挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第三章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

28/75

04.桁が変わりもしない!

 クロケットの神殿。

 空気が震え、力が空間から漏れ出し、一点に集結する。

 ピリピリと肌をさす空気、オリジナルの一割でも、ヘリンに勝るとも劣らない程の殺気と、底知れぬ憎悪と悪意。

 人の形になって――咆吼。

 ちょっとでも気の弱い人間ならそれだけでショック死しかねない程の咆吼。

 直後、クロケットがこっちを向いた。

 黒い瞳がまっすぐこっちをとらえ、ゆらりと動き出す。

 じっくり見て、攻撃が繰り出される瞬間、左半身に三カ所、技の隙を見つける。

 すかさず木刀を抜く。

 見てから動く、先に動くカウンター(、、、、、、、、、)

 木刀を隙の一つ、人なら急所になる額の真ん中に叩き込んだ。

 木刀はクリーンヒット、手応え充分。

 右手の紋章が淡く光る。

 未だ慣れない、減衰無しの精霊属性の攻撃。

 攻撃が全て(とお)り、復活したばかりのクロケットが雲散霧消する。

 一仕事、終わり。

     ☆

「お疲れ様です♪」

 神殿の外から入ってきたエステル嬢は、一直線におれのところに駆け寄ってきた。

「エステル嬢。来てたのか」

「はい! だってわたし、ルカさんのファンですから♪」

「ファン?」

「ルカさん、ルカさんのファンクラブを作っても良いですか?

「はいい!?」

 なんじゃそりゃ。

 ファンクラブって、あのファンクラブだよな。

 歌手とか役者とか第二王子あたりとかに出来るあのファンクラブの事だよな。

「あっ! もちろんルカさんには迷惑はかけません。こうして討伐するのを見に来るだけですし、たまに感想を聞かせてくれるだけで良いですから」

「いやまあ……それだけで良いのなら好きにしたらいいけど。にしたってファンクラブって……」

 なんかよく分からないなあ、近頃の若い女の子が考える事は。

 まあ、おれとエステル嬢だと祖父と孫娘くらい年が離れてるから、分からなくて当然だけど。

 え? ビアンカも孫娘くらいだろうけどいいのかって?

 ……。

 …………。

 ………………。

 いいんだよ、細かいことはよ。

「しかしすごいですルカさん。まるでクロケットの動きを予知してるみたい。ルカさんが置いた木刀に向こうが勝手に当たっていくんだもん」

 そういう風に見えるのか。

 そうだな、そうかもな。

 例えばじゃんけんがあって、向こうの動きをみて「あっこいつは途中でチョキに変えるな」とグーをしておくと、まるで予知してるように見える感じだ。

 実際はおれが後に動いてるんだけどな。

「そうだ、ルカさんは――」

「あー」

 おれは頭をボリボリ掻いて、言った。

「そのルカさんってのはもうやめてくれ」

「え?」

「これからはルーカスって呼んでくれ。ヘリン殺しのルーカス、そう名乗ることにしたから」

 ヘリンとの約束、とっさにつけたルカって偽名じゃ締まらないからな。

 エステル嬢は一瞬きょとんとした。もしかしてあの「ルカカス」と結びついたかな? とも思ったが。

「はい! わかりました! ヘリン殺しのルーカス、かっこいいですね!」

 と笑顔でいった。取り越し苦労だったみたいだ。

 それからエステル嬢と雑談しつつ一緒にギルドに戻って、クロケット討伐の10万ドーラを受け取った。

「それで、他に何か仕事はないか?」

「急ぎですか?」

「そうじゃないけど、ビアンカにいい生活をさせてあげたくてね」

 そのためにも稼がなきゃらならない。

「ほえ……男の鏡です、ルーカスさん。うーん、それなら明日ですね、急ぎじゃなかったら、色々まとめておきますよ?」

「そうか、よろしく頼む」

「はい! そだ、それとルーカスさんの方で募集する事も出来ますよ?」

「募集?」

「はい、あれ」

 エステル嬢が白魚のような指でギルドの反対側の壁を指した。

「ああ、そっか」

 言われて、気づく。

「そうです、自薦ボード。あそこに自分の情報と得意な事をかいて、依頼主が直接依頼しに行くような事もあるんですよ」

 にこりと微笑むエステル嬢。

 これもいままでおれに縁のなかったシステムだったから、ずっと意識の外にあったんだが、冒険者が依頼を選ぶように、依頼主が冒険者を選ぶという事もある。

 通常はギルドに依頼を話して、ギルド側が振り分けるのだが、中にはあまり詳細を明るみにだせないような依頼もあって、そういう時は依頼ボードから自薦する冒険者の中で適任の物を選んで秘密裏にコンタクトを取る。

 そっか、それもあったっけな。

 うん、収入は多い方がいい、これもやっとこう。

「エステル嬢、用紙をくれないか」

「はい♪」

 もらった紙とちょっとにらめっこして、いくつかだけシンプルに書き込む。

 名前:ヘリン殺しのルーカス
 得意:戦闘
 属性:無属性、ヘリン属性
 備考:どんな敵とも戦う
 かなり簡単になった。他の紙を見ると、みんな色々アピールしてるが、自分の事をどうアピールしたらいいのか
 最後のヘリン属性は精霊属性って書いて消した。

 ヘリンの属性がなんなのか分からないから、迷って、とりあえずこうした。

「ヘリン属性、ですか?」

「ヘリンを殺して手に入れた」

「すごいですルーカスさん!」

 エステル嬢には大いに喜んでもらえた。

     ☆

 本日二度目のクロケットをさくっと討伐して、ギルドに戻ってきて同じくエステル嬢から報酬を受け取った。

 日当20万ドーラか。

 毎日これなら文句はないんだが、残念ながらクロケットは他の冒険者もやるから定収入に数えるのは厳しい。

 やっぱり他の収入をはやく見つけないとな。

「ありがとうエステル嬢、また明日な」

「はい♪」

「おっと」

 金が入った袋が勢い余って体にぶつかる。ちょっと痛い。

「大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ。いてて」

「えっと、そういえばルーカスさん、ルーカスさんは口座とか持ってますか? 持ってたらそっちに直接振り込むので、便利ですよ?」

「口座か」

 五十年くらい前だったかな? とある大商人があるサービスをはじめた。

 その商人は世界中の各地に商会の分店を持ってて、ある分店に金を預けると、その手形で他の分店から金を引き出すことが出来た。

 多少の手数料は取るが、大金の移動がものすごく便利だって事で、他の商人、特に行商人達がこぞって利用した。

 それが少し形を変えて、商人以外の人間も使うようになった、主に、「金を守れる力がない一般人」が。

 金を預ければ、その金は小さい手形になる。

 現物が小さければ小さいほど外敵から守りやすいのはどんな物でも一緒だ。

 最初はとある庶民が必死に頼んで保管してもらったのを、徐々に一般的になって、いまや誰もが普通に金を預けるようになった。

 それが口座だが、おれは使ってない。

 いや、いままでその日暮らしだったからな、貯金できる程の金は余ってなかったのよ。

「口座か、作っとくよ」

「はい!」

     ☆

 アクリーの町中心部にある、ホメーロス商会。

 二本の剣と闇属性のエンブレムを掲げた建物の中に入る。

「いらっしゃい、今日はどのようなご用で?」

 無愛想な店主がおれを出迎える。

 エプロンを着けた、ハゲで太ってる中年の男だ。

 正直商会の人間と言うより市場の肉屋って言った方がとおる風貌だ。

「口座を作りたい」

「はいよ」

 やる気なさげに、一枚の紙が差し出された。

「名前、住所、属性、最初に魔力紋をおして」

「魔力紋?」

「そこに四角の枠があるだろ? そこに属性の載せた指先でトンと叩くだけ。本人だって証明する仕組みだ」

「へえ」

 そういうのがあるんだ。ハイカラだな。

 おれは言われたとおりすべて記入して、全財産を預けた。

 そうして手帳みたいなのを渡された。

 中を見ると、360万って書かれていた。

 それがおれの全財産。

 ……ちょっとピンとこない。

 これって多いのか、少ないのか?

 実物じゃないと分からないなあ。

「すまない、十万ドーラだけ戻してもらえないか」

「ん」

 男は無愛想なまま、いったん手帳を取り上げてから、それと十万ドーラをおれにわたした。

 手帳の中は350万ドーラになった。そしておれの手元に現金十万。

 この十万は、クロケット討伐の十万というつもりじゃない。

 ヘリン討伐。

 毎日コツコツやって、一ヶ月ヘリンを倒し続けての報酬が十万ドーラだった。

 つまり、おれの不遇時代の一ヶ月の稼ぎ。

 それを引き出しても、口座の数字は大して変わらない。

 桁が変わりもしない!

 十万ドーラでなにが出来るのか考えた。

 なんでも出来る! 何せちょっと前までは一ヶ月の稼ぎそのものだ。

 それをだしてもびくともしない財産、後ろ盾。

 これなら……なんでも出来る。

 おれは、少しずつ金と自由の話を理解しているのかもしれなかった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ