コップいっぱいのコトゥジュースをもらう。

「中に椅子があるから、良かったら飲んでって、もっと良かったらお代わりしてって」

 にこりとするバベット。笑顔の華やかさは昔とまったく変わらない。

 何千ドーラ分か飲んで言ってもいいかも、って気分になる。

 おれは店の中にはいり、椅子に座ってゆっくるジュースを飲んだ。ふと、店の隅っこに一人の男がいることに気づいた。

 男はエプロンをしていて、青白い顔をして、何か手元で書き物をしている。

「いらっしゃい」

 目が合うと、ほとんど聞き取れない様な声で言われた。

 ふむ、旦那さんなのか。なんかちょっと頼りない気がするな。

 ジュースを一杯飲んで、200ドーラを差し出しながら言った。

「ちょっと待ってください」

 男はコップを受け取り、もたもたする手つきでそれを洗った。

 うーん、やっぱりちょっと頼りない。

 と、思ったのはそれまでだった。

 コップを置いて、コトゥを取り出した瞬間、その動きは一変した。

 ナイフで皮を剥いて、種を取って、絞り器に入れて絞って、コップに注いで泡をとる。

 その一連の動きが――決して速くない、むしろ遅いくらいなのに、まったくと言っていい程無駄がなかった。

「どうぞ」

「……」

「どうぞ?」

「あ、ああ。ありがとう。すごい慣れてるんですね」

 コップを受け取りつつ、世間話のていで聞いた。

「子供の頃からこれだけやってきたから」

 男は照れくさそうに言った。「他に何も出来ないし」と付け加えた。

 なんというか、どこかで見たような男だった。

 何となく親近感を覚えたから、その後更にもういっぱいお代わりしてから店をでた。

     ☆

 何となく商店街をぶらつく。

 適当にぶらついて、何かビアンカ……ついでにヘリンにお土産でも買っていってやろうかな。

 何だったらさっきの店にもどってコトゥジュースを買ってってもいいかもしれない。ヘリンはともかく、ビアンカも懐かしく思うはずだ。

 そう思って、適当にぶらぶらしてると。

「いい加減つきまとわないでください」

 ふと、言い争いの声が耳に入ってきた。

 立ち止まって、きょろきょろ。まわりの注目も集めてるから、みんなの視線ですぐにそれを見つけられた。

 道ばたで、一人の女が二人の男の囲まれている。

 男達はどこからどう見ても筋モンで、まあそういう商売をしてる連中だ。

 女は――ってバベットじゃないか。

 ついさっき店で再開ってほどのもんじゃないけどしたバベットだった。

「こっちもさあ、わるい条件を出してるってわけじゃねんだ、な、わかるだろ」

「むしろ好条件だと思うんだぜえ? それに正当だ。こっちは金をだす、そっちは店を売る。ちゃーんと役所で証書も交わすぜ。なーんの問題もないだろ」

「いくら言われても店は売りません。主人がそう言ってるんですから」

 ふむ。

 どうやらあの店を売れと迫ってるらしいな。

 話を聞くに、バベット達は売りたくないが、男達は――筋モンはそれを迫ってるらしい。

 なるほどな。

「だんなさんの意見なんて聞く必要はねえよ」

「そうそう、あの間抜けで無能なだんなさんの意見なんてさ。奥さんがはなしを進めればいいんだ。店をうって、大金を手にすればいい生活も出来るし、旦那さんも喜ぶにきまってらあ」

「いまのままじゃあの土地宝の持ち腐れだ。それにわかるだろ、あのムノーな旦那さんじゃ一生かかってもこの額を稼げや――」

 パン。

 乾いた音が響き渡った。

 男が最後まで言う前に、バベットが右手を振り抜いたのだ。

 ビンタを喰らった男、こめかみがひくつく。

 それ以上に、バベットが怒っていた。

「消えて! もう話す事は何もないわ」

「……いいだな、奥さん」

「突っぱねてると後悔する事になるぜ」

「消えて!」

 バベットがもう一度いって、男の二人はペッ、とツバを吐き捨てて去っていった。

 二人がいなくなった後、バベットは深呼吸して、手を押さえて、それから笑顔を作り直して、店の方角に向かって歩き出した。

 さっきジュースを飲んだ店を思い出した。

 ちょっとだけとろくさかったご主人、しかしコトゥをさばく手つきはものすごく手慣れてて、本当にそれだけをやってきたという感じ。

 それを支える、気丈な元看板娘の奥さん。

 なんか、どこかで見たような事のある二人だ。

 そしてそれを脅す筋モン二人、店を無理矢理買おうとする脅し。

 なんか……。

「腹立つか?」

「うわ!」

 いきなり横から話しかけられて、盛大にびっくりした。

「へ、ヘリン。いつからそこに?」

「一部始終見ておったのじゃ。腹立つのか?」

「え、あ、ああ」

「ふむ。奴らがどこの連中なのはわかるか?」

「ズボンにクスクロのエンブレムがあった、クスクロ組の連中だろう」

「それの上のヤツの弱みは?」

「……知らない」

 いつも通り弱みを握って脅して解決しろって事だろうが、残念ながら筋モンといままで接点がなくて、そういうのはまるで心当たりがない。

「なら、仕方ない」

「仕方ない?」

「力づくで解決するしかないようじゃな」

 そう話すヘリンだが、すごくすごく楽しそうにみえた。
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